VRでメンタルをケア

2025-03-31 10:22:00

王朝陽=文 釈然遇=写真提供 

「周囲の光球に照準を合わせてリモコンのボタンを押して、光球を引っ張ってください。それからボタンから指を離してリモコンを振り、光球を遠くに飛ばしてください」 

北京市首鋼園にある「釈然而遇」VR芸術ヒーリング空間で、VR瞑想体験をする利用者たちに心理カウンセラー(7)が説明する。ヘッドマウントディスプレー(VRゴーグル)を装着した数人が指示通りに腕を挙げ、何もない空間に向かってリモコンを振り始めた。いささかおかしな光景だが、VRゴーグル越しには全く異なる光景が広がっている。ソファやテーブルの置かれた部屋は空中に浮かぶ蓮の花となり、利用者はその花びらの中で心理カウンセラーの言葉通りに動作を一つずつ行う。 

「光が体を駆け抜けると、疲れや悩みが全て押し流され、集まったそれらの負の感情が光球となって一つずつ飛んでいきます。これから宇宙の中に身を投じて、自身に無限の魂があることを感じましょう」 

利用者たちは心理カウンセラーの言葉に従いながら、バーチャル空間(8)で「星の海」を思う存分漂った。約1時間の瞑想後、「最後まで存分に浸れて、とてもリラックスしています。ストレスや緊張感から解放されました」と利用者は語った。 

心の扉を開く 

前述のような心のケアの効果を良く実現するには、VRのサポートが欠かせない。VR技術によって、利用者は心理カウンセラーが語る景色や物体を実際に見られるばかりか、自身の感情に集中できるようになる。VR技術は没入感あふれるリアリティーを生み出すだけではなく、利用者に安全で制御可能な空間を提供することで、またたく間に心の壁を取り払い、カウンセラーと信頼関係を築けるようにさせる。 

「これがVR技術を応用したメンタルヘルスと従来の心理カウンセリングの違いです」。高級心理カウンセラーの艾詩然氏(39)は長年の経験と結び付けて次のように語る。「従来の心理カウンセリングは対面形式がほとんどでした。しかし相談者の多くは質問されるのが好きではないため、その前の何度かの交流で相談者の潜在的な抵抗感(9)を取り除く必要があります」 

青少年への心理的アプローチが専門の艾氏は自身の診療経験をまとめ、青少年の心理問題の大多数は「権威」との関係性、すなわち親との仲に問題があると考えた。「このような状態で心理カウンセラーとして介入し、相談者の青少年に私はあなたの理解者だと言ったところで、子どもたちは最初は信じません。彼らにとって私もまた『権威』の象徴だからです」 

しかしVR技術によって、心理カウンセラーは多様なアニメーション効果を持つシーンをつくり出せ、愛くるしい小動物にさえ変身可能になった。これによって自身の権威性を下げて、子どもをリラックスさせられる。艾氏は自傷行為をする子どものケースを紹介した。「一緒にVR空間に入ると、私は子グマとなり、私のイメージはカウンセラーから安心感を与える存在になるのです」 

心のよろいを脱いだ子どもは会話をしたがらなかった当初とは変わって、少しずつ朗らかになった。「打ち解ける中で、子どもは学校に行きたくない理由や自傷行為をする理由を打ち明けてくれました。最初の診察後、彼女の両親から、娘がとても喜んでいて身体の疾患も徐々になくなったという返事がありました」 

増える応用シーン 

うつ病で1週間眠れない利用者をVR治療で深い眠りにいざなった。育児のために職場から長期間離れている女性はVR空間で泣き崩れ、自信を取り戻した。不安障害の患者はVR瞑想で平穏な気持ちを取り戻し、職場に戻ってこれまで通りに働いている。これらの実践と経験は、VR技術で心理的な問題を治療するという創業のアイデアを艾氏にもたらした。 

艾氏は2022年10月に釈然而遇(北京)科技文化有限公司を設立し、自身の業務経験を結び付けて、さまざまな心理的な問題に効果的に対応するVR風景をデザインした。昨年10月から同社が開発したVR風景などの製品が次々に学校やコミュニティーの心理カウンセリングルームに設置され、VRゴーグルをすでに持っている利用者にはオンラインVR瞑想サロンなどのメンタルケアイベントを打ち出した。過去2年の創業経験を振り返った彼女は、自分が身を置くVR産業はまさに急成長のチャンス期にあり、VR技術の普及とコストの低下によってVRヘルスケアを受けられる人は増えていると感じている。 

18年末に中国は「バーチャルリアリティー」をテーマとした初となる政策文書「バーチャルリアリティー産業発展の推進の加速に関する指導意見」を公布するとともに、第14次五カ年計画で、VRAR産業を今後5年のデジタル経済における重点産業の一つにすると指摘した。中国のリサーチ会社iiMedia Researchによると、23年の中国VR市場規模は前年比228%増の1126億元で、28年には2125億9000万元に到達する見込みだ。国際的な市場調査会社IDCのデータによると、23年の中国のVRゴーグルの出荷台数は40万台以上だ。これらのデータの陰には、VR技術が工業、教育、医療、ゲーム、ショッピング、映画ドラマなどの数々の分野に溶け込み、応用する枠を絶えず広げ、VR製品に対する消費者の受容度が上がり続けている事実がある。 

近年急速な発展を遂げる人工知能(AI)は、VR技術の多分野への応用にとって虎に翼だ。艾氏の会社は現在、AIによるデジタル医療サービスの提供を重要業務の一つにしている。「今後のVR空間では、AIによって直ちに気分転換する治療法が生かされ、相談者が心理的問題を解決する中で、AIは被験者の心理状態を正確に測定し、客観的なアドバイスとなるレポートを提供できます」。インタビューの終わりに艾氏は明るい未来を語った。「AIの発展により、私たちはVR空間でメンタルヘルスサービスに全く新しい活力を注入できます。治療効率を上げるだけでなく、ハイテクと人類の関係も近づけられます。私たちとAIは対立するのではなく協力するパートナーです。将来、ハイテクによって多くの人が助かり、世界の心の健康がより効率的に守られ、ハイテクと人類が共生する美しいビジョンが実現されてほしいです」 

人民中国インターネット版

 

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