海外紙幣にハイブリッド米
王朝陽=文
マダガスカルで額面が最も大きい2万アリアリ札には、中国のハイブリッド米が描かれている。豊作の喜びと希望を伝えるふっくらとした稲穂の図柄が人目を引く。中国のハイブリッド米がなぜ東アフリカの国の紙幣の図柄として採用されたのか。その話は2007年にさかのぼる。
米の輸入から自給自足へ
農業を経済の中心とするマダガスカルは2000年以上の稲作の歴史があり、米は重要な食用作物だ。しかし良質な稲の種子と熟練した栽培技術の不足により、もっぱら自然条件任せ(9)の稲作をしているため収穫が不安定で、人口の10分の1近くが飢餓に直面し、政府は毎年大量の米を輸入しなければならない。食糧の自給自足と生産・収入の増加を実現することは、マダガスカル政府と農民の長年の願いだ。
マダガスカルにおける中国のハイブリッド米生産支援プロジェクトは07年から正式にスタートし、現地の農業生産に大きな変化をもたらした。中国の専門家が次々と現地に来て、科学研究、デモンストレーション、普及などの業務を展開している。湖南省出身の胡月舫さん(66)もその一人だ。08年末にマダガスカルを訪れた胡さんは、ここの自然環境が中国と大きく異なり、自国の研究経験をそのまま応用できないとすぐ気付いた。適応性が最も優れたハイブリッド米の品種を見つけるため、胡さんは技術チームを率いて島のほぼ全ての水稲栽培地域を回った。彼らは2年かけて、現地の高、中、低標高地域に適応できる3種のハイブリッド米の育成に成功した。新品種の1㌶当たりの生産量は現地の通常品種の3~4倍に達する。
良質な種子を有しただけでは、食糧の自給自足の実現にはまだ程遠い。「マダガスカルの農民は集約農業に慣れて いませんでした。彼らはいつ種をまき、いつ刈り取るかぐらいの簡単な農業技術しか知らず、どのように水分と肥料を保持し、どのように種子を処理するかについて、全く分からないのです」と胡さんは振り返った。マダガスカルに根を下ろした十数年間、胡さんと彼のチームは地元の農業技術者と水稲栽培農家を数百人育成した。「県から村、村から栽培の現場まで足を運び、講義を行いました。地元の農家にハイブリッド米の栽培技術を教えるだけでなく、彼らが生活を豊かにする道を見つけるよう助けなければなりません」と胡さんは話す。「家具がほとんどないわらぶき小屋に暮らしていた貧しい教え子は、ハイブリッド米を栽培することで、小屋は小さなビルになり、ハンドトラクターや家具、家電を買いました」と胡さんは教え子の生活の変化を例に挙げた。
中国の技術専門家と地元の農家が共に取り組んだ結果、現在、マダガスカルのハイブリッド米の合計栽培面積は7万5000㌶以上に達し、1㌶当たりの平均生産量は7・5㌧で、最大生産量は1㌶当たり11・87㌧に達し、アフリカでハイブリッド米の栽培面積が最も大きく、生産量が最も高い国となっている。今後3~5年以内に、マダガスカルはハイブリッド米栽培を全国的に普及するつもりだ。現在、マダガスカルでは年間約70万㌧の米が不足しており、1㌶当たり7・5㌧の平均生産量で計算すると、マダガスカルでさらに約10万㌶のハイブリッド米を栽培すれば、地元の悲願である食糧の自給自足が実現できる。
飢餓のない世界へ
マダガスカルにおけるハイブリッド米技術の普及は、中国が飢餓をゼロにし、貧困をなくそうという持続可能な開発目標(SDGs)の実現に向けて積極的に力を貢献している縮図である。
中国の科学者・袁隆平氏は1970年代にハイブリッド米の技術開発に成功した。中国が世界の9%に満たない耕地で世界の約5分の1の人口を養い、世界1位の食糧生産国と3位の食糧輸出国となった裏には、ハイブリッド米技術がある。中国は79年に初めてハイブリッド米の種子を海外に提供し、世界にハイブリッド米技術を普及した。国連食糧農業機関(FAO)は92年にハイブリッド米技術を発展途上国の食糧不足問題を解決する戦略的措置の一つに組み込んだ。現在、中国のハイブリッド米はすでにアジア、アフリカ、アメリカ大陸に渡り、数十の国と地域で栽培されており、年間栽培面積は800万㌶近くに達し、世界の水稲生産量を大幅に向上させ、世界の食糧の安全を保障し、持続可能な農業発展を促進するために重要な役割を果たしている。
世界の飢餓問題は依然として厳しい。「世界の食糧安全保障と栄養の現状」2024年版報告書によると、世界の飢餓レベルは3年連続で高止まりしており、大きな改善はない。昨年には約23億3000万人が中程度または重度の食料不安に直面し、このうち8億6400万人以上が丸一日以上食べる物がないような深刻な食料不安を経験した。
世界の飢餓問題は、感染症の突発的な発生、極端な気候変動、頻発する地域衝突、世界経済発展の鈍化など、複雑な要素が入り混じっている。そのため、優良品種と栽培技術の普及を絶えず行い、食料の生産、加工、流通、備蓄の応急能力を高めるほか、各国が協力・ウインウインの理念を堅持し、手を携えて共に努力する必要がある。飢餓問題を引き起こす原因はさまざまだが、飢餓から抜け出せる「唯一の道」は協力強化にほかならない。