知ってて知らない烏龍茶
文=ゆうこ イラスト=amei 監修=徐光
烏龍茶といえば、日本では誰もが知っている飲み物です。スーパー、コンビニ、自動販売機……、ペットボトルに入った烏龍茶はどこでも買えますよね。
しかしながら、ここ上海の茶館では、もちろんペットボトルの烏龍茶なんてありません。烏龍茶を注文すると、凝ったつくりのお盆に小さな急須、透明なカップ、小さな縦長の碗、そしてこれまた小さなおちょこみたいな丸口のコップ、あとは何に使われるのかわからない謎の茶道具らしきものが運ばれてきました。店員さんがこれらの道具全部にお湯をかけていきます。次に、茶葉を、熱くなった空の急須の中に入れてふたをし、何度か揺らします。そうしてから急須のふたを開けると、ふわりと鼻に抜けるかぐわしい香り。ジャスミンよりもっと濃厚な香りがします。
不思議に思った私は、「どうして烏龍茶なのにお花の香りがするんですか?もしかして、花茶みたいに、お花で香り付けしてるんですか?」と聞いてみました。
すると、店員さんは「これは、烏龍茶にもともと備わってる香りなんです。今召し上がっているそのお茶は鉄観音といって、烏龍茶の中でも代表格のお茶なんですよ。濃厚な蘭の香りをまとうお茶です」
「んん? 香り付けをしてないのにどうしてお花の香りが?」考えれば考えるほどわからなくなってきました。
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烏龍茶の故郷、福建省では、茶木が植えられてから千年以上もの歴史があるといわれています。でも烏龍茶の歴史はたかだか数百年。どうして香り高い烏龍茶の歴史はそんなに浅いんでしょう? それにまつわるお話をしていきましょう。
以前、皆さんに、中国茶は発酵の度合いによって、緑茶、白茶、黄茶、烏龍茶、紅茶、黒茶の六種類に分けられるというお話をしましたよね。では、この字面をよくよく見てください。烏龍茶以外は全部、色に関係する漢字が使われていますよね。実は、烏龍茶は青茶とも呼ばれ、色に関係した名前があるのですが、烏龍茶の方が青茶という名前よりもはるかに有名なので、一般的には烏龍茶という名前で通っているのです。でもどうして「烏龍茶」なんでしょう?
実は、烏龍とは人の名前で、伝説では烏龍茶は彼の手によってつくり出されたとされています。
烏龍茶発祥の地、福建省安渓県。昔、この地の山深い里に、胡良という名の狩人が住んでいました。ある日、偶然山の中で、青々とした葉がこんもりと生い茂る低木群を見つけ、何気なく一枝折って、背中にしょっていたかごに入れ、獲った獲物を覆うのに使うことにしました。獲物を追って、山を越え谷を越え、日が暮れるころにようやく家に帰ってきました。すると、どこからともなくかぐわしい香りが漂ってきます。獲物を取りだした際に、そのかぐわしい香りは、かごに入れていた枝から漂ってくるのだということに気付きました。その枝の葉っぱを何枚かちぎり、お湯を注いで飲んでみると、口の中いっぱいに芳醇な香りが広がるではありませんか。胡良は、急いで山に引き返し、同じ木からたくさんの枝を折って持ち帰ってきました。しかし、同じように葉っぱにお湯を注いで飲んでみたにもかかわらず、今度は苦いし、渋いしとても飲めたものではありません。どうして同じ木からとって来たのにこんなに味が違うんだろう? と頭を悩ます胡良。実は、先に取って来た葉っぱは、長時間かごに入れられていたため、太陽の光にさらされ、また、険しい山道を登ったり降りたりしている間に、つねに上下に揺さぶられたため、葉っぱがかごに擦れて傷つき、更に空気中に含まれる水分で発酵したため、かぐわしいよい香りが引き出されたのでした。胡良は、何度も試してみた結果、ついによい香りを引き出す方法を発見し、その後、このかぐわしいお茶はたちまち有名になり、彼の名前も広く知られるところとなりました。その地方の方言では「胡良」と「烏龍」の音がよく似ていたため、後代の人々は、福建省安渓県産のお茶を「烏龍茶」と呼ぶようになったということです。
歴史上、本当に胡良という人がいたか、彼の伝承は本当なのかどうかということについて、私たちは知るすべがありません。しかし、茶栽培農家の人たちは、熾烈なお茶市場で勝ち残るために、新製品の開発にいそしみ、「かぐわしきお茶」を作り出す製法を見つけ出したのでした。こちらは、まぎれもない本当の話。しかし、残念なことに、芳醇な香りの烏龍茶は、お茶を淹れる時のお湯の温度と時間に気をつけなければならないため、機械で加工したペットボトル入りの烏龍茶からは、お花のいい香りは漂ってこないのです。
さぁ皆さん、上海にやって来た以上「知ってて知らない烏龍茶」を飲まずしては帰れませんよ。芳醇な烏龍茶をぜひ堪能してみてくださいね。
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人民中国インターネット版 2010年8月12日