実用化進むエンボディドAI
陳珂=文
世界的な科学技術イノベーションのイベントである中関村フォーラム年次総会(2026)のロボットカフェで、あるシーンが大勢の来場者の注目を集めた。客がコーヒーと糖葫芦」(サンザシのあめがけ)のセットを注文しQRコード決済を終わらせると、システムが自動で作業を分担し、メーカーの異なる6台のロボットが共同作業をし始めた。コーヒー抽出、タンフールーづくり、商品受け取り、配膳などのサービスを人間の手を借りることなく、わずか2分で行った。

時計の針を戻し、ロボット「濃度」が特に高かった今年の春晩(春節の夕べ)では、松延動力、銀河通用(Galbot)、宇樹科技(Unitree)、魔法原子などのメーカーの人型ロボットが宙返り、クルミ回し、コント、歌や踊りを披露した。そのよどみないパフォーマンスに大勢の観客が嘆息し、ロボットが本当に生きていると錯覚した。
これら大衆の日常に密着したシーンにこそ、エンボディドAI産業の急速な台頭が如実に表れている。
発展の見通し明るい業界
エンボディドAIとはAIと物理的な実体を結合させ、AIシステムに知覚、思考、物理的な相互作用能力を備えさせる技術分野だ。その形状は多岐にわたり、人型ロボットは人間の環境、ツール、シーンとの高い親和性によって、エンボディドAIにとって最適な媒体と見なされ、また現在の産業競争の焦点にもなっている。有名なコンサルティング会社IDCの「世界の人型ロボット市場分析」によると、昨年の世界の人型ロボット出荷台数は前年同期比約508%増の約1万8000台だった。
今年に入り、業界の見通しはさらに明るくなっている。「2026年は人型ロボットの量産と規模的な応用実現の元年になる」が、業界の共通認識だ。
この背景には、量産データの強固な裏付けがある。高工ロボット産業研究所のデータによると、今年の中国の人型ロボット出荷台数は6万2500台に増大する見込みだ。これは人型ロボットが「実験室の試作機」から「生産ラインの量産品」へとなりつつあり、規模的な応用の新たな段階に入ったことを意味している。
中国情報通信研究所の「エンボディドAI発展報告(2025年)」によれば、工業製造、物流倉庫、医療介護、商業サービスなどの分野で、エンボディドAIは新たな生産ツールとして生産効率と品質を全面的に向上させる。中でも、工場と物流ラインはロボットによる大規模応用が最初に実現される主戦場であり、産業浸透率は15%を突破する見込みだ。
技術の進展続く
「未来の核心的チャレンジとは、ロボットをより賢くするだけにとどまらず、千変万化の環境で確実に作業させることです」。中国科学院自動化研究所マルチモーダルAIシステム全国重点実験室副主任の王亮氏はそう語り、次のように指摘した。これまでの業界は単一タスクに特化したモデルをカスタマイズして訓練することがほとんどで、汎用化能力が弱く、シーンを変えるたびに訓練をし直す必要があった。今では視覚言語モデルなどの新たなパラダイムを活用することで、AIエージェントはすでにシーンやコマンドをまたいだ汎用的適応能力を初歩的に備えている。この技術の方向性で実質的な進展が得られれば、エンボディAIの応用範囲は極めて拡大する。
「次はロボットの物理的理解能力です。リアルな環境で確実に作業をさせるのなら、ロボットは物理世界に対する基本的な予測能力を持ち、物体の材質、重さ、動きなどを理解する必要があります。この分野の進展は、複雑なシーンにおけるシステムの安全性と信頼性の向上に直接つながります。またハード・ソフトウエアの協調設計も極めて重要です。アルゴリズムの能力限界はハードウエアの設計に大きく左右され、反対にアルゴリズムの進展はハードウエアのイテレーションを加速させるはずです。真に実現化できる製品とは、両者の深い融合の結果なのです」と王氏は語る。
三大方向性のブレークスルーにはいずれも質の高いデータの裏付けが必要だ。従来のAIの「データを入力し、答えを出力する」モデルと異なり、エンボディドAIは物理的な相互作用の中で自律進化を完成させる閉ループが必要だ。つまり、ロボットが実際のシーンに導入され、タスク実行中に行動データを集め、これらのデータがモデルの訓練とイテレーションに用いられ、最適化後のモデルが多くのロボットに再導入され、それによってより多くの質の高いデータを集めることを指す。
しかし、現在のデータ供給は依然厳しい課題に直面する。物理AIの能力向上を推し進めるには、少なくとも100万~1000万時間の質の高いデータが必要だ、というのが業界の一般的な考えだ。現段階で実質的に使えるデータは大きく不足している。
データ供給のボトルネックに対し、多くの中国企業が打開策を模索している。リアルシーンデータの収集のほかに、合成データが新たな解決策として注目を集めている。先ごろ、世界のトップを走るマルチモーダル生成AI企業の智象未来と諾亦騰ロボティクスが協力し、「リアルデータ+生成動画データ」の融合モデルを革新的に採用した。年内には数万時間のエンボディドAI用動画データを生成する見込みであり、業界への質の高いデータの大規模供給のために新たな道を切り開いた。
「スーパーデバイス」時代の到来
物理的な実体と結合するAIとして、エンボディドAIは新たなスマートハードウエアと端末機器を多数生み出し、全く新しい「スーパーデバイス」時代を切り開くだろう。
エンボディドAIは世界の科学技術競争の焦点となりつつある。多くの国がこれを戦略的計画に組み込み、大手企業も技術研究と製品実現化への投資を増やし続けている。この背景で中国のエンボディドAI分野における新進気鋭の企業・無界動力の創始者兼CEOの張玉峰氏は、中国は一定の先発の優位性を持つと考える。パソコンや家電の基準やエコシステムは長きにわたって海外によって定義されていたが、中国の新エネルギー車の全産業チェーンの優位性によって中国の自動車産業は世界で影響力を持った。現在、エンボディドAI分野では、強大なハードウエアエコシステムとサプライチェーンの基盤、豊富な応用シーン、十分なAI人材リソースによって、中国はすでに世界の第一グループに入り、産業発展の潜在力と市場の成長の余地は非常に大きい。
国際的な市場調査会社IDCの予想データによると、今年、世界のスマートロボットハードウエア市場は300億㌦規模に達し、中国はその成長をけん引する核心的役割を果たす。そのとき、中国のエンボディドAIロボット市場は110億㌦を突破し、サービス・消費ロボットメーカーの世界の出荷台数に占めるシェアは85%を超え、市場の成長は120%前後で推移するとされる。
産業の支援も日に日に固まっている。中国の人型ロボット企業は150社以上ある。昨年、世界の人型ロボット出荷台数の上位6位が中国企業で、中でも宇樹科技と智元ロボット(Agibot)が「二大巨頭」となっている。また長江デルタ、粤港澳大湾区(広東、香港、マカオグレーターベイエリア)、京津冀(北京、天津、河北)などの地域でも多層的なイノベーションプラットフォームが構築され、産業チェーンの上流・下流を一貫し、非常に活気的なエンボディドAI産業クラスター(7)が形成されている。
「中国のエンボディドAI産業はすでに加速的に展開する段階に入り、政策、人材、産業など各層で比較的整った発展エコシステムを構築し、さまざまな新技術がブレークスルーを迎えようとしています。この未来に関わる産業変革で、中国は先駆者になるでしょう」と王氏は予想した。