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「3影帝」の演技を堪能!『烈日灼心』

文・写真=井上俊彦

中国の映画興行は、一時の低迷期を経て現在では庶民の娯楽としてますます人気が高まっています。2014年には300億元近い興行収入を記録し、急成長するマーケットは内外から注目を集めており、国産映画も最新技術や海外の才能を取り入れるなど、さまざまな試みを繰り返しながら、観客に喜ばれる作品づくりに努力しています。そうして出来上がった作品は、従来からの中国映画ファンを楽しませるだけでなく、広く中国に関心を持つ日本人にも中国理解の大きなヒントを提供してくれています。そこで、このコラムでは筆者が実際に映画館で見た作品の面白さや、中国の観客の反応、関連の話題などをご紹介していきたいと思います。ご参考になれば幸いです。

息詰まる、本当に息詰まるサスペンス

上海国際映画祭で一度に3人の「影帝」(主演男優賞)を出すという前代未聞の快挙を成し遂げた作品がいよいよ一般公開されます。私も上海国際映画祭には行ったのですが、チケットが売り切れで見ることができませんでした。ずっと公開を待っていたところ、27日の一般公開を前にこの週末に一部映画館で先行上映されましたので、さっそく見に行ってきました。前評判の高さからか、先行上映でも前売りで満員札止め状態が続出しましたが、幸いにして家から近い博納晶品国際影城に空席が少しだけあり(300人近く入る大きなホールなのですが)、前方の端の席でしたが見ることができました。

劇場に掲示されていた『烈日灼心』のポスター

舞台は福建省の厦門(アモイ)です。7年前の「宿安ダム別荘一家5人惨殺事件」に関わった3人はアモイと周辺に潜伏しています。楊自道(グオ・タオ)はタクシーの運転手、辛小豊(ダン・チャオ)は「協警」、陳比覚(ガオ・フー)は魚の養殖場の手伝いをしています。ある日、巡査部長の伊谷春(ドゥアン・イーホン)は小豊を自分のパートナーに指名しますが、捜査を通じてその能力を高く評価すると同時に、小豊の背後にある何かを感じ取ります。一方、自道は伊谷夏(ワン・ルオダン)のためにひったくり強盗をつかまえ、彼女は自道に好意を寄せるようになります。ところが谷春と谷夏が兄妹だったことから、7年間隠していた秘密にほころびが出始めます……。

何度かご紹介していますが、中国映画は倫理規制が日本より厳しく、犯罪が野放しになるような結末の作品は見たことがありません。ですから、犯罪者中心にストーリーが展開されていると「ああ、この人がつかまる話なんだな」と、暗黙の了解をしてしまいます。ところがこの作品は、「そういうやり方があったか!?」と思わせる大胆なストーリー展開に加え、各エピソードごとに息詰まる展開があり、141分という長尺ながら、最後までずっと引きつけられました。単に息詰まるだけでなく、そこかしこにくすぐりが入っており、すべてを知っている(つもりの)観客は、偶然に翻弄される登場人物の行動を上から目線で見てクスッと笑えるようになっています。これが息詰まる物語を見ている観客を時々リラックスさせる一方、犯人と警官の神経戦をより強調させる演出にもなっています。

北京博納晶品国際影城で見かけたチケットはネット予約がお得という掲示。チケット予約サイトごとの競争も激しくなっており、割引合戦が行われてる

8月23日は二十四節気の処暑だったが、地下鉄の広告にはもう「初雪」の文字が見える。いくら北京の秋が短いといっても、これは早すぎでは…… 

お茶の間の人気者が実力を見せつける

物語でちょっと説明が必要なのは、辛小豊の仕事「協警」です。これは中国独特のもので、警察と同じような制服を身につけて、警察官とともに行動しその業務を補佐する仕事ですが、行政執行権を持ちません。劇中でも触れられますが、当然給与も警察官に比べて低くなっています。

その小豊は、自分を追っている(かもしれない)巡査部長とともに、犯罪に命がけで立ち向かいます。現場での緊迫した捜査の中でも、自分の正体がバレないか気にしなければならないという複雑な状況に置かれた人物を演じるダン・チャオの、迫真の演技が光ります。彼は、このところテレビのバラエティーで視聴者を笑わせてお茶の間の人気者になっており、その人気で映画館に足を運んだ女性客も多かったようですが、そういう観客も彼の俳優としての“真の姿”を見て驚いたのではないでしょうか。聞くところでは、彼は現場で監督と何度も怒鳴り合いするほど演技にのめり込んだようです。それも納得の素晴らしい演技でした。

8月20日は旧暦の七夕だった。何度かご紹介しているように、こちらでは夏のバレンタインデー扱いで、近所のスーパーでは臨時の花束コーナーも見かけたし、ある映画館では七夕イベントも行っていた

3人の逃走犯の中でも兄貴分で、困っている人を見ると危険を顧みず助けてしまう性格から自分を追い詰めてしまう皮肉な役柄を演じるグオ・タオや、部下を可愛がりながらも疑いを捨てきれない巡査部長のドゥアン・イーホンも見事な演技でした。3人の主演男優賞もなるほどと思わせますが、私は中でもダン・チャオの演技に凄みを感じました。

監督のツァオ・バオピンは日本ではあまり知られていませんが、ダン・チャオとジョウ・シュン(周迅)が共演した『李米的猜想』(2007)という作品があります。なぜ日本で未公開なのか分からない大変面白い作品でした。中国ではここ数年来の興行収入が急激に伸びている一方で、もう長い間、国際映画祭受賞作品が大ヒットしたことがありません。そのジンクスを破れるか、一般公開に注目したいと思います。

【データ】

烈日灼心(The Dead End

監督:ツァオ・バオピン(曹保平)

キャスト:ダン・チャオ(鄧超)、グオ・タオ(郭涛)、ドゥアン・イーホン(段奕宏)、ワン・ルオダン(王珞丹)、ガオ・フー(高虎)

時間・ジャンル: 141分/犯罪・サスペンス

公開日:2015年8月27日

 

『ターミネーター』の新作公開日でもあったこの日、北京博納晶品国際影城のロビーは観客でごった返していた

 

北京博納晶品国際影城

所在地:北京市海淀区復興路51号凱徳晶品ショッピングセンター4階

電話:010-88178880

アクセス:地下鉄1号線万寿路下車、B口直結

 

 

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。

1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。

現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

 

人民中国インターネット版 2015年8月24日

 

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