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美人女優がオタク探偵に『宅女偵探桂香』

 

文・写真=井上俊彦

中国の映画興行は、一時の低迷期を経て現在では庶民の娯楽としてますます人気が高まっています。2014年には300億元近い興行収入を記録し、急成長するマーケットは内外から注目を集めており、国産映画も最新技術や海外の才能を取り入れるなど、さまざまな試みを繰り返しながら、観客に喜ばれる作品づくりに努力しています。そうして出来上がった作品は、従来からの中国映画ファンを楽しませるだけでなく、広く中国に関心を持つ日本人にも中国理解の大きなヒントを提供してくれています。そこで、このコラムでは筆者が実際に映画館で見た作品の面白さや、中国の観客の反応、関連の話題などをご紹介していきたいと思います。ご参考になれば幸いです。

 

「80後」人気女優の新たなチャレンジ

 

8月13日からはバイ・バイホー(白百何)主演の『滚蛋吧!腫瘤君』が公開され、ようやく興行収入21億元強の『捉妖記』(これもバイ・バイホー主演)、11億元強の『煎餅侠』、9億元弱の『西遊記之大聖帰来』(数字はいずれも8月12日現在)の3強時代が終わりを告げそうです。ですが、私は同日公開の『宅女偵探桂香』が気になっており、先行上映された12日夜にさっそく中影国際影城北京千禧店に出かけました。

人気女優ワン・ルオダンが主演するこの作品は、台湾地区の人気小説を映画化したもので、物語の中で場所は強調していませんが舞台も台北です。3歳で字をおぼえ、7歳で泥棒を捕まえ、13歳で事件を解決して警察を助けたという天才娘(でもオタク)桂香は、IQは180もあるのにEQに欠陥を持ち彼氏にひどい捨てられ方をします。失意の彼女を復活させたのはバラバラ殺人の難事件でした。彼女は本領を発揮して死体の身元を割り出すなど、元気を取り戻したかに見えましたが、阿哲刑事(ヴィック・チョウ)は彼女が無理をしているのを見抜いていました。そして、簡単に見えた事件は思わぬ方向に展開していきます……。

ワン・ルオダンは、2007年に「80後(1980年代生まれ)」の青春を描いたドラマ『奮闘』で注目され人気アイドル女優となりました。『杜拉拉昇職記』などの主演ドラマは次々とヒットし、映画にも数々出演してきました。何度か映画の舞台挨拶を見ているのですが、いずれも熱心な若い女性ファンが多数駆けつけていました。ただ、私の印象では主人公のあこがれのヒロイン、美しく優しく善良な「女神」という役どころがほとんどだったと思います。その彼女も1984年生まれですから、もう30歳を過ぎました。このあたりで幅を広げようと考えたのか、今回は“天才オタク”という予想外のキャラクターに挑戦しています。

 

際立つヴィック・チョウのいい男ぶ

 

監督はかつてアンジェリカ・リー(李心潔)をホラーに起用して新たな一面を引き出したオキサイド・パンで、彼にはアーロン・クォック(郭富城)主演で評判の高い『極限探偵C+』のシリーズがあり探偵物はお手の物。今回はワン・ルオダンの新しい魅力を発掘してくれているのではと、実は早くから期待していました。しかも、相手役はかつてF4で一世を風靡したヴィック・チョウ。超イケメンですが演技過剰の俳優ではないので、“受け”に回って彼女を引き立ててくれそうです。さらに、キャストを見ると演技派のサイモン・ヤム(たぶん悪役でしょう)やパオ・ヘイチンが名を連ねており、脇はがっちり固まっている印象です。と、まあかなりわくわくしながら先行上映に向かったのでした。

そしてほぼ満員の観客と一緒にハラハラ、ドキドキの探偵冒険映画を鑑賞したわけですが、結論から言うと、予想通りなかなか楽しい作品でした。オタク文化が中国にも浸透しているのはみなさんご存じの通りですが、中国では「宅」の字の持つイメージからか“家にこもる人”的なニュアンスが加わっています。ですから、家にこもったまま事件を解決するのかなと思ったのですが、化粧っ気のないそばかす顔にダボダボのコート姿で、バイクをかっ飛ばし、銃をぶっ放し、家宅侵入し……と、桂香はかなり行動的でした(そのぶん、映画オタクぶりなどはチラッと出るだけでした)。行動的なのですが、その行動力や気の強いもの言いの裏には、実は傷つきやすい心を隠しているのです。ワン・ルオダン、実は今回はツンデレ娘を熱演していたのでした。一方、阿哲刑事は彼女と衝突を繰り返し、時に怒鳴り合うなどしますが、それでいて桂香の心に寄り添うような気遣いを忘れない、実に好感度の高い「暖男(思いやりのある男)」ぶりで、やはりヴィック・チョウはかっこいいなと思わせてくれました。

主演2人については、むしろ予想以上によかったのですが、期待値が思い切り高かったこともあってか、正直に言って肝心のストーリーがいささか唐突、単純で、『極限探偵C+』シリーズに比べて“じわじわ感”や事件解決のカタルシスが足りない印象です。聞くところによると、残酷さやグロさを理由に17分間のカットがあったようですが、そのあたりが原因かもしれません。日本ではノーカット版が見られることを期待します。

夏休みには数多くのアニメや特撮ものが上映されており、各映画館のロビーにはさまざまなキャラクターも飾られていた(首都電影院・金融街店、首都電影院・西単店) このあたりはザリガニ料理を看板にした食堂なども並ぶ庶民的なエリアだが、住宅開発が進んでおり、古い住宅街に隣接して新しいアパートや空き地がモザイク状に入り混じって建設用クレーンも見える。シネコンも今後の発展を見込んで進出したのだろう

 

【データ】

宅女偵探桂香(Detective Gui)

監督:オキサイド・パン(彭順)

キャスト:ワン・ルオダン(王珞丹)、ヴィック・チョウ(周渝民)、サイモン・ヤム(任達華)、ティエンシン(天心)、パオ・ヘイチン(鮑起静)

時間・ジャンル:98分/愛情・サスペンス

公開日:2015年8月13日

 

中影国際影城北京千禧店は2012年にオープンした、17のホールを持ち、2300人収容可能という巨大シネコン

シネコン全体がゆったりした造りになっており、チケットカウンターも広々としている

 

中影国際影城北京千禧店

所在地:北京市豊台区靛廠路千禧購物街4号楼1階

電話:010-88177970

アクセス:地下鉄10号線蓮花橋駅下車、公主墳南バス停から99路バスで4つ目の靛廠路下車すぐ

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。

1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。

現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

 

人民中国インターネット版 2015年8月17日

 

 

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