PART2 スマート農業で豊作後押し

2023-02-20 10:04:00

段非平=文

20回党大会報告はデジタル経済の発展を加速させ、デジタル経済と実体経済の深い融合を促進し、国際競争力を持つデジタル産業クラスターを打ち立てると提起した。ここ数年、中国は従来型産業の全体的な最適化とアップグレードを通じ、産業の発展に新たな原動力を絶えずもたらし、従来型産業におけるデジタルトランスフォーメーションの迅速な推進を促している。 

  

スマート製造へ転換 

国民経済の主体である製造業の質の高い発展は、中国がデジタル経済と実体経済の融合を推し進める上での主たる方向性であり、鍵となる突破口だ。第18回党大会以降、中国は製造業の生産・研究開発・設計・管理などの分野におけるデジタル技術の応用を絶えず推進し、製造分野のデジタル化・スマート化成長を重点的に加速させ、「中国製造」から「中国スマート製造」「中国創造」へのモデルチェンジを着実に後押ししてきた。 

真っ赤に焼けた鋼板が轟音とともにローラーに吸い込まれていき、圧延加工とスプレー冷却によって黒い鋼帯となり、スチールコイルが作られてゆく。遼寧省の鞍鋼股份有限公司の熱間圧延鋼帯工場では、生産作業区の馬良作業長が制御エリアでディスプレーを眺めながら、鋼帯の生産状況をチェックしている。馬作業長によると、スチールコイル製造機の100㍍以上に及ぶスリッターラインには合わせて400余りのローラーテーブルが設けられており、熱間圧延の過程でもし1カ所でも電気機械の故障が発生すれば、鋼帯の表面に大きな傷跡ができてしまい、製品の品質に影響が及ぶのだという。「以前ならこの種の問題は製品の最終的な抜き取り検査で見つけるしかありませんでしたが、『5G+インダストリアルインターネット』技術を導入してからは、設備のセンサーが各種データをリアルタイムで『精鋼クラウド』プラットフォームに送ってくれますし、さらにはAIとビッグデータによる分析で、モニタリングと診断、処置をその場ですぐ行えるようになりました。デジタル技術のおかげで生産ラインの故障とメンテナンスの回数は20%減り、作業効率も大幅に高まりました」と馬作業長は語る。 

スマート製造は質や効率の向上だけでなく、環境面や低炭素化の後押しでも重要な役割を発揮している。従来型生産設備の一つである工業用焼成炉は運用効率が低く、大量の資源やエネルギーを消費し、汚染が深刻であるといった数多くの難点を抱えている。そんな中、山東省淄博市はインダストリアルインターネットを活用し、産業のデジタルトランスフォーメーションのためのプラットフォームである「焼成炉デジタルブレーン」を初めて立ち上げ、従来型焼成炉の効果的なアップグレード手段を探し出すことに成功した。デジタル設備やスマート運用・メンテナンス、科学的管理、総合的サービスが一体となった「焼成炉デジタルブレーン」は、焼成炉の運用パラメーターのモニタリング、稼働状況の最適化と予知保全などのサービスを企業に提供し、エネルギー効率を高め、汚染物質の排出削減に寄与している。導入後、焼成炉の生産および設備データはリアルタイムで焼成炉のインダストリアルインターネットプラットフォームに送られるようになり、1年で25万立方㍍のガス利用量節約につながり、コストも15%低下した。 

近年、中国はスマート製造プロジェクトを踏み込んで実施し、従来型製造業のモデルチェンジとアップグレードにおける質と効率の向上、活力の喚起を力強く後押ししている。2021年末までに中国の工業企業の要となる工程におけるコンピューター制御率は51・3%、研究開発・設計におけるデジタルツールの普及率は74・7%に達し、それぞれ12年に比べて30・7、25・9ポイント上昇した。中国のインダストリアルインターネットのイノベーション発展は絶えず加速しており、150以上の大規模なインダストリアルインターネットプラットフォームが育まれ、その応用は国民経済における45のカテゴリーをカバーしている。12年から21年までに、中国の電子情報製造業の産業規模は10兆7000億元から14兆1000億元にまで伸び、ソフトウェア産業は2兆5000億元から9兆5000億元にまで増加した。 

「現在から35年までは中国の製造業が大きさから強さへの転換を実現する肝心な時期であり、スマート製造という新たな工業革命におけるコア技術の発展を進める要の時期でもある」と語る周済・中国工程院院士は、第20回党大会報告が製造業のハイエンド化、スマート化、グリーン化成長の推進にまつわる重要な戦略配置を打ち出したことは、中国のスマート製造業の高速発展をいっそう後押しするに違いないと述べた。今後、中国はビッグデータ、AI、インダストリアルインターネットといった新技術を確固たるよりどころとして、イノベーション理念をスマート製造の隅々にまで行き渡らせ、全産業チェーンの集中的発展を成し遂げ、製造業を成長させる新たな原動力を生み出す必要がある。 

  

デジタル時代の豊作の鍵 

従来型農業と聞いて思い浮かぶイメージといえば、こうべを垂れて腰を曲げ、汗を流しながら土を耕す農民の姿だが、現在このような昔ながらの認識は覆されようとしている。デジタル経済による後押しの下で従来型農業はスマート化に向かっており、スマホは新たな農具、データは新たな農業資本、ライブ配信は新たな農作業に変わった。また、さまざまなデジタル化、スマート化、無人化製品の研究開発と応用は「デジタル+農業」の発展を目覚ましいスピードで促進し、デジタル化による農業と農村の現代化のため、先端技術および設備面でのサポートをもたらしており、効率の高いスマート農業はデジタル科学技術による従来型産業の新たな再生モデルとなっている。 

河南省は古くから中国の穀倉地帯として知られ、ここ数年、5Gスマホは穀物栽培を営む人々にとって大きな存在となっている。高連国さんが毎朝起きて最初にするのは、スマホでその日の農業用天気予報と土壌水分の分布データを確認することだ。そうすれば、注水を続けるべきか、肥料や農薬を与えるべきか、スマホが答えを導き出してくれる。高さんの説明によると、現地の田畑には気象観測装置が設置されており、リアルタイムで苗の育成状況や土壌の湿り具合、温度をモニタリングしてくれるのだという。農家の人々はスマホを通じ、それらのデータが一目瞭然にまとめられた画像を見て、農地の状況を確認できるのである。その他、スマホは自走式灌漑用散水機の操作にも用いられ、1日に1200ムー(1ムーは約0・067㌶)の農地に水をやることが可能で、農民たちは自宅にいながら農作物の生育状況をチェックし、農地の基本的な灌漑作業をコントロールできる。「中国の野菜の里」と称される山東省寿光市では、さまざまなスマート設備が5万棟以上の「クラウド温室」で仕事を担っている。温室の1日の野菜生産量は1万㌧余りに達し、全国各地の野菜の消費をしっかりと支えている。また、「一つの山に四季が同時に存在し、10里離れれば天気が変わる」と言われる雲南省富民県では、もえぎ色の太いつるになった水耕栽培の真っ赤なトマトが養液を吸収し、複雑な気候に妨げられることなくすくすくと育っている。さらに、江蘇省の天成家禽養殖技術研究センターでは、飼育ケージの仕分けや餌やり、水やりなどをデジタル設備によって一括コントロールし、スタッフの行き交いに伴う病原菌リスクを減らし、大規模化、規格化された養殖を可能にしている。そして、タクラマカン砂漠の北辺に位置する新疆ウイグル自治区シャヤール(沙雅)県では、農業用ドローンやスマート灌水・施肥一体機などの新たな農具が190万ムーに及ぶ良質な綿花畑で活用されている。 

山東省から雲南省、松花江や黒龍江、烏蘇里(ウスリー)江が流れる東北部から古代シルクロード沿線に至るまで、中国はここ10年間で自然任せの従来型農業から科学技術をよりどころとするスマート農業へと着実にまい進し、農業のデジタル化、スマート化、機械化は新たな段階に入っている。国家発展改革委員会が公表しているデータによると、中国における農業科学技術進歩の寄与率は21年までに61・5%に達し、農作物の栽培と収穫の機械化率は72%を超えた。昨年の中国のスマート農業の市場規模は743億元にまで増加することが見込まれている。 

国家による統一的措置と戦略配置の下、農業とデジタル経済の融合は絶えず深化し、より強靭な成長の勢いを見せている。第14次五カ年計画期(2021〜25年)は中国が農業・農村の情報化を進める上で要の時期に当たり、国は発展計画と具体的目標を明確に提起している。具体的には、25年までに中国における農業・農村のビッグデータシステムをほぼ構築し、農業・農村の情報化およびイノベーションシステムをさらに整ったものとし、鍵となるコア技術・製品で新たなブレークスルーを果たし、60カ所以上の国家デジタル農業・農村イノベーションセンターと重点実験室を設立し、100カ所に及ぶ国家デジタル農業イノベーション応用拠点を立ち上げることなどが求められている。今後、スマート農業は引き続き農業生産を活性化させ、より多くの農民を豊かにし、農村振興の後押しや国家の食糧安全保障などの面でより大きな役割を発揮していく。 

  

デジタル産業クラスターの成長 

新たな工業革命が進む中、デジタル経済の発展は広範にわたる共通認識となっている。デジタル産業が高度に進化した形態であるデジタル産業クラスターは、あらゆるファクターの生産性と産業チェーン・サプライチェーンの強靭性を高める上でプラスとなり、デジタル経済の質の高い発展を後押しする重要な受け皿でもある。ここ数年、中国のデジタル産業クラスターは目覚ましい成長を遂げ、その特徴と強みを生かした積極的な模索が各地で進んでいる。 

長江と淮河を抱く安徽省では、「中国声谷(ボイスバレー)」と称されるスマート音声分野のプロジェクトが実施されている。AI企業の科大訊飛(アイフライテック)を代表的企業とする合肥市スマート音声産業クラスターは、21年には主力事業の収入が1378億元となり、生産高と企業数は5年連続で30%超の成長を実現し、驚くべき「ボイスバレー速度」を見せつけた。また、西湖で知られる浙江省杭州市では、「中国視谷(ビジュアルバレー)」と呼ばれる視覚スマート産業のプロジェクトが進んでいる。中国におけるデジタルセキュリティー分野のトップスリー(海康威視、大華股份、宇視科技)がリードする杭州市のデジタルセキュリティー産業クラスターは、市全体で4322社に及ぶ同産業のイノベーション企業の共同成長をもたらし、ビデオ監視製品であるDVR(デジタルビデオレコーダー)や防犯カメラなどの生産・販売で世界第2位の座を占めており、市場シェアは50%を超えている。さらに、湖北省では「中国光谷(光学バレー)」として知られる武漢東湖新技術開発区で産業集積が進んでいる。長飛光繊や華工科技などの企業に代表される武漢市の光学電子情報産業クラスターのここ3年間の累計投資額は2000億元を突破し、世界初となる128層3次元NAND型フラッシュメモリや中国初の400Gシリコンフォトニクス光モジュールなど、この地で数多くの科学研究にまつわるブレークスルーが成し遂げられている。中国におけるデジタル経済の目覚ましい成長に伴い、それぞれ個性を持ったデジタル産業クラスターが各地で生まれ、中国経済の質の高い発展を力強く支えている。 

「インターネット化により地理的・空間的な制約を受けないのは、デジタル産業クラスターが従来型産業クラスターと最も大きく異なる点だ」と語る杜伝忠・南開大学産業経済研究所所長は、デジタル産業クラスターの構築においては必ず開放の理念を堅持し、要素の流動を妨げるシステム・メカニズム上の障壁をいっそう取り除き、全国統一の大市場から優れたリソースを集積し、より多くの高品質な要素・リソースが海外進出し、国内に導入される条件を生み出す必要があると指摘する。 

李強・国家工業情報安全発展研究センター情報政策所副所長は、現在新たなテクノロジー革命と産業変革がグローバル競争の枠組みを再構築し、米国の「国家量子イニシアチブ」、日本の「ロボット新戦略」、韓国の「国家半導体産業計画」といった事例のように、主な経済大国はデジタル産業を競争上の優位性を獲得するための戦略的選択としていると語る。中国も新たな工業革命によってもたらされた歴史的チャンスをしっかりとつかみ、長所や強みを鍛え上げ、弱い部分を補い、国際競争力を持つデジタル産業クラスターを打ち立て、デジタル経済の質の高い発展を推し進めることが早急に求められている。 


浙江省嘉興市のデジタル管理されたビニールハウス内で、トマトが立体栽培されている(新華社)

 

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