スマホから手軽に知識獲得
李家祺=文
通勤中にオーディオブックを聞いたり、スマホの読書アプリで知りたいことを検索したり、SNSの友人と感想を共有したりなど、デジタルと人工知能(AI)技術の発達に伴い、デジタル読書が人々の情報と知識の入手方法を静かに変えつつある。
中国のデジタル読書ユーザーは近年増加の一途をたどり、コンテンツも文字から動画や音声などへ多様化している。それと同時に、デジタル技術が読書の敷居を下げ、目の不自由な人々や経済発展が遅れている辺境地区の読者がよりスムーズにそれらのリソースに触れられるようにし、より多くの人々が読書と知識獲得の機会を得られるようにしている。ユーザーの増加とコンテンツの多様化に加え、デジタル読書は新たな産業チェーンを生み出し、読書促進と文化産業の発展を推し進める大きな力となっている。
読書の境界を広げる
文化広報活動に携わる李さんは、紙の本の愛好家だったが、4年前から電子書籍を読み始めた。「電子書籍は便利で、いつでもどこでも読めます。これまでは出張に紙の本を持っていきましたが、重いし場所を取るしで、いつも途中で読む気が失せていました」

文字を読むほかに、オーディオブックやAI音声読み上げなどの新たな形式が読書の選択肢を増やしている。午後3時頃、河南省周口市で配達員の王磊さんは仕事の合間に人気の歴史小説『明朝那些事児』のAI音声読み上げ版を再生する。この本は彼がスキマ時間に「読んだ」37冊目の本だ。
デジタル読書は多様で手軽という特徴で、さまざまな人々の日常に溶け込んでいる。データによると、中国のデジタル読書ユーザーは2020年の4億9400万人から24年には6億7000万人となり、5年間で35・63%増えている。
AI技術の広範囲な応用が、読書効率の向上を一層後押ししている。電子書籍アプリ「微信読書」を例に取ると、近年、このアプリは「AI書籍検索」機能を搭載し、読書中に分からない言葉に当たったり疑問があったりしたとき、検索または本文を長押しすれば、AIが書籍から検索し、答えを整理してくれる。「広大な電子書籍データベースが情報検索可能な知識ベースとなるのです。AIは知識を抽出するとともに質の高い答えを生成し、ユーザーが知識を得る効率と精度を高めます」と微信読書の責任者は語る。
心理学を独学中の張さんはこの機能の「ヘビーユーザー(9)」だ。「専門書を読んでいるとき、複雑な概念に出くわすたびに時間を割いて自力で検索していました。しかし今は、分からない単語があってもAIで迅速かつ詳細な説明が返ってくるので、勉強の効率が大幅に上がりました。例えば『ゲシュタルト効果』の概念の変遷が知りたいとき、微信読書の検索欄にその単語を入力し、『AI書籍検索』ボタンをタップすれば、その概念の定義や影響、応用などの情報が一気に出てきます」
この機能は決まった質問に答えるだけでなく、ユーザーが興味を引きそうな他の話題まで提示し、しかも答えには全て出典を書いている。「出典元はいずれも出版された書籍なので、検索エンジンで出てくる答えより一定の正確性と信頼性が保証されています」
微信読書が導入しているもう一つの機能が、AIによる書籍の要約だ。AI技術によって書籍の内容に対して分析と抽出を行い、要約を生成することで、読者に短時間で全体の趣旨と構成を把握させ、読書効率を高める。読後はAI要約から特定の章や要点を振り返ることができるので、原文を読み返す必要はない。「AI概要のおかげで、専門書籍を読むのがもっと楽になり、時間も節約できます」とユーザーの羅海さんは述べる。
知識にバリアフリーを
デジタル読書方式の普及は読書効率の向上以外に、視覚障害者たちにも特別な意味を持つ。
北京市盲人学校の孫川さんは「本を聞く」ことがとても好きになった。「多くのアプリにAI音声読み上げ機能がついています。人間らしい正確な発音なので、聞いていて心地いいです」。孫さんの母親の張雯さんによると、孫さんはスマホのオーディオブックによって読書の選択肢が増えたという。進学や就職をスムーズに実現できるようサポートしてほしいと語った。
22年5月に「盲人、視覚障害者その他の印刷物の判読に障害のある者が発行された著作物を利用する機会を促進するためのマラケシュ条約」が中国で施行され、利用しやすい様式の作品を非営利で制作、または国境を越えて提供することが許され、多様な読書技術と形式で多くの人々に届くようになった。
山東省淄博市図書館の視覚障害者閲覧室では、点字図書、電子拡大読書器、点字ディスプレー、オーディオブック設備などハード・ソフトウエアの一切がそろっており、座席には白杖などの器具も用意してある。データによると、昨年までに中国全土に1659カ所の視覚障害者向け閲覧室が設置された。
デジタル技術は地理的な隔たりやリソース不足によって生じる情報伝達の障害も効果的に減らしている。中国人民大学新聞学院教授の周蔚華氏は、20~23年に雲南省怒江リス(傈僳)族自治州でフィールドワークをした際、現地の村民が知識を得る主なルートが、村民委員会の図書室からすでにスマホになっていることを発見した。「辺境に住む人々は、デジタル読書によって広い世界を知れるようになりました」と周氏は語る。
電子読書アプリ「番茄小説」のユーザーは三線都市(比較的発展した中堅都市)およびそれ以下の都市の住民が全体の半分以上を占めているというデータが出ている。現在、番茄小説は全国約400社の出版機関と協力し、登録されている出版物の電子書籍は38万冊以上で、内容は多岐にわたる。有料読書アプリと異なり、番茄小説の大半の内容は無料で読める。ただ、章の合間に広告がはさまれている。この形式は出版社の著作権収入を保障するとともに、知識を「公共財」として多くの人々に普及させることができる。一部の辺境や経済的に遅れている地区での従来の建造物タイプの読書空間は、維持コストの高さから実用性を発揮することが難しかったが、番茄小説を代表とする電子書籍アプリはスマホという端末で読書しやすさを格段に向上させた。
産業エコシステムを豊かに
デジタル読書プラットフォームの普及は、人々がコンテンツを得る方法を広げただけではなく、読書の社交性も再構築した。
「デジタル読書のヘビーユーザーです。家には紙の本がありますが、電子版を探すのが好きです。文字が読めるだけではなく音声も聞けるし、いつでもネットの友人と作品について意見を交換できるからです」と中央編訳出版社元総編集長の劉明清氏は言う。

多くのデジタル読書プラットフォームはコメント、注釈、共有などの機能が揃っており、バーチャルの「いつでもつながれる読書空間」をつくり出している。ユーザーは読書を通じて意見を発表し、他人の疑問に答え、討論に参加し、思想の共鳴と趣味の共有の結び付きを得ている。
デジタル読書は知らず知らずのうちに従来の読書体験をくつがえし、産業発展エコシステムも変えている。
24年の中国のデジタル読書作品総数は前年同期比6・31%増の6307万部余りだった。デジタル読書市場の売上規模は20年の351億6000万元から24年には661億4100万元になり、年平均成長率は約17・11%となった。特に24年は23年(567億200万元)と比べて100億元近く増えている。中でも売上増の重要要素の一つにネット小説IPの派生ビジネス(ネット小説を原作とするドラマ、ネット小説IPグッズなど)が挙げられる。
各種IPの改編において、ショートドラマの開発収益が特に顕著だ。デジタル読書プラットフォーム「掌閲科技」の昨年上半期の報告データによると、同社の売上高は前年同期比14・58%増の15億2600万元を達成し、そのうちショートドラマなど派生ビジネスの収益が前年同期比149・09%増の8億3800万元で、同社の主力となっている。
中国音響映像・デジタル出版協会副秘書長の李弘氏によると、ネット小説のマルチモーダル(形態の多様化)や映像化の発展傾向は今後も拡大し続けるという。「ショートドラマだけでなく、業界全体がさらにエンターテインメントであふれ、単なる『読書』が『読む、聞く、話す、交流する』などの多様な形態へ移行していきます。将来的には、ネットのエンターテインメント形態全体に変革がもたらされるかもしれません」
質の高いIPがライセンス契約によってより大きな利益を上げる一方で、著作権侵害(10)に遭いやすくもなっている。掌閲科技総編集長の馬艶霞氏は次のように指摘する。「現在の著作権保護はアイデアそのものより表現形式の保護に重点が置かれています。文章の盗用は比較することで判断が可能ですが、独創的な優れたアイデアを判定するのは難しいです。多くのネット小説はAIで『アレンジ』して過去のヒット作を再現しています。この種の模倣行為を判定するのは至難の業です」
中国は「情報ネットワーク伝播権保護条例」などの規定を施行し、オンライン作家の権利を保障しているが、AI学習の過程で現れ得るアイデア流用問題に対する有効な対策が依然不足している。
デジタル読書の長期的な発展は、最終的に質の高いコンテンツの持続的な提供に依存する。中国社会科学院ニュース・メディア研究所デジタルメディア研究室主任の黄楚新氏は、将来のデジタル読書エコシステムを構築する上で、著作権保護やデータセキュリティーなどの関連法規を整備し、包摂的なイノベーションを奨励するとともに、国民のデジタルリテラシーと批判的思考の教育を強化しなければならないと考える。「AI生成コンテンツやVR没入型読書などのアプリは利便性をもたらす一方、コンテンツの質の低下などを招く恐れがあります。コンテンツ表示や著作権トレーサビリティーなどの仕組みで規範化し、創造の原動力を的確に保護し、質の高いコンテンツの持続的供給を促すべきです」
読書の境界を広げ、知識の普及を推し進め、さらに産業エコシステムを拡大することにより、デジタル読書は人々が知識を入手し精神世界を豊かにする方法を根本的に変えつつある。今後、技術革新やコンテンツ構築、著作権保護の共同推進の下、デジタル読書は活力を放出し続け、文化産業発展のためにさらに大きな役割を発揮することが期待される。
人民中国インターネット版