日常に浸透し始める量子技術
王焱=文
量子技術とは量子力学の原理に基づき構築された新たな科学技術体系だ。現在、量子技術は主に量子コンピューティング、量子通信、量子センシングの三つの分野に応用されている。
「量子技術を飛行機に例えるなら、量子通信とは飛行機の通信設備、量子センシングとはレイダー、量子コンピューティングとはエンジンで、基礎的、けん引的役割を果たし、どれだけ高く遠くまで飛べるかを決定付けます」と本源量子首席科学者の郭国平氏は三つの関連性を分かりやすく例えた。
多分野への応用の可能性
量子技術は決してはるか未来の先駆的な概念ではない。その技術成果は徐々にわれわれの日常に浸透し、重要な分野において代替不可能な役割を発揮している。量子コンピューティング、量子通信、量子センシングという三つの分野における技術の成熟度が異なるため、応用の現状も異なっている。
「現在最も産業応用に近い分野は量子センシングです」と北京量子情報科学研究院執行院長の常凱氏は説明する。同氏によれば、中国はすでに原子時計や原子磁気計などの量子センシング技術・製品の商用化を実現しているという。

原子時計は量子センシング技術が最も成熟した応用製品だ。衛星測位システム「北斗」は原子時計を時間の基準にしている。最新世代のチップスケール原子時計の精度は数十万年に誤差1秒未満というレベルだ。レーザー測距システムに応用すれば、空間計測精度はミリメートル級に達し、自動運転やLiDAR(ライダー)の技術レベルを大幅に向上させるだろう。北京量子情報科学研究院ではマッチ箱サイズのマイクロ原子時計をすでに開発しており、自動車や飛行機などの乗り物や無線通信基地局に搭載することが可能だ。
原子磁気計の応用シーンはさらに広く、医療分野では脳磁図(MEG)装置が最も重要な応用製品だ。この装置はヒトの脳の磁気活動を可視化した図を作成可能で、簡単かつ日常的に長時間装着できる診断ツールとして、てんかん、脳腫瘍などの脳疾患の診断に活用されている。同時に、原子磁気計はブレインマシンインターフェイス(BMI)にとって優れた発展経路を提供している。現在主流の侵襲型BMIは、脳内に電極を埋め込む必要があるため大規模化は難しいが、原子磁力計を用いた非侵襲型の脳磁図技術がこの課題を解決する可能性を秘めている。
量子通信の応用は高度な安全性が求められるシーンに焦点を当て、軍事、エネルギー、金融など重要なインフラ分野で役割を発揮する。一定の伝送速度を遅くすることで通信の絶対的な安全性を保証し、従来の暗号システムに重要な補完的役割を果たしている。
量子コンピューティングはまだ実用化に至っていないが、業界内ではすでに関連アルゴリズムの先行研究が行われている。その発展動向を見ると、最初に実用化される可能性があるのは以下の分野だと考えられる。例えば、量子化学シミュレーション(各種材料、生体高分子などのミクロな世界の量子システムをシミュレーションし、新薬の研究開発や新エネルギー材料のイノベーションを加速させる)、都市交通ルートや物流配送計画の最適化(これによって都市運営をさらに効率化させる)、大気循環や海洋運動などのカオスシステムのシミュレーション(気象予報や災害警報の精度を向上させる)などだ。
競争に臨む中国の道
現在、量子技術分野における国際競争は中米両国に集中している。特に戦略的価値が最も高いとされる量子コンピューティング分野について、常氏は「人数、スタート時期、総合的な素質いずれにおいても米国の科学研究者が優位にある。単純に科学研究機関の力だけで勝負するなら、今のところ、中国が米国と渡り合うのはまだ難しい」とし、米国の科学研究における先発の優位性に対し、中国は応用市場と応用シーンにおいて独自の強さを有していると述べる。新エネルギー車、モバイル決済、物流などの業界の発展は、いずれも自国の応用シーンを活用することの重要性を裏付けており、それが中国量子技術発展の重要な突破口となる可能性もある。
量子コンピューティング産業は目下まだ発展の初期段階にあり、技術開発の周期は長く、投資規模は大きく、リスクは高く、単一のプレーヤーの力ではブレークスルーが困難で、政府や科学研究機関、企業、資本などの協調的な取り組みが急務であり、そうしてこそ中国の応用市場の優位性を十分に活性化し、中国の特色ある量子技術発展の道を切り開くことができる。
これに対し常氏は次のように提案する。一方で、量子技術関連のスタートアップ企業を力強く支え、イノベーションの活力を引き出し、独自技術の重要な供給源として育成しなければならない。政府が専門の誘導基金を設立し、ポートフォリオ投資によって社会資本を動かせば、それらスタートアップ企業が研究開発を続けられるよう資金面で保証できるかもしれない。もう一方で、国は政策誘導とプロジェクトの配置によって主要テクノロジー企業が産業の発展に参与し続けられるよう推し進め、長期的な視点で産業のリーダーシップを手に入れなければならない。
「ChatGPTが現れるまで、AIも『実験室のおもちゃ』だと考えられていましたが、ここ1、2年の大規模言語モデルの実用化によってAIは瞬く間に各業界に取り入れられました。量子技術も一度ブレークスルーが起きれば大きな産業価値と社会価値が必ず生まれるはずです」と常氏は語った。
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