経済の開放と繁栄への道
段非平=文
60年前、西蔵自治区の域内総生産(GRP)は3億2700万元しかなく、近代的な工業企業は一つもなく、多くの農牧民が原始的な焼畑農業に頼っていた。しかし60年後の今日、西蔵自治区の経済は驚天動地の変化を遂げ、特色ある産業が大きく発展し、デジタル経済が勃興し、対外貿易が盛んに行われ、青蔵高原は質の高い発展の中で力強い生命力をたぎらせている。
産業クラスターが次々形成
西蔵自治区ロカ(山南)市のヤトゥイ(亜堆)郷チュデウォ(曲徳沃)村に住むツェリンヤンゾン(次仁央宗)さん(87)は、青々と生えるハダカムギ畑を静かに眺めていた。彼女は西蔵の農牧業の大変化の生き証人だ。
「旧チベットの頃は、家族全員が領主の小作農で、収穫した食糧の大半を上納し、その残りではお腹を満たせることもできなかった」とツェリンさんは遠くにあるハダカムギ加工産業パークを見つめながら言った。「今はまるで違います。産業パークがハダカムギを市場価格の2割増しで買いに来てくれるのです。毎年、わが家はハダカムギだけで1万元以上の収入があります」
このような変化は西蔵自治区の農牧地域のどこでも見られる。西蔵の農業・林業・牧畜業・漁業の総生産額は1965年ではわずか2億6400万元しかなかったが、昨年で300億元を超えた。シガツェ(日喀則)市ガムパ(崗巴85%がスマート養殖システムを使用し、ガムパ羊には全頭に専用のQRコードがつけられ、出生から出荷までの全過程を追跡することができる。牧畜民のツェリンワンドイ(次仁旺堆)さんの羊は20頭から150頭に増え、昨年の収入は12万元以上だった。「これまでは羊を売るために3日がかりで県城まで追い立てていましたが、今ではスマホで業者と連絡が取れ、いい値段で売れます」
)県の現代牧畜業産業パークでは、養殖業者の
現代的な産業クラスター化は、西蔵自治区の経済発展のポイントの一つだ。現在、ハダカムギの加工品、ヤクの製品、チベット医薬品などの産業クラスターが形成され、昨年の一定規模以上の工業企業(年売上高2000万元以上の企業)の付加価値は前年比18・8%増と、全国をリードする伸び率を示した。ラサ(拉薩)経済技術開発区のチベット医薬品産業クラスターエリアでは、西蔵奇正蔵薬股份有限公司の現代的生産ラインがフル稼働しており、サフラン、独一味(シソ科の一種)などの高原産生薬が、抽出、精製などの28の工程を経て、パップ剤、カプセルなど10種類以上の製品に仕上げられている。同社の責任者によると、ここでは生薬栽培、研究開発・生産、物流・販売までの完全な産業チェーンが形成され、23の関連企業が集積。年間5000㌧のチベット生薬加工能力を備え、ナクチュ(那曲)市、ニンティ(林芝)市などで2000世帯以上の農牧民が生薬栽培に従事し、1世帯当たり年間3万5000元の収入増をもたらしている。
活性化する高原経済
シガツェ市ギャンツェ(江孜)県にある西蔵格蔵ハダカムギ食品科技開発有限公司の製品展示場では、多種多様なハダカムギ製品が目を引く。伝統的なツァンパ(炒りハダカムギ粉)のほか、ビスケット、ポップコーン、プロテインパウダーなど20種類以上のハダカムギ製品が並んでいる。同社責任者のシォソドン(小索頓)さんはオオムギエナジーバーを手に取り、笑いながら言った。「昔は腹を膨らますだけだったハダカムギが、こんなにたくさんのものに生まれ変われるなんて、誰も想像できなかったでしょう」
20年前のシォソドンさんの家業は小さな工房にすぎなかったが、今では複数の自動化生産ラインを備えるハイテク企業に成長した。「企業が大きく強くなるには、資金や技術だけでなく、イノベーションが何より必要です。私たちは西蔵農牧学院と協力し、ハダカムギ加工技術を改良してタンパク質の保有率を30%向上させました。精密加工によって、ハダカムギ1㌧の価値は3000元から1万2000元にまで高まりました」と彼は語る。
独特な高原気候と地理的環境を生かし、西蔵自治区は新エネルギー分野でのイノベーションでも目覚ましい成果を上げている。ナクチュ市の太陽光発電産業パークでは、「太陽光発電+牧畜業」という革新的なモデルが広く応用されている。太陽光パネルの下に牧草を植えることで、土地利用率を高めると同時に、地元の牧畜業に十分な飼料を提供するのだ。同パーク責任者によると、「牧と光の相互補完」により、牧草地1ムー(約0・067㌶)当たりの経済効果は3倍向上したという。
科学技術イノベーションの活力は、青蔵高原の各地で湧き上がっている。シガツェ市では、科学者が開発した高原温室栽培技術により、イチゴやサクランボなどの果物が標高4000㍍以上の地域でも実を結ぶようになった。ニンティ市では、チベット医薬品企業が超臨界抽出技術を活用し、霊芝の有効成分抽出率を50%向上させ、製品は粤港澳大湾区(広東・香港・澳門グレーターベイエリア)にまで販売されている。西蔵自治区発展改革委員会の王念東党グループ書記が言うように、「科学技術イノベーションは西蔵の特色ある資源を本当の『金の成る木』に変えた」のである。
デジタル化の加速
ナクチュ市ニェンロン(聶栄)県のダワジュオマ(達娃卓瑪)さんは朝食を済ませると、スマホを操作して、自家製のヤク肉ジャーキーの最新検査結果をEコマースのプラットフォームにアップロードした。2時間後、上海からの発注があった。ヤク肉ジャーキーはコールドチェーン輸送によって48時間以内に顧客に届けられる。
「私たちの干し肉を4000㌔以上離れた上海に売ることなど、昔は考えもしなかったです。村のECサービスステーションが、食品の認証手続きを手伝ってくれて、さらにライブ配信のやり方まで教えてくれたんです。昨年は干し肉で8万元以上も稼ぎました」とダワジュオマさんは笑顔で語った。彼女は西蔵自治区に数万人いるEC事業者の一人にすぎない。西蔵自治区商務庁が発表したデータによると、ECは西蔵で急速に発展しており、昨年のEC小売額は300億元を超えた。
西蔵自治区のデジタル経済の発展はECにだけ見られるものではない。ラサ市には世界最高の標高で西蔵で最大のクラウドコンピューティングデータセンター――西蔵寧算科技集団有限公司がある。数千台のサーバーが高速で稼働し、企業と公共部門に対して膨大なデータの保存と演算サービスを提供している。「西蔵の低温低酸素の環境は人間が長期的に住むには大変ですが、ビッグデータセンターにとっては『理想の土地』です」と同社責任者の蒋寧氏は語る。中国の「東数西算」(東部地域のデータを西部地域で保存・計算すること)プロジェクトの下、同社は西部地域に大規模で低コストのスーパーコンピューターセンターを建設中であり、自社の資源的優位性を十分に発揮し、東部の先進地域から来る演算のニーズを積極的に受け入れ、高原でのデジタル経済の応用シーンを拡大し続け、地域の発展を推し進める大きな力となっている。
「デジタル経済はすでに西蔵の経済を発展させる『新たなエンジン』です。デジタル技術が西蔵の地域的制限を打ち破り、西蔵を外界と緊密に結び付けています」と西蔵自治区経済・情報化庁副庁長のワンドイ(旺堆)氏は語る。
南アジアに存在感発揮
西蔵自治区シガツェ市キドン(吉隆)県にあるキドン口岸(出入国検査場)は、中国とネパールを結ぶ重要な国境貿易ルートだ。朝もやの中、チベット族のザシ(扎西)さんが運転するトラックがゆっくりと検査通路に入っていく。荷台にはチベットじゅうたんやハダカムギ酒が満載されており、2時間後にはネパールの首都カトマンズに到着する予定だ。そして帰路は、南アジアの香辛料や手工芸品を積んで戻ってくる。「今は通関がとてもスムーズで、荷物がいつ到着してもすぐに検査が行われ、手続きも3~5分で完了します。以前は半日も列に並ばないといけなかったんですよ」。ザシさんは15年にわたってクロスボーダー輸送に従事しており、キドン口岸が簡易な通路から国際的な通関地点へと発展していく過程を目の当たりにしてきた。
60年前、西蔵自治区の対外貿易はほぼゼロに等しかったが、昨年には自治区全体の輸出入貿易額が126億7000万元を突破し、140の国・地域と貿易関係を築き、貿易構造も資源型から高付加価値型へと転換しつつある。
開放政策は貿易の増加をもたらしただけでなく、産業融合という新たな現象も生み出した。シガツェにあるチョモランマ文化観光クリエーティブパークでは、ネパールの職人と西蔵自治区の芸術家が協力し、タンカ(仏教絵画)の技術とヒマラヤ絵画を融合させた文化クリエーティブ製品を開発している。これらの製品は年間2000万元以上の売上を誇っている。同パークの責任者によれば、すでに12社のネパール企業が入居しており、「デザイン–生産–販売」という越境型の産業チェーンが形成されている。中でも手織りじゅうたんは、2000人以上の農牧民の雇用を生み出している。
「一帯一路」建設の下、西蔵自治区はすでにキドン口岸やジャンムー(樟木)口岸を含む6カ所の1類口岸(国境通関地)を整備しており、カトマンズまでの越境バスも開通している。「私たちは現在、中国・ネパール経済協力区の建設を進めており、西蔵を中国の南アジアに向けた開放の最前線としたいと考えています」と、西蔵自治区商務庁庁長の陳軍氏は将来の展望を語った。
閉鎖と孤立から内外とのスムーズな連携へ、経済的貧困から産業的繁栄へ──この60年間で、西蔵自治区は目覚ましい飛躍的発展を遂げた。青蔵高原は今後さらに開放的で包容力ある姿勢で、質の高い発展の新たな章を切り開いていくことになるだろう。