上海館 石庫門の中で語られる『永遠の新天地』
陳筠=文
わずか600平方メートルの展示ホールに、わずか八分間のショートムービー。しかし、上海館は訪れた観客に深い印象を残し、上海館について語る人々の口から最もよく発せられるのは「驚き」と「感動」という賛嘆の言葉だ。
上海は海からやって来た
上海とはどのような都市なのだろう? ある人はそれは「十里洋場」(租界を意味する)だと言い、ある人は「小資」(ちょっとリッチ)で洗練された場所だと言う。また、ここの人々はまじめで充実した生活を送っていると語る人もいる。
では、かつての上海はどんな様子だったのだろうか? そして、未来はどうなるのだろうか?
上海館を見ると、こうした問いの答えにいくらか近づけるかもしれない。
現代音楽・画像・詩で構成された『永遠の新天地(Shanghai Forever)』とともにゲートがゆっくりと開くと、満天に星の輝く夜空が観客の前に現れる。スタッフの指示に従って注意を払いながら中に入ると、続いて六自由度(前後、左右、上下の動きとそれぞれの方向での回転の六つの自由度)のモーション・シミュレーター舞台に立つ。この舞台は、あたかも出航間際の船の舷側のようで、観客がスクリーンの前に立つと、大海原と向き合っているように感じる。
客電が急に点灯して場内が明るくなると、前方に若い旗手(本物の人間)が登場し、その手旗信号に伴って、スクリーンにゆっくりと往時の上海外灘、黄浦江の光景が出現、モーション・シミュレーター舞台も画面のリズムに合わせて上下する。三六〇度スクリーンの前方は渡船の前甲板に、後方は後甲板になっていて、人々に黄浦江を遊覧しているような感覚を与える。
そして、時を超えた上海の旅が始まる。
上海は海からやって来たのだ。
この六自由度モーション・シミュレーター舞台上では、観客は時に馬車に乗っているような、時に路面電車に乗っているような気持ちになる。というのも、このシステムは、設定された各種交通手段に合わせて昇降、振動、旋回などを感じさせる動きをするからだ。
上海の発展の歴史に沿って、まず観客はモーターボートに乗って黄浦江を行く。その時、すぐそばを大型の客船がすれ違って通り過ぎたかのような感覚に襲われ、観客は驚きの声を上げる。頭を上げて空の真上を眺めると、上にはカモメが飛んでいて、正面を向くと、黄浦江両岸の色とりどりの建物が後ろに飛んでいくようだ。ぱっと振り向けば、モーターボートがはね上げた水しぶきが見えるのではないかと思えるほどリアルな感覚だ。
次の瞬間、耳にヘリコプターの爆音が響いたかと思うと、舞台は突然ヘリコプターの動きをシミュレートして動き出す。ある時は機体を傾けて飛び、ある時は旋回し、最後は大型飛行機となって地面に向かって急降下する。着陸すると、観客は未来の上海に連れられて来たことに気づく。そこでは人と自然が一体になり、人類と自然が調和して共存している。
そして、観客がまだ天と人と地の感覚を味わっていると、不意にほのかなジャスミンの香りが漂って来る。そして次に、頭に細かい雨が落ちてくるのを感じる。このまったく新しい、視覚、聴覚、触覚、{きゅうかく}嗅覚の全方位にアプローチしてくる構成に、人々は思わず時空を超えた上海の旅にのめり込んでいく。
感動に満ちた上海物語
上海、それは物語と感動に満ちた都市である。かつて上海の街は華やかさの代表だった。かつて上海の品物は優れた品質の象徴だった。そして上海の女性は洗練された女性の典型だった。
わずか八分間の物語のなかで、オープニングと同時に漁村の女の子が登場し(物語を通じて登場する)、紡績工場で働く女性や「身は老いても心は老いず、おしゃれ好きは変わらない」という旗袍(チャイナドレス)姿の老婦人が登場してくる……。上海館の陳東館長はこう話す。「小さな漁村の女の子は、上海という都市の時代ごとの変化を象徴しています。最後に、彼女は人々を未来の上海にいざないます。そこでは、生物識別技術によって人が自然と調和して共生し、生命が改めて輝きを放つことでしょう」
『永遠の新天地』は六自由度のモーション・シミュレーターで物語にさらなる広がりを持たせる。物語のスタートと終了はどちらも広い海である。過去、現在、未来という異なった時代への転換も河川の手助けによって行われる。これは、海洋と上海の関係を説明しているのだ。映画の最後に赤い朝日が雲間に見え隠れし、無邪気な六歳の少女が未来から来たかのように朝日の下に立ち、人々に向かって手をふり、「上海はあなたを祝福します」という甘美な声が巨大な空間にこだまする。これもまた最初に登場した漁村の少女のイメージである。
この上海の旅のなかでは、いずれの時代の上海にも手を触れることができるかのようだ。そして誰もが、自分が知っている、あるいは知らない上海の物語に感動する。
また、多くの場面も観客を感動させるはずだ。例えば、並んだ無数の自転車がフェリーで対岸に渡るシーンは、中年の上海人に彼らの青春時代の記憶を呼び起こさせるだろう。三輪車の隊列が家具を積んで新しい家に引っ越して行く様子に、自分の新婚時代を見る思いをする人も多いはずだ。そして、一九三〇年代の映画スターの登場に、八十歳のお年寄りはその年代を思い出し、すすり泣きを抑えられないかもしれない。
一方、国内各地や外国から来た観客は、上海という国際都市が思う存分に展開した新しい姿を目にする。浦東の金融街・陸家嘴から、空港や高速鉄道駅が集中する虹橋の交通ターミナルまで、次々と登場する都市の姿は、都市の速度、活力が真正面から向かってくるようだと感じさせる。そして、誰もがこの都市の百年の発展と変化、信じがたい「上海スピード」に驚がくするに違いない。
世界の知恵が集まる上海館
上海という都市の最大の特性は「海納百川」(あらゆるものを受け入れる包容力)であると言われるが、上海館もこの特性をよく表しており、「上海館は全国の力と世界の知恵を集めており、また科学技術と芸術が見事に結びついています」と、陳館長も話している。
「『永遠の新天地』の物語と音楽はオリジナルのものです。非スタンダードなたまご形をした映画館は、ドイツ、スイス、オーストリア、米国のエンジニアと中国、米国の芸術家が協力して作り上げた展示舞台なのです。このように、上海館は万博の科学技術、文化、芸術の結びつきを表しています。
八分間の作品には、二十以上の国内外チームの努力が凝縮されており、デジタル音像空間や影像面積の大きさ、形状の不規則性など、どれも非常にユニークです。しかし、これらの科学技術手段はすべて都市をめぐる精神の動脈的サービスなのです」
上海館の王呉青クリエーティブ・プロデューサーは、こう話している。
「上海館のテーマは『永遠の新天地』です。中国共産党第一回全国代表大会は上海の現在新天地がある場所で開かれ、中国発展の先がけとなりました。そこにあった上海近代都市建築の象徴である石庫門は、都市発展の潮流のなかで再開発され新天地となり、改めて上海を代表する海派文化を表わしています。今では、新天地は上海の都市発展とクリエーティビティーの表れと希望になっているのです」
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