世界の平和と繁栄に貢献する
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹瀬口清之=文
深く融合する日中経済
45年前日中平和友好条約が締結された。この条約が日中両国にもたらしたさまざまな恩恵は、条約や法律によって作られたルールよりも、むしろ、平和友好条約締結に奔走した先人の熱い想いを引き継ぐ多くの人々を生み出したことにあると思う。その人々が、日中間の友好交流や経済文化協力の土台を先人から引き継いで強化発展させ、相互理解・相互尊重を継続し、さらに深めさせる努力を積み重ねてきた。その人々の強い意思があったからこそ、日中関係は歴史問題、領土問題などの難題を抱えつつも、基本的にはウインウインの関係で進んできた。そして、その想いは今も引き継がれている。
条約締結当時の45年前に比べ、今の日本では毎日中国関連のニュースが多く見られるようになった。最近は多くの中国人旅行客が日本を訪問するようになり、日本の田園風景などが中国人観光客の賞賛を受けることで、日本人が改めて日本の魅力を再発見するに至っている。こうした緊密な人と文化の交流を通じて、日本の中国に対する理解は高まった。
特に経済分野において、日本と中国は国境がなくなるほどに連携が進んでいる。日本企業が工場立地を考える場合、あたかも一つの国の中での立地を比較するかのような感覚で日本国内と中国各地を比較検討する時代になっている。このように日本と区別なく生産拠点を考えられるのは、距離的に近い中国だからこそできることであると思う。
近年、メディア報道は経済安保、台湾有事など、日中間のネガティブな問題ばかりを強調するが、両国間では緊密な経済交流が引き続き拡大している。メディアがその事実を報道しないだけであり、自動車、電機、素材、日用品など多くの分野で、高い国際競争力を備えたグローバル一流企業は中国ビジネスに対して熱心だ。日本企業が関心を寄せる中国市場の領域は非常に幅広く、ロボット、人工知能などのハイエンド製造業から介護医療、飲食などのサービス業に至るまで、さまざまな分野に及んでいる。
1978年に経済発展の基本方針を決定して以降、中国政府は一貫して改革開放に注力し、日系企業をはじめ外資系企業を歓迎してきた。このため、現在も日米欧のグローバル一流企業の対中投資意欲は旺盛だ。少なくとも2035年頃まで中国以上に魅力的な市場は世界中どこにも存在しないというのは、世界のグローバル企業のコンセンサスとなっている。これほど世界経済と中国経済が一体化した現在、外交・安全保障面でどんなに厳しく対立しても、経済関係を分断することはできなくなっている。中国とのデカップリングなどできるはずがないというのは世界中の国際政治学者、ビジネスリーダー、政府関係者の共通認識である。
世界に影響もたらす日中関係
中国と世界の関係が深まるいま、日中平和友好条約もまた新たな価値を生む。
45年前の日中平和友好条約は、日中両国のための条約だった。しかし現在、この条約は二国間だけのものではなく、世界にも関わる条約となった。今や全世界の平和友好繁栄に貢献するのは日中両国の共通目標だ。
現在の国際政治情勢は世界が分断に向かうリスクに直面している。こうした状況下、CPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定)は日中関係を改善し、中国と西側諸国との関係を安定に導く絶好の場であると私は考えている。中国は2021年9月にCPTPP加盟への参加要請を提出した。日本政府は積極的かつ誠実にこれに対応するべきだ。具体的には、CPTPPが定める基準を達するため、中国に対して、加盟に必要な改善点を真摯に指摘したり、中国が基準達成のためにどのような努力をしているかを参加国に説明したりすることで、日本が中国と西側諸国の懸け橋となる役割を担う。また、CPTPPに加盟するには中国自身の経済改革の断行が必須条件となる。その目標の下で中国政府が構造改革を実行すれば、中国経済の持続的経済発展を促し、それが世界経済の下支えにもつながる。
今後日本と中国がより力を入れるべき分野は、発展途上国のさらなる発展だ。両国が共に東南アジア、アフリカ、中東、南米などの諸国を応援し、中国のような発展を遂げる国を増やす。そのために中国の得意なインフラ建設や、安くていいものを作る技術が大いに役立つ。しかし、プロジェクトの円滑な推進に必要な現地政府・企業との協調という点において、中国企業の経験は比較的浅い。このため、現地政府への対応、工事進捗管理、信用供与などにおいて問題が生じることがある。それが中国の海外展開や発展途上国支援にマイナスの影響をもたらしている。例えば、中国から借金した途上国の債務問題は、中国の「一帯一路」イニシアチブに対して多くの人々が疑念を抱く要因となっている。
そうしたリスクを回避する方法は日本企業がよく分かっているため、中国が建設事業を実行する部分を担当し、日本が現地政府・企業との連携や資金調達面などにおける調整・条件交渉の責任を担うといった協力の方法が望ましい。中国が日本企業と緊密に協力すれば、海外事業の成功確率は高まるだろう。
経済分野のみならず、文化的な共通基盤を持つ日本と中国は、儒教、道教、仏教、禅など異なる考え方に対して寛容な伝統精神文化を共有している。今の世界はイデオロギー対立が先鋭化しているが、東アジアは本来、異なる思想・宗教に寛容な文化的伝統を持っている。日本と中国で協力し、異なる立場に対する寛容な姿勢を世界に広げていくことができれば、さまざまなイデオロギー・宗教対立を少なくすることができるのではないだろうか。日中両国が共同で第三国に東洋思想の理解を広げる文化施設をつくり、東アジアの伝統的な精神文化に対する理解・共感を深める努力を継続する。それによって異なる考え方を寛容に受け入れる姿勢が世界中に広がり、世界の平和に貢献することを願っている。
2018年10月26日、第1回中日第三国市場協力フォーラムが北京で行われた。中日両国が協力して第三国市場を開拓することは、双方間の不要な競争を抑えるとともに、相互利益とウインウインの促進にも寄与する。両国の第三国市場、特に「一帯一路」沿線地域における協力の見通しは明るい(中国政府網)