進化するECとモデル

2024-10-31 15:26:00

高原=文 

1999年9月3日、北京、上海、広州で12人のボランティアがそれぞれホテルの個室で「72時間ネット生存実験」に挑戦した。彼らは3日間部屋から出られず、主催側が用意した現金1500元と1500元相当の電子マネー、そしてインターネットに接続されたパソコンを頼りに外部から食べ物や寝具、その他の生活物資を入手するほかなかった。 

当時は電子商取引(EC)が始まったばかりで、ネットで商品を買ったことがある人はほとんどいなかった。実験中は、26時間で空腹に耐え切れずにリタイアした大学生もいれば、インスタントメッセンジャー「ICQ」でネットユーザーに食べ物を届けてもらう人、ショッピングサイトにアクセスしたものの支払い方が分からずに、サイト管理者に連絡してBBS(電子掲示板)で一から教えを乞う者までいた。実験終了時点で、ネットで購入した商品の大半はまだ届いていなかった。 

こうした状況は今の中国では想像できない。今の若者はインターネットから欲しい物の大部分を購入できるだけでなく、ネットに出店して商品を売ることも簡単だ。インターネットにより、人々は「買う」「売る」の両方でより楽で便利になった。 

より低い価格 より多くの選択  

72時間ネット生存実験」を実施した当時は、ちょうど中国第1陣のEC企業が集中的に設立された時期だった。書籍販売で有名な当当網、ソフトウエアや録音録画製品の販売で起業した卓越網などがそれだ。これらのB2C(企業対消費者間取引)モデルのEC企業は、学習能力が高く、新しいもの好きな若者を最初に取り込んだ。価格が安く、賞味期限がなく、若者に人気の書籍、ソフトウエア、オーディオグッズはEC企業が市場反応を試す最初の選択肢となった。 

2000年、卓越網はチャウシンチー(周星馳)が主役を務めた映画シリーズ『チャイニーズオデッセイ(大話西遊)』のVCD(ビデオCD)を低価格で販売することで成功を収めた。中国におけるインターネットの発展史をまとめた『沸騰十五年(中国インターネット1995~2009)』(未邦訳)によると、当時の卓越網副総裁の陳年氏がこの映画の大ファンで、売れ行きが鈍い『大話西遊』のVCDがどこかの出版社にあると聞いて、全て引き取ったのだそうだ。実店舗では70元のVCDが卓越網ではたった40元、その後さらに20元に下がり、最終的には1セットわずか4元で販売された。低価格はEC企業が消費者を引き付ける最大の要因だ。 

1970年代生まれの劉円円さんはネット通販マニアだ。仕事を終えて帰宅してから、ネット通販の小包を一つ一つ開けることが、頑張った一日の最大の楽しみだ。彼女の最も成功したネット通販は、アマゾンで3000元という価格で日本の腕時計を購入したことだ。「その腕時計は北京のショッピングモールで6000元以上で売られていました。アマゾンの『クロスボーダーコマース』なら半額で正規品なのでとてもお得です」 

劉さんが初めて使ったネットショッピングサイトは淘宝網(タオバオ)だ。アリババグループ傘下のC2C(個人間取引)ECプラットフォーム淘宝網は2003年に設立され、最初の3年間は無料で出店できるという優遇政策と中国の国情により適応したバザールモデルにより、ライバルの「eBay」(オークションモデル)に打ち勝ち、大量の個人出店者や小規模事業者を集めた。豊富な品揃えと驚異の安さにより、淘宝の人気は卓越や当当などのB2C企業をたちまち上回った。 

「淘宝で初めて買った商品は店主の手編みハンドバッグで、とてもかわいかったです。淘宝で売られている商品が実店舗や他のネット通販サイトより安いことに気付いてからは、淘宝ばかり利用するようになりました。今では、服や靴、日用品の8、9割は淘宝で買っています。野菜なら実店舗のスーパーに行きますが、牛乳や米、小麦粉などはほとんど淘宝で買います。翌日に届きますし、品揃えもより豊富ですしね」 

消費意識行動の変化 

当当や卓越が若者へのネット通販の啓蒙活動をしたとすれば、淘宝はネット通販をより幅広い消費者層に普及させた。「アリババ集団研究」のデータによると、03年から08年にかけて、中国のネット通販の年間取引高は10億元から1200億元に急増し、淘宝の年間取引高は3400万元から999億6000万元に上り、新規市場シェアのほとんどを獲得した。中国の新規ネット通販ユーザーは08年に1億2000万人に上ったが、そのうちの9800万人が淘宝の会員だった。 

淘宝はすでに中国最大のC2C取引プラットフォームとなっており、中国の消費者のネット通販に対する基本的な認識と利用習慣の多くは淘宝によるものだと言える。例えば、第三者決済プラットフォームや7日間以内無条件返品、返品の送料を保険会社が負担する「運賃険」サービス、ダブルイレブンショッピングフェスティバルなどは、いずれも淘宝を通じて中国の消費者に受け入れられていった。 

1970年代生まれの劉円円さんがネット通販を利用した理由は安くて便利で選択肢が多いことだが、90年代生まれの李慧さんはネット通販によって消費価値観が根本的に変わった。 

李さんは高校時代からネット通販を利用し、韓国風デニムパンツを買うため、父親に郵便局まで付き添ってもらって淘宝の第三者決済プラットフォームに送金したこともある。劉さん同様、私服の9割はネット購入だ。「ネット通販なら、欲しいものの大まかなイメージがあれば、キーワードで検索するだけで済みます。店だと一軒一軒回らないといけないし、探しても見つからない場合も多いですね」。モバイルインターネットが普及してから、ネット通販の利便性はさらに向上した。「以前はパソコンの前で欲しいものを選ばなければならなかったですが、今はスマホがあれば朝起きてベッドに横になったまま買うことができ、実店舗にはもっと行きたくなくなりますね」 

バーゲンセールの時期になると、淘宝ではさまざまな割引イベントが行われ、予約段階から各人気SNSは若者の「共同購入の集散地」となっている。李さんは同僚や友人と、またはレビューサイト「豆瓣」(Douban)の「拼組(共同購入の話題に関するBBS)」でネットユーザーと共同購入をする。「豆瓣」は本来書籍や映画、音楽好きが交流するサイトだが、共同購入に関する投稿が多いため、共同購入グループの「拼組」も設置された。「拼組」に入るのは容易ではない。「グループに入るには質問に答えなければいけません。こうやって詐欺師や広告の混入をできるだけ防止しているんです」  

ネット通販がもたらした利便性とネット通販が形成したさまざまなサブカルチャーによって、李さんのようなZ世代の「デジタルネーティブ」は実店舗からさらに遠ざかっている。この背景の下、「72時間ネット生存実験」記念で16年に上海で行われた「72時間ネットなし生存実験」での若者の評価が、「1日が1年のように長くてつらい」であったことも不思議ではないだろう。 

ソーシャルコマースの台頭  

モバイルインターネットやソーシャルメディアの発展に伴い、ネット通販がますます便利になるばかりか、一般人がネットに出店するハードルもますます低くなっている。淘宝に個人として出店する場合、食品やサプリメントなどの特殊なカテゴリーには営業許可証などが必要だが、ほかの一般商品を売るなら、身分証明書の登録や最低500元の保証金、最低10点の商品という条件を満たすだけでいい。劉さんも李さんも淘宝で物を売った経験があるが、店を出したわけではなく、使っていない遊休品を売っただけだ。 

「淘宝でソファを売ったことがありますし、中古の万年筆を売る手伝いをしたこともあります。本当は子どもの古いおもちゃを売りたかったのですが、写真撮影や紹介文、購入希望者との値段交渉や商品の発送など面倒だったのであきらめました」と劉さんは自分の「商売」経験を話した。 

淘宝での出店が商品資料の編集、投稿、レイアウトで複雑だと言うのなら、ショートビデオプラットフォーム抖音(TikTok)や快手(クアイショウ)、ライフスタイル共有プラットフォーム小紅書(RED)などで商品を販売するのはより簡単だ。抖音を例に取ると、ライブコマースをするには実名認証、10件以上の動画投稿、1000人以上のフォロワー数という三つの条件を満たすだけでできる。そのため、ライブコマースで自分のビジネスを始める人が増えた。 

内蒙古自治区シリンゴル(錫林郭勒)盟のウラガイ(烏拉盖)草原に暮らす「太平哥」(本名 阿木古楞)さんは内蒙古の特産品をライブ配信して販売することで年間5000万元を売り上げるライブコマースのプロだ。ライブコマースをする前に、彼は草原の観光エリアにビーフジャーキー店を経営していて、結構人気があった。しかしウラガイ草原の観光シーズンは夏季の約40日しかなく、その他の時期には収入はほとんどゼロだった。17年、阿木古楞さんは快手で動画を共有する友人に影響を受けて、自分でも動画を撮った。そして草原でビーフジャーキーを作る動画を投稿したところ、たくさんの「いいね」をもらい、多くのネットユーザーから「これは売り物ですか」「送料無料ですか」という質問が来た。これを見て阿木古楞さんはビジネスチャンスを確信した。 

快手でビーフジャーキーを売った最初の月で、実店舗の1年分の売上とほぼ同じ1万5000元を稼いだ。しかもネット通販はオンオフシーズンがなく、新型コロナウイルス感染症の時も大きな影響を受けなかった。その後、阿木古楞さんの商売はますます大きくなり、周囲の牧畜民も彼と一緒にライブコマースを通じて豊かになった。彼は今、毎日5時間以上ライブ配信し、月に2日しか休んでいないという。「疲れますが、やっぱりライブコマースが好きです。淘宝でも店をオープンしましたが、トラフィックは快手や抖音より少ないです。淘宝では、どれほどうまく紹介しても全部文字ですから、あまり見向きされません。やはり動画で紹介した方がいいと思います。ビーフジャーキーやミルク豆腐を作る様子をライブ配信することで、商品は実際にこう作っているとお客さんに伝えています。お客さんとの信頼関係が築かれれば、商売はますます良くなるんです」 

より臨場感のある展示方法とリアルタイムなインタラクションにより、ソーシャルECプラットフォームが急速に台頭している。広州日報の報道によると、昨年の中国ライブコマースの年間総取引額は約4兆元で、オンライン小売売上高の4分の1以上を占めた。従来の電子商取引に対するライブコマースの代替効果は非常に顕著だという。 

メリルリンチ証券のアジア太平洋シニアエコノミストや世界銀行の顧問を務めた許小年氏が書いた『ビジネスの本質とインターネット』(未邦訳)によると、当当、卓越、京東などのB2C型EC企業はビジネスロジックにおいて、従来の小売店と本質的な違いはなく、いずれもメーカーや卸売業者から商品を買い取り、消費者に販売している。ただ、その規模の経済の効果と相乗効果はインターネット上の仮想空間の中でかつてないほど拡大されており、既存業界を超える可能性をインターネット企業に与えている。 

従来の電子商取引と比べると、ソーシャルコマースはより顕著な両面市場効果とメトカーフの法則を持っている。メトカーフの法則とは通信ネットワークに関する法則で、「ネットワーク通信の価値は、接続されているシステムのユーザー数の2乗に比例する」という意味だ。つまり、ユーザー数やユーザー間のインタラクションが多いほど、同プラットフォームの価値は高くなる。また、ソーシャルコマースはユーザーにより大きな自由度を与えた。ユーザーが買い手と売り手の立場を自由に切り替えることができるようになり、これによって、より多くの人が簡単にオンライン貿易に参加することができ、市場の活力も高めた。これは電子商取引の最近の発展方向を表している。 

より長期的に見れば、インターネット技術のさらなる発展、特に拡張現実(AR)技術やビッグデータ、人工知能(AI)の進歩に伴い、EC業界にはさらに多くの変革と新しいすう勢が生じ、人々の生活と観念もそれによって変化するだろう。そのとき、人々がどのような新鮮なネット通販体験をするのか。その答えは時間が教えてくれるはずだ。 

 

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