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新春特別企画【中国電影之旅 浙江編】

 

杭州 『80後』『唐山大地震』

最後は杭州に立ち寄りました。杭州はもう数えきれないほどたくさんの映画やドラマの舞台になっています。茶畑や西湖などの美しい景色だけでなく、近代的でおしゃれな市街地も最近のアイドルドラマなどでよく使われています。上品でセンスのいい都市景観が好まれるようです。しかし、今回訪ねたのは映画の中で印象的に使われていた、個性的な大学のキャンパス2カ所です。

 

 瓦やよしず(らしきもの)が使われた独特の校舎  

 

『80後』は今中国で流行りの学園青春回顧ものの先がけのような作品で、1980年代初頭生まれの女性(リウ・ドン/劉冬)が杭州と北京で過ごした青春を、各時代の大きな出来事とともに振り返っています。日本では『永遠の天』のタイトルで2009年の東京国際映画祭コンペティション部門に出品されました。この作品で、ヒロインと引かれ合う同級生(ホアン・ミン/黄明)が通う大学として登場していたのが中国美術学院の象山キャンパスでした。杭州は南宋の都だった歴史を持ち、書画などの芸術文化が発展した都市です。芸術大学の設置にふさわしいと思います。このキャンパスは環境が抜群で、敷地内に山や川があり、全体がまるで中国庭園のようです。また、各校舎も独特のデザインをしており、各所に瓦が使われ、よしず張りのようなデザインも施されるなど、江南水郷の民家(たぶん)をイメージした芸術的な建物です。この2007年完成の校舎の設計者は寧波博物館と同じ王樹という人物です。

 山水画のようなキャンパス

【TIPS】市の中心部から南西にあり、4路、202路など多くの路線バスで転塘街道下車すぐ。入場料は無料。

 映画の中にも(たぶん)登場した芝生

日本でもよく知られるフォン・シャオガン(馮小剛)監督の、『唐山大地震』は2010年夏に公開され、それまでの中国映画の興行記録を塗り替える大ヒットになりましたが、日本では公開直前になって東日本大震災が発生し、上映が急きょ延期になったことが思い出されます(その後2015年に公開)。当時、この作品公開の約半年後に起こった東日本大震災に対して、中国の人々が大きな関心と同情を寄せたことも思い出されます。

二人が出会った建物 

作品は、地震後の30年余りを追いながら、地震によって傷ついた人の心、家族の絆を観客に見せる物語になっていました。その中で、地震によって心に大きな傷を負った少女が、大学に進学して恋愛を経験する場所となったのが浙江大学の之江学院キャンパスでした。故郷を離れたヒロインが入学する大学としてロケが行われましたが、チャン・ジンチュー(張静初)演じる王登がルー・イー(陸毅)演じる先輩と出会うのが写真の建物です。実はこのキャンパスには、前身の之江大学時代に建てられた20世紀前半の校舎が多数あることで知られ、この日も観光客の姿が目立ちました。之江大学は米国の長老派教会が設立したもので、英文科から始まり総合大学に発展しました。作品では、時代感覚を持たせるため歴史建築が多数あるこのキャンパスが選ばれたのでしょう。

 映画ではここに入学生受付の机が置かれていた

キャンパスは山の上にあり一面の森の中に校舎が点在している印象で、人口1000万都市の中心部にこんな場所があるのかと驚かされました。山の下には銭塘江が流れており、1937年建設の銭塘江大橋がすぐそばにあります。現在では、浙江大学のロースクールになっており、このこともまた時代の流れを感じさせてくれます。

 

 キャンパス入口ではかつての校名を見ることができる

 

【TIPS】市の南西部、西湖の南、銭塘江の北岸に位置する小高い丘に作られたキャンパス。多くの20世紀前半の校舎が状態良く保存されている。入場料は無料だが、入口で身分証明書の提示が必要(日本人の場合はパスポート)。

 

最後に アプリで変わったロケ地めぐり

舞台探訪、ロケ地めぐりの旅は、映画に興味のない人から見れば「何をやっているんだか」というものでしょう。しかし、映画の感動を思い返し、物語の理解を深められる(かもしれない)ロケ地めぐりを愛好する映画やドラマ、原作小説のファンは少なくありません。私もその一人です。

今回は私にとって久しぶりのロケ地めぐりでしたが、思った以上に楽しく、思った以上に快適でした。現在の中国では高速鉄道網が整備され、乗り心地のいい都市間ライナー・バスもひんぱんに運行されるなど、交通が便利になったことも大きいと思いますが、それだけではありません。ロケ地は普通の観光地とは違い、行きづらい場所にあることも多く、以前は想定以上に時間がかかったり、道に迷ったり、結局たどり着けないということさえありました。ところが、今回は旅行しながら、ケータイの旅行専用アプリを使って列車やバスの時間を調べ、宿の手配をし、地図アプリを使って初めての場所へも路線バスを乗りこなして向かい、GPS機能を使ってどのロケ地にも迷うことなく到着しました。というわけで便利な反面、まるでうつむきながら旅行をしていたような印象が残っており、ケータイに気を取られて大切なものを見逃したかもと反省もしています。

 

 

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。

1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。

現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

 

人民中国インターネット版 2016年1月22日

 

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