紅茶は中国茶?
文=ゆうこ イラスト=amei 監修=徐光
「烏龍茶を飲む前にはまず香りを楽しむこと」「飲むときには音をたてること」。店員さんのアドバイスに「?マーク」いっぱいの私。だって日本の飲み方とはあまりに違います。
烏龍茶を飲んだことのある人なら、たぶん次のような場面を体験されたことがあると思います。
早く飲みたいなぁ、と思いながら、茶器を温める店員さんの手元に熱い視線を送るお客さん。しかし、せっかく淹れた一煎目のお茶は捨てられてしまいました。あ~もったいない……と心を痛めながら眺めていると、二煎目のお茶が小さくて細長い器に注がれました。そして、小さな茶杯で蓋をします。
この小さくて細長いコップは「聞香杯(もうこうはい)」といって、烏龍茶の香りを楽しむための茶具です。お茶を小さな茶杯に注いだ後も、香り成分は聞香杯の中に留まっています。聞香杯を両手で持ち上げ、杯の中の香りを深く吸い込んでみましょう。鉄観音なら濃厚な花の香りが、大紅袍なら香ばしい香りがふわりと漂ってきます。更に、香りを楽しむのは一度きりじゃありません。聞香杯が冷たくなってからもう一度香りをかいでみてください。さっきとは違う香りが漂ってくるはず。これを「冷香」と言います。
お茶を飲むときにはコツがあります。ズバリ「味わうときには音をたてる」こと。店員さんの「物理の授業」によると、「振動によって音が出ることは皆さんもご存知かと思います。お茶を舌と歯の間でころがす際に振動させると音が出ますね。これによって、お茶に含まれるうまみ分子に振動が伝わり、動きが活発になるんです。なので、音を立てて飲むだけで、おいしいお茶が味わえるんですよ」
私たち日本人も、おそばを食べるときわざと音を立てて食べますよね。これはおそばがおいしいということを表現するためにするんですが、中国茶にも同じような習慣があったなんて驚きです。
私が高価な大紅袍を頼んだので、店員さんがサービスで紅茶を淹れてくれることになりました。が、淹れ方にびっくり。上海の茶館の紅茶は、烏龍茶と同じような紫砂壷(紫砂という陶土で作った急須で、中国の江蘇省宜興市で作られる)を使う上に、お砂糖もミルクも入れません。私は紅茶の淹れ方も中国に来たら「郷に入っては郷に従え」で変化すると思ったので、「中国バージョンの紅茶なんですね」と言ったのですが、意外な反応が返ってきました。
店員さんは目を丸くしながら「紅茶はもともと中国のお茶ですよ? 中国バージョンって…どういうことですか」と言うではありませんか。
「えっ?」私も負けじと目を丸くしながら「だって紅茶は西洋の飲み物ですよね? 紅茶が中国茶って……どういうことですか」
すると店員さんは笑いながら「紅茶の生まれ故郷は中国なんですよ」と言って、紅茶誕生の話をしてくれました。
紅茶と大紅袍は実は「同郷」の福建省武夷山生まれ。当時まだ紅茶とは一体どんなものかも知られていなかった頃に、西洋人が、大量の茶葉をヨーロッパに輸入しようと福建省にやってきました。茶商の中には相手をだましてもうけようとする悪徳商人も混じっていました。彼らは柳の葉っぱをお茶と偽って売りつけたのですが、茶葉も柳の葉もみんな緑色、まんまとだましおおせるはずでした。しかし、予想外に悪事は早々に露見してしまいます。ある外国人社長が「柳の葉っぱ水」を飲んでみたところ、「とても飲めたものじゃない、なんだこれは!」と怒ってしまい、茶商を訴えたのでした。そしてそれからは茶商に対し、カタコトの中国語でこう言うようになったのです。「緑色の茶はいらん! 私が欲しいのは黒い茶だ!」
しかし茶商たちは「私たちが扱う茶葉はみんな緑色。黒い茶なんてどこにあるっていうんだ……」と頭を悩ませます。彼らは、新鮮な茶葉を見せますが、社長は首を横に振るばかり、「黒い茶だ」と譲りません。黒い茶がないのなら、今後一切取引はしないとまで言われてしまいました。
よくよく調べた茶商たちは、西洋への長い船旅の末に葉が黒くなるようだということを知ります。ただ、どうして黒くなるのかその原因がわかりません。実は、船で運ばれている何カ月もの間、海風と湿気にさらされることで、発酵が進んで色が黒くなり、さらに濃厚な味わいを帯びるようになったというわけだったんですが、茶商たちは知る由もありません。ひたすら実験と研究を重ねた結果、やっと茶葉を黒くする方法を発見したのでした。これが紅茶の誕生です。今日に至るまで、西洋人たちは「黒いお茶」こそ一番おいしいお茶だと信じており、紅茶のことを「Black Tea」と呼ぶのもここに由来しています。
では、どうして西洋では、紅茶を飲むときに砂糖とミルクを入れるのでしょうか。 店員さん曰く、お茶の苦みと渋みはポリフェノールに由来するのですが、中国人も西洋人も、苦すぎず、でも適度に渋みのある濃厚なお茶が飲みたい、と思って色々と工夫を重ねたんだそうです。中国では、発酵の工程やお茶を淹れる時のお湯の温度や時間に工夫を加えることで、茶ポリフェノールの量をコントロールし、人々の口に合うように調整されました。なので、温度や抽出時間に気をつけさえすれば、お茶を口に含んだときにはすでに最高にいい状態になっているというわけです。一方、西洋人は、砂糖やミルクを加えるという方法で、味の調整をしたんですね。
上海で茶館に行ったら、紅茶も飲んでみて、ぜひ紅茶のルーツに思いを馳せてみて下さい。
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人民中国インターネット版 2010年9月9日