アニメが生む経済効果
王朝陽=文
中国の「80後」「90後」(1980年、90年代生まれ)に知っているアニメを聞いてみると、『トランスフォーマー』や『ワンピース』など米国や日本の名作が多く挙がり、似たような答えが返ってくる。しかし「00後」「10後」(2000年、10年代生まれ)の若者に聞いてみると、答えが一気に多様化し、『一人之下』や『縁結びの妖狐ちゃん』などの中国アニメも少なからず入ってくる。この変化は、中国産コンテンツの制作会社やプラットフォームが台頭し、中国アニメが子ども向けというレッテルから脱却し、より全面的に成長したことを物語っている。それとともに、中国の視聴者から高評価を得たアニメは海外に進出し、世界で存在感を発揮している。
転機は「羅小黒」
目下、中国アニメの輸出先は、北米、日韓、東南アジアがほとんどだ。北米と日韓はアニメ産業が成熟し、アニメを視聴する習慣が根付いている一方、その競争もすさまじく激しい。東南アジアは『琅琊榜~麒麟の才子、風雲起こす~』『宮廷の諍い女』『瓔珞~紫禁城に燃ゆる逆襲の王妃~』などの中国ドラマが話題になったこともあり、中国アニメを許容しその内容に共感する層が一定数いる。
中国国家広播電視総局発展研究センターが発表した「中国アニメ国際普及報告(2023)」によると、アニメはすでに中国の視聴覚著作物が海外に進出する上で重要な形態の一つとなっている。23年のテレビアニメの輸出額はテレビドラマ・ネット視聴番組に次ぐ各コンテンツ輸出総額の6・14%で、輸出再生時間は全体の12・15%だった。12~23年で中国アニメのアジアへの輸出額は輸出総額の62・4%を占め、特に日本は輸出単価が最も高い国だ。
長年にわたって中国アニメIP事業に携わり、日本で代理業務を行うAnimore株式会社の陳龑社長(37)は中国アニメが日本などの海外市場でどのように受け止められたかを見てきた目撃者でもある。「最初はアニメ映画もアニメシリーズ作品も日本で展開するのは難しかったです。映画は貸し切り上映会にして華人の観客向けに上映したり、シリーズ作品だと配給会社がTOKYO MXなどの視聴率調査対象外のローカル局の深夜アニメ枠を自費購入して放送することが多かったです。この時期の海外上映は商業目的ではなく、中国の制作側が作品のIP価値を高めるためのブランディングといえるものでした」と陳社長は振り返る。
転機が訪れたのは『羅小黒戦記』だ。19年に中国で公開されると、その同月に日本語字幕版が日本のミニシアターで上映された。20年にアニプレックスなどの日本の大手アニメ企業が参入後、日本語吹替版『羅小黒戦記』が上映された。吹替版の興行収入は5億6000万円、観客動員数は26万人を超え、中国アニメ映画の海外興行収入で過去最高を記録した。この成功は新たなブームを巻き起こした。華人企業が全額出資して推し進めるのではなく、日本の業界内で有名な企業と製作委員会をつくり、中国ですでに成功した中国アニメを輸入し、ビジネスとして日本の有名声優を当ててローカライズするようになった。中国で人気の『ミニ豆ちゃん』や『万聖街』『フェ〜レンザイ』はこのブームの下、22〜23年に日本の地上波で放送された。また、『時光代理人』の第1期と2期が22年と昨年に放送された。
実写化が知名度向上の鍵
TikTokで1億以上再生された『シザー・セブン』や『時光代理人』などの中国アニメIPをまとめると、中国アニメには地域性や伝統文化からインスピレーションを得た個性が色濃く出て、絵柄やストーリーが日本や欧米のアニメと明らかに異なるつくりをしているのが分かる。
「経験上、中国文化が色濃いコンテンツほど海外に進出させやすくなります。特にビジュアルや美術に特徴があればなお良いです。なぜなら視聴者は作品を視聴することで新たな体験を得たいからです。しかしそれとともに、作品の趣旨は海外の方でも親しみ感のあるものに限ります」。陳社長は日本でIP運営をした『フェ〜レンザイ』を例に取り、分析を続ける。「物語には古代中国の神話で登場する神々がたくさん出ていますが、舞台は現代です。神話のキャラクターが現代社会で生活しているという設定で、満員の地下鉄に揺られたり、オフィスで働いたりする様子は都市で働く人々にとって見慣れた光景で、国内外の人々が共感できる内容です」
100億回の再生数を誇る国際的なIPと比べて、中国アニメIPと海外のトップクラスのアニメには明らかな差がある。中国作品は個性的な絵柄と中国らしいストーリーで一部の外国人を引き付けているものの、異文化理解を促進するコンテンツという意味ではまだ芽が出た段階だ。
実写化でアニメIPの知名度を高めるのは、多くの実践が証明した有効なルートで、米国アニメ業界が創出し打ち出したディズニープリンセスやマーベルなどが成功例だ。ドラマ化は中国アニメIPの知名度を一段上げる鍵となりつつある。この3年で『少年歌行』『一人之下』『大理寺日誌』などが実写化され、海外で成功した。中でも『少年歌行』は動画配信サイトVikiの北米エリアで9・8点という高得点を収めた。
TikTokでは以前から中国アニメより中国ドラマが話題だ。上述した東南アジアのほか、英語、スペイン語圏の国にもたくさんのファンがいる。中国ドラマが海外市場へ着実に歩を進める中、中国アニメもその船に乗り、実写ドラマの形で海外進出ルートを増やし、競争力を高めれば、世界の舞台でより輝くだろう。