People's China
現在位置: 2010年 上海万博日本館より

ピンバッジへの思い

 

2010年上海万博日本国家館館長 江原規由 

ある日の朝、バス停で通勤バスを待っていると、道路向こうから筆者に向かって走ってくる少年がいました。白の民族衣装を身にまとい一見して中東の国の子どもと分かります。彼は、筆者の前に来ると、ちょっと胸を張るしぐさをして、首から下げている万博の通行証を吊るしている幅広の紐を手でつかみ、にこにこしながら、もう一方の手で何やら指さしました。その先にあったのは、日本館のピンバッジでした。

 
上海万博バッジと日本館バッジ(右)

ある少年の日本館訪問

その瞬間、「あー、この子は」と、数週間前、日本館を参観に来た少年だと思い当りました。その時も白の衣装で、同じく首ひもを下げており、そこにはいくつものピンバッジが刺さっていました。少年は、筆者に向かって「日本館のピンバッジがほしい」といいました。その時、父親らしき人が「ひとにものをねだる時は、まず自分のものを差し上げなくてはいけない」と諭すと、その少年は、首ひもに刺してあった自国のパピリオン・ピンバッジを抜いて筆者に差し出したのでした。そのピンバッジには中国と少年の国の国旗が左右に配されていました。

日本館参観後、この少年に日本館のピンバッジを手渡すと、小躍りして喜んでいた姿が思い浮かびました。

出会いこそ万博の魅力

通勤バスを待つ間、少年は「今日は私の国のナショナル・デーです。来ますか」といってくれました。筆者は、少年の話を聞きながら、万博の意義や醍醐味を感じていました。少年と初老の男との、少年の国と日本との心の通う出会いがわずか数グラムのピンバッジの取り持ちで実現しているのです。万博ならではのご縁といえるでしょう。

日本館では、よく各国・地域・機構のゲストからピンバッジをプレゼントされます。いろいろな形、デザインがあります。誇らしげに、そのデザインの由来が語られるのを聞いていると、いつも日本館のピンバッジを手にしてうれしそうにしていた少年の笑顔が浮かんできます。日本館のピンバッジは、笑顔のつながり(中国語は微笑相聯、英語はSmile to Smile)をイメージしたものです。

万博終了まで2カ月余となった8月31日までの来場者総数は4700余万人、同じく日本館にはほぼ264万人が入館しています。上海万博会場ではその一人ひとりにそれぞれの出会いがあり、あったはずです。そうした出会いも万博の大きな魅力ではないでしょうか。突然にやってくる出会いをもっともっと楽しみにしたい、と思っています。

 

人民中国インターネット版 2010年9月15日

 

 

同コラムの最新記事
ピンバッジへの思い
上海万博の特徴
上海の街中から見た上海万博
万博会場でのいろいろな出会い
後半を迎えた上海万博