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ハリウッド攻略!『横衝直撞好莱塢』

 

文・写真=井上俊彦

中国の映画興行は、一時の低迷期を経て現在では庶民の娯楽としてますます人気が高まっています。2014年には300億元近い興行収入を記録し、急成長するマーケットは内外から注目を集めており、国産映画も最新技術や海外の才能を取り入れるなど、さまざまな試みを繰り返しながら、観客に喜ばれる作品づくりに努力しています。そうして出来上がった作品は、従来からの中国映画ファンを楽しませるだけでなく、広く中国に関心を持つ日本人にも中国理解の大きなヒントを提供してくれています。そこで、このコラムでは筆者が実際に映画館で見た作品の面白さや、中国の観客の反応、関連の話題などをご紹介していきたいと思います。ご参考になれば幸いです。

 

豪華すぎる今年の夏休みラインナップ!

多くの学校がこの週末から実質的に夏休みに入りましたが、この夏休みは映画界も一斉に期待の新作を公開します。すでにハリウッド映画『ジュラシック・ワールド』が12億元を上回るヒットになっているほか、国産映画ではアクションの『殺破狼2』が人気を集めています。この作品では10年前の『1』では悪役だったウー・ジン(呉京)が主演になっていますが、実はこのところ中国国内での彼の人気は高く、5月に公開された主演作『戦狼』も大ヒットしました。

さて、この夏休み興行の特色を紹介しておきましょう。まず、いわゆる巨匠の作品が続きます。7月3日からはチェン・カイコー(陳凱歌)監督の新作『道士下山』、イー・トンシン(爾冬陞)監督の『我是路人甲』が公開されますし、ホウ・シャオシエン(侯孝賢)監督の『刺客聶隠娘』(黒衣の刺客)も夏休み中の日公開予定となっています。さらに、単独の作品としては十数年ぶりとなるリンゴ・ラム(林嶺東)監督の『謎城』や、ジョン・ウー(呉宇森)監督の大作『太平輪:彼岸』も出番を待っています。

また、グオ・ジンミン(郭敬明)監督のシリーズ最終作『小時代4:霊魂尽頭』、人気司会者ホー・ジョン(何炅)が監督する『栀子花开』など青春映画にも強力な作品がそろっています。女優ファンにはタン・ウェイ(湯唯)が主演する『命中注定』、『三城記』の2作、ワン・ルオダン(王珞丹)がオタク探偵に扮する『宅女偵探桂香』などがあります。歴史を扱ったものでは、ファン・ビンビン(范冰冰)主演の『王朝的女人:楊貴妃』。さらには、『西遊記之大聖帰来』や『捉妖記』などのアニメや特撮ものにも期待作が並びます。そのほか、紹介しきれないほどたくさんの作品が公開予定となっています。

 

天幕新彩雲国際影城は今年3月末に開業した、7ホール1100席以上を持つ大型シネコンで、最も大きいホールは700人を収容する 天幕新彩雲国際影城は映像制作会社の敷地内にオープンしたシネコンのため、入口はちょっといかめしい感じだが気にしなくても大丈夫

 

 

ハリウッド式ギャグを中国はどう見たか?!

そんな中で、この週末にまず公開されたのが『横衝直撞好莱塢』(Hollywood Adventures)です。ヴィッキー・チャオ、ホアン・シャオミン、トン・ダーウェイという人気俳優が共演し、中国人がハリウッドでトラブルに巻き込まれるドタバタ・コメディーになっています。

突然彼女から「アメリカで映画の仕事をするから別れる」と言われた小明(ホアン・シャオミン)は、彼女を追ってアメリカに行くことを決意しますが、春節時期で飛行機のチケットがありません。仕方なくハリウッド観光のパッケージ・ツアーに申し込みますが、飛行機では謎の映画オタク大為(トン・ダーウェイ)と隣席になります。そして、現地で薇薇(ヴィッキー・チャオ)がアテンドするツアーに合流しますが、このツアーに入ったことで彼は大変なトラブルに巻き込まれていきます……。

アメリカ人監督がハリウッドを舞台に撮影しているだけに、中国コメディーとはかなり質の違うギャグが多く見られました。評論家のみさなんは典型的な“アメリカン”ギャグがお気に召さなかったのか、評判はすこぶる悪いようですが、私はけっこう楽しめました。ストーリーはいささか単純ですが、アメリカ映画定番のギャグが次々と登場し、「ほら来た」とつい笑ってしまうのです。それから、派手なアクションには一部CGも使われていますが、カー・スタントなどさすがハリウッドという迫力です。

ハリウッド映画好きなら、3人が逃亡する中で見られる名所や街角に、「あ、あの映画で見たことある!」と楽しかったはずです。「見たことある!」は景色だけではありません。さまざまなハリウッド・スターが出演するのもお楽しみの一つです。『マイティ・ソー』などで知られるカット・デニングスが大為の女神として登場するほか、『ターミネーター』のロバート・パトリックから元ロサンゼルス・レイカーズのリック・フォックスまで、アメリカの映画やテレビで活躍する俳優が次々登場してきます。(実は、中国の若者にはアメリカドラマのファンはけっこう多いのです)

主演の3人では、特にトン・ダーウェイに触れておきたいと思います。この作品では謎の映画オタクを“怪演”しており、『レッドクリフ』(2006)や『アメリカン・ドリーム・イン・チャイナ』(2013)とはまた違った、エキセントリックな魅力をこれでもかと放っていてます。

 

『横衝直撞好莱塢』のポスターの横ロッカーを発見。荷物があっても安心して映画を見られる。このほか、トイレも美しく清潔だった 北京の婚礼シーズンと言えば5月のメーデー連休前後と10月だが、最近はジューン・ブライドも流行なのか、映画館に隣接する施設では結婚披露宴が行われていた

 

【データ】

横衝直撞好莱塢(Hollywood Adventures)

監督:ティモシー・ケンドール

キャスト:ヴィッキー・チャオ(趙薇)、ホアン・シャオミン(黄暁明)、トン・ダーウェイ(佟大為)

時間・ジャンル: 119分/冒険・コメディー

公開日:2015年6月26日

 

この日は同シネコンがアジアでもトップクラスと自称する幅32メートルという巨大スクリーンで鑑賞、確かに迫力満点だった

ショッピングセンターに入るシネコンと違い、あらゆる点でゆったり感があるのが特色で、ロビーもご覧の通り

 

天幕新彩雲国際影城

所在地:北京市海淀区北三環中路67号中視雲投大廈1~3階

電話:010-58092222

アクセス:地下鉄10号線牡丹園駅下車、北太平荘路を南へ進み北三環を右に曲がるとすぐ門がある、徒歩13分

 

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。

1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。

現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

  

人民中国インターネット版 2015年6月29日

 

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