経済成長を左右する都市化の行方
都市化率に大きなばらつき
陳部長は続けて「今後10年、中国はさらに開放するでしょう」と強調しています。外資は今後もチャイナ・パワーの源泉として中国経済の発展に大きく関わっていることに違いありませんが、経済成長には外資の行方もさることながら、都市の変化、すなわち都市化の行方がこれまで以上にクローズアップされてくると考えられます。
現在、中国の都市化率は47%で、二人に一人が都市に住んでいます。今年から始まる「第12次5カ年規画」の期間中には、同52%を目指すとしており、大都市が各地に配置されます(注)。
広い中国では地方によって、都市化率に大きなばらつきがあります。例えば、2010年の上海では75%、隣接する浙江省は59%(全省中トップ)です。
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「都市・農村一体化」を実践している浙江省杭州郊外(新華社) |
都市化の推進はこうした都市化率の格差を縮めることではなく、その過程で、内外資の導入を図り、地方の産業構造を調整していくことにも狙いがあります。陳部長のいう「さらなる開放」でもあるわけです。例えば、農村人口の都市移入が進めば、①農業の集団・大規模化②サービス産業の多様化③土地の特性に応じた新規産業の発展を支える環境整備—の三点が推進されます。これに、外資がどう関わってくるかが注目されるでしょう。
忘れてはならないもう一点は、都市化が近年、続々と打ち出されている中国全土がバランスを保ちつつ発展する「国家級地域発展戦略」とも連携しているということです。新経済区、新区、試験区など、2009年1年間に13カ所も指定された地域発展戦略にとって、市際、省際の広域的なものを含め、核となる大都市の存在は実に都合がよいといえます。
総じて、都市化は広範な地方経済の活性化を図り、持続的成長を確保していくという時代のニーズを踏まえた新たな潮流といえます。これまで、外資が担ってきた経済成長をさらに都市化が推進する状況が出来つつあるといえるでしょう。
都市病のリスク克服がかぎ
ただ、都市化には、往々にして「都市病」(下記)の発生というリスクが伴います。「都市病」が新たな「狼」にならないとも限りません。
○交通渋滞 ○住宅難 ○公共インフラ不備(水不足、学校・病院不足) ○耕作地の過度な徴用 ○環境問題の深刻化(空気汚染、水質汚濁など) ○犯罪の多発 ○社会保障の不備 ○都市化に伴う関連法規の未整備など。
加えて、中国特有な戸籍制度(農民の自由な都市への移住を制限)など、建国以来、中国社会に根付いてきた制度や規制の見直し・調整も不可避となるでしょう。
こうした課題や矛盾はあるものの、都市化の推進は中国の既定路線であり、その行方に各都市の発展と中国経済の発展がかかっているといっても過言ではありません。
重慶市は農民工に都市戸籍
例えば、戸籍制度についてみると、2010年8月から、都市と農村の統一戸籍制度改革実施の試験区として、重慶市は農民工(出稼ぎ農民)に都市戸籍を与える措置を講じています。この改革により、今後10年間で、農民1000万人が都市市民になるとの予測です。
また、遼寧省では瀋陽市を中心に周辺七都市(撫順、鉄嶺、本渓、阜新、遼陽、鞍山、営口)との交通、通信、情報、環境、公共インフラ、教育、医療などサービスの一本化、協調発展を図る瀋陽経済圏が形成されつつあり、その過程で、農村の都市化を推進するとしています。
重慶市や瀋陽市以外にも、現在、都市化推進のための企画や計画が各地で進行中であり、実現されつつあります。都市化は経済・社会発展の現状と今後をみる際に、欠かせない視点であり、チャイナ・パワーを発芽させる温床とも言えるでしょう。
注 2020年までに人口100万人を超える80の都市を造成する計画だ(『中国財政政策報告2010〜2011』)。
人民中国インターネット版 2011年4月