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王童監督の新作が上映『対風説愛你』

 

文・写真=井上俊彦

中国の映画興行は、一時の低迷期を経て現在では庶民の娯楽としてますます人気が高まっています。2014年には300億元近い興行収入を記録し、急成長するマーケットは内外から注目を集めており、国産映画も最新技術や海外の才能を取り入れるなど、さまざまな試みを繰り返しながら、観客に喜ばれる作品づくりに努力しています。そうして出来上がった作品は、従来からの中国映画ファンを楽しませるだけでなく、広く中国に関心を持つ日本人にも中国理解の大きなヒントを提供してくれています。そこで、このコラムでは筆者が実際に映画館で見た作品の面白さや、中国の観客の反応、関連の話題などをご紹介していきたいと思います。ご参考になれば幸いです。

 

日本映画週間10周年で上海に

前回ご紹介した『哆啦A夢:伴我同行』ですが、その後5億元を突破する大ヒットになりました。日本を上回る興行収入となったことが日本でも大きく報道されていましたが、ここでひとつご紹介しておきたいことがあります。日本の報道では「日本映画としては3年ぶりの公開」であることが強調されていました。それは間違ってはいないのですが、実は昨年だけでもアニメの『聡明的一休哥之反闘公主』(一休さん)、行定勲監督の『深夜前的五分鐘』(真夜中の五分前)が劇場公開されています。これらは合作により中国映画として公開されたため日本映画にカウントされていませんが、かなりの部分で日本映画と言えるでしょう。つまり、難しい時期にあってもさまざまな形で日本映画を上映しようとしてきた両国関係者がいるということです。

スケジュール表にはチケット完売を意味する「満」の字も多い

映画祭らしく華やいだムードの上海影城ロビー

 

そんな関係者の努力が一つの節目を迎えるということで、先週末は上海に飛びました。上海国際映画祭の正式イベントとして行われてきた日本映画週間が今年10周年となったのです。この10年間の映画を取り巻く状況には本当にいろいろな曲折がありました。その中で一度も中断することなく日本映画週間を続けてくるには、相当な苦労があったと思います。この間に上映された作品は100本以上になり、まとまった数の日本映画を楽しめる貴重な機会として、毎年多くのファンを集めています。今年も7本が上映されましたが、ほとんどの回次が発売即完売でした。また、高倉健の記念上映もあり、こちらも旧作にもかかわらず「一票難求」(チケット入手困難)と言われました。

日本映画週間に関するレポートはニュースの方でご覧いただくとして、ここでは上海国際映画祭で私が特に注目した『対風説我愛你』についてレポートします。実は、金爵賞ノミネート作品として一般公開に先駆けて上映されたのです。最後列でしたがなんとかチケットをゲットし、上海の映画ファンとともに楽しみました。

街角には映画祭を告知するフラッグも見られた 日本映画週間関連イベント「映画の旅」が行われた上海高島屋百貨前にはキャラクターのディスプレーも置かれ、記念撮影をする人も見られた

 

王童監督作品が大陸部で先行公開

これは台湾地区のベテラン監督王童が久々にメガホンを取った作品で、早くから注目を集めていました。物語で描かれているのは、1949年前後の混乱の中で台湾地区に渡った人々の数奇な運命です。

国共内戦の年、戦闘で傷を負った盛鵬(トニー・ヤン)は、小范(ジョージ・フー)らとともに保護した子どもを連れて台湾地区に向かいます。上陸後に除隊した彼らはまともな仕事にもありつけず苦労します。そんな折、盛鵬は船で知り合った邱香(グォ・ビーティン)と再会し、お互いに気持を通わせていきますが、大陸部に妻子を残してきた彼は一歩を踏み出せず時は流れていきます。やがて、妹の邱梅(アンバー・クォ)のはからいもあって二人はついにともに歩む決心をしますが、まさにその時、姉妹の父親が事件に巻き込まれます……。

舞台挨拶に登場した王童監督、グォ・ビーティン、リー・シャオチュアン(左から)

同監督の代表作『バナナパラダイス』などと同じで、激動の時代の流れにほんろうされる人々と愛情を誇張の少ない落ち着いた画面で描いています。淡々とした物語ですが、上海の観客はよく笑い、よく静まりかえり、よく鼻をかんでいました。以前の同監督の作品と比べると、会話場面が多くより饒舌になったように思えます。そして、時代の流れを受けて物語が次の世代にまでまたがっています。そんな新しい時代を代表するように、主な出演者は現在両岸で人気のアイドルたちで、主人公のトニー・ヤンはテレビドラマなどで大陸部でも知名度が上がっていますし、グォ・ビーティン、アンバー・クォは『小時代』などの映画作品で若者の人気を集めています。

これまで大陸部で公開された同様のテーマを扱った作品では、大陸部に残して来た家族との再会が描かれることが多かったと思いますが、この作品ではそれはなく、主人公の台湾地区での経験が物語の中心です。そして、もうひとつご紹介しておきたいのは、この作品が台湾地区に先駆けて大陸部で6月26日から劇場公開されるということです。この点からも、これまでと大きく時代が変わったことを感じます。

 

【データ】

対風説愛你(Where the Wind Settles)

監督:ワン・トン(王童)

キャスト:トニー・ヤン(楊祐寧)、グォ・ビーティン(郭碧婷)、アンバー・クォ(郭采潔)、ジョージ・フー(胡宇威)、リー・シャオチュアン(李暁川)

時間・ジャンル: 120分/ドラマ・愛情・歴史

公開日:2015年6月26日

 

 映画祭メーン会場の上海影城

日本映画週間のオープニングセレモニーが行われたSFC上影(新衡山路店)

 

SFC上影(上海影城店)

所在地:上海市長寧区新華路160号

電話:021- 62806088

アクセス:地下鉄10・11号線交通大学駅5口を出て淮海西路を西へ、新華路を右に入り直進、徒歩5分

 

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。

1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。

現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

  

人民中国インターネット版 2015年6月17日

 

 

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