海外上映の壁なお高く
王朝陽=文
中国映画と聞いて多くの外国人が真っ先に頭に浮かべるのはおそらく、「アチョー!」という掛け声とともにアクションスターが素早く拳を繰り出し、空中で蹴りを放つシーンだろう。
中国のチケット販売サイト猫眼電影と米国映画興行成績分析サイトボックスオフィスモジョの統計によれば、今年3月時点で中国映画の海外興行収入トップ10は上から順に『グリーン・デスティニー』(2000年)、『ヒーロー』(02年)、『ラヴァーズ』(04年)、『レッドクリフⅠ・Ⅱ』(08年、09年)、『王妃の紋章』(06年)、『カンフーハッスル』(04年)、『レッド・ブロンクス』(1995年)、『ドラゴンへの道』(72年)、『スピリット』(2006年)である。
ジャンルという角度から見れば、トップ3は全て古代中国を舞台とする武侠映画だ。海外興行収入は『グリーン・デスティニー』が2億1000万㌦、『ヒーロー』が1億3900万㌦、『ラヴァーズ』が8100万㌦だった。4位と5位の『レッドクリフⅠ・Ⅱ』は歴史戦争映画で、合計1億5300万㌦の海外興行収入のうち、約1億㌦は三国志を愛する日本の観客からだ。そして、後半の5作品は、いずれもカンフースターのブルース・リー、ジャッキー・チェン、ジェット・リーが主演を務めるか、または臨場感あふれる格闘シーンがある作品だ。この特徴からも中国カンフー映画の海外市場における観客動員力がうかがえる。1970年代にカンフースターのブルース・リーの映画によって「Kung Fu」が英語の辞書に載せられてから、カンフー映画は中国映画が世界に進出するパイオニアとして、中国文化の第一印象の形成に大きく寄与し、中国映画の海外展開において重要な役割を果たしてきたといえる。
不均衡なてんびん
21世紀以降、中国映画産業の向上、国内映画市場の急速な成長に伴い、中国映画の海外展開事情も絶えず変化している。
2010年までの間、中米共同製作映画『グリーン・デスティニー』が世界中で大成功を収めたのを見て、多くの中国映画関係者が国際市場に注目し、アカデミー賞を目指すようになった。この時期、『ヒーロー』や『レッドクリフ』などの武侠や歴史をテーマにした中国映画が『グリーン・デスティニー』の成功パターンを踏襲して、巨額の投資、大規模な製作、迫力ある古代の映像によって世界的に話題を呼んだ。
中国は12年に170億元の年間興行収入で世界第2位の映画市場となった。無限の可能性を秘める巨大な国内市場を前に、中国の映画関係者は国内の観客のニーズを満たすことにますます集中していった。10~20年の間、武侠をテーマにした大作映画は徐々に魅力を失い、コメディー、戦争、ファンタジー、アニメ映画などが順番に主役を務め、国内の興行収入記録を次々に塗り替えた。しかし、さまざまなジャンルが花開いた国産映画は、海外展開において武侠映画や歴史映画が人気だった時代の輝きを続けられなかった。業界関係者は中国映画の国内外での現状をてんびんに例えて、「一方は天にあり、もう一方は地に埋まっている」と述べた。
19年と23年に公開されたSF映画『流転の地球』の第1作と第2作がこの不均衡なてんびんを少し揺るがしたのは業界にとって喜ばしいことだった。このシリーズの上映は、海外の華人コミュニティー限定という狭い枠を打ち破り、多くの現地の観客を動員した。『流転の地球 ―太陽系脱出計画―』の海外興行収入は1000万㌦を超え、映画評価サイトのロッテントマトで新鮮度78%(批評家による評価)、ポップコーンメーター97%(観客による評価)を獲得し、評価が厳しい映画情報サイトIMDbでも7・9/10の点数がついた。興行収入でも評判でも、国際市場において、中国映画では近年比較的良い成績を収めた。
海外配給の道は長い
ハリウッド映画に匹敵する(8)視覚効果と、世界中の観客にとってなじみがある世界滅亡というテーマにより、『流転の地球』シリーズの海外展開は破格な結果となった。しかし、海外配給(9)チャネルの不足と、海外の映画館での上映回数の少なさは、ここ十数年の中国映画の海外展開にとって映画の質と宣伝戦略だけでは乗り越えられない高い壁となっている。『流転の地球』シリーズの監督郭帆氏は、「『流転の地球 ―太陽系脱出計画―』は当初、北米で100館余りの映画館でしか上映されませんでした。上映館数は2000館以上あるのが一般的ですが、私たちはわずか5%のシェアしかありませんでした」と感慨深く振り返った。中国初の興行収入100億元を超えた今年の映画『ナタ 魔童の大暴れ』も同様の困難に直面している。この映画は北米、オーストラリア、ニュージーランドでの上映回数が過去20年間の中国語映画配給会社の記録を塗り替えたが、同時期に公開された『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』が北米市場で約4000館で上映されたのに対し、わずか700館余りだった。
海外配給という弱点をどのように補うのか? 外国との共同出資、製作、配給が、中国映画の海外進出を促進する重要な道の一つだ。23年10月、ソニー・ピクチャーズは中国で50億元以上の興行収入を収めた映画『こんにちは、私のお母さん』の英語リメーク権を購入し、同作の監督賈玲氏をエグゼクティブプロデューサー兼監修に招いた。これはハリウッドにとって初の中国コメディー映画リメークであり、中国語の映画と中国の物語を海外発信する上で非常に意義深い出来事だ。多くの中国人の笑いと涙を誘った母と娘の物語が、リメークによって海外の観客も感動させられるか? 国際協力の効果が期待される。
また、近年のストリーミングプラットフォームの急速な発展に伴い、海外のストリーミングプラットフォームを生かせば、広範な海外配給網を持たないという中国映画の国際展開におけるボトルネックを解消できるかもしれない。中国映画の海外ストリーミングプラットフォームへの配信を推進するニューメディア著作権会社の華視網聚は、ストリーミングプラットフォームの発展性を見込んでいる。その理由はまず、空間の制限を受けないことにある。映画館にはスクリーン数の制限があるため、海外のスクリーンで上映されるのは一部のトップコンテンツに限られているのに対し、ストリーミングプラットフォームではさまざまなジャンルや製作規模の映画が配信できる。もう一つは時間の制限がないことだ。新作だけでなく、過去の名作もプラットフォームで配信されて多くの視聴回数を得られる。
カンフー映画が一輪咲いた時代から、さまざまな映画ジャンルが開花する時代になり、そして映画館だけで公開するという時代から、複数のプラットフォームで同時配信する時代になった。その間、中国映画は海外で輝かしく展開した時代もあれば、失意を味わったこともあった。カンフー映画は中国映画が海外に進出する扉を開いたが、中国映画が世界中に広まり、各国の観客の心の奥に届き、異なる国々の間で感情の共鳴と相互理解の懸け橋となるまでには、まだ長い道のりがある。これには中国の映画関係者の不断の努力が必要とされる。