小さな友情
宮坂宗治郎
私は日中のボランティア団体でスタッフをしています。でも、日中のボランティアスタッフをしていると言うと、周囲からは「変わっているね」と言われることがあります。その言葉の奥にあるのは、なぜ中国人と友好関係にあるのかということなのでしょう。しかしながら、そう思うことは無理もないと思うのです。中国人と関わらなければ、たいてい悪いことを語るメディアの情報がすべてなのでしょうし、私も中国人と関わるようになるまで、中国人は日本人を心底敵視していると思っていましたから。中国人と関わっている今でも、メディアの情報を見ると感情が流されて変な気持ちになることがあります。でも、同時にそれは、けっきょく国と国のことであって、人と人じゃないと気付かされる瞬間でもあるのです。
時には「日中友好」という言葉がメディアで取り上げられることもありますが、日中の冷え込みとか、島の問題だとかがニュースになり始めると、「日中友好」という言葉はまったく聞こえなくなります。そんな風に何かのできごとに左右されていて、「それって本当に日中友好ですか。」と思ってしまうのです。何かに左右されるそういう表面上の友好じゃなくて、本当に必要なことはもっと地に足をついた、人と人とが向き合うことだと思うのです。さらに言えば、一人一人と、一人の人として向き合うことが重要だと思います。だから私は中国人一人一人と向き合うためにボランティアをしています。
ボランティアでは日本で暮らす中国人を対象にピクニックや花見、スポーツ交流、一泊二日の言語交流等、様々なイベントの企画、運営を行っています。ピクニックではイベントリーダーを務めました。参加者を募り、船で小さな島へ渡りました。参加者は日本に来たばかりで日本語も少ししかできない人、家族で移住して何年も経つという人と様々でしたが、日本人と交流をしてほしくて、日本人の参加も歓迎することにしたイベントとなり、年齢は20代から30代で構成されていました。日本で暮らす中国の若者は、日本人との交流を求めても同年代の日本人と交流できる機会が少ないと聞いていたので、貴重な時間になってくれればと思っていました。ボランティアと言っても、同じ海を見て、同じ空を見て、同じ道を歩く。たったそれだけなのに、距離はものすごい勢いで縮まっていきました。当時の中国人参加者が今のボランティアスタッフになっている程です。つまり、日本人も中国人もけっきょくは同じ人間で、同じことを共有するだけで距離はあっという間に縮まるものなのです。日本人の参加も歓迎した狙いの一つでもありましたが、それを多くの日本人にも伝えたかった。日本で中国人が日本人と交流できる機会が少ないのは、日本人が中国人を誤解していて、興味を示さないから。だから、それをもっと日本人にも伝えたい。日本人に中国人を伝えることがボランティアだと思っています。
そうして私は今もボランティアを続けていますが、日々驚かされるのはボランティアのスタッフに中国人が何人もいるということ。中国人を支えるためにいる私たち日本人ボランティアスタッフは、中国人にも支えられながら運営できているのです。なぜその中国人たちはボランティアスタッフとして活動するのか、それは彼らも日本人との交流を求めていて、日本人との「繋がり」を求めているからなのです。それはスタッフをしている日本人も同じです。中国人との「繋がり」を求めていて、そういう輪の中にもっと多くの人を巻き込んでいきたいからなのです。だから、私も日々新しい交流をさせてもらっています。そこには紛れもなく「友情」が存在しています。ボランティア活動外でも皆でバーベキューをして、旅行して、とにかく誰が日本人で誰が中国人かなんて関係ない。「友達」なんです。
その友情はメディアが言う「日中友好」が指しているものから見れば小さい「日中友好」かもしれないけど、揺るぎない大きな友情だと思います。だから、私はこれからもそういう小さな友情を続けていきます。それが私の中国。