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「民生」重視を掲げた第十二次五カ年規画

 

(財)国際貿易投資研究所(ITI) チーフエコノミスト 江原規由

1950年生まれ。1975年、東京外国語大学卒業、日本貿易振興会(ジェトロ)に入る。香港大学研修、日中経済協会、ジェトロ・バンコクセンター駐在などを経て、1993年、ジェトロ大連事務所を設立、初代所長に就任。1998年、大連市旅順名誉市民を授与される。ジェトロ北京センター所長、海外調査部主任調査研究員。2010年上海万博日本館館長を務めた。

ちょうど100年前の1911年、中国の近代化の出発点ともいわれる辛亥革命が起こりました。その中心的存在の一人で、中国の「国父」とされている孫中山(孫文)先生は、民族、民権、民生の三民主義を唱えました。 

1949年、毛沢東主席により中華人民共和国の成立が宣言され、新中国が誕生します。毛主席は「為人民服務(人民に奉仕する)」をスローガンとし、人民が国家の主人公であることを強調しました。この精神は、今世紀に入ってからも、党中央と政府の基本的姿勢である「以人為本」に継承されています。中国では、時代が大きく変わろうとする時、「人」や「民」が強調されてきています。

「孫文の夢」に基づいて 

今年3月、全国人民代表大会(全人代)と中国人民政治協商会議(全国政協)の2つの会議「両会」が開催されました。今年の両会の大きな特徴は「民生」重視の姿勢が前面に押し出されたところにあったといえます。民生とは、平たく言えば、国民の生活です。

両会に先立つ2月27日、温家宝総理は記者のインタビューを受け、まず、孫文先生の説いた「民生」の定義を「民生は社会の生存、人民の生計、大衆の生命である」とした上で、「民生」は2011~2015年の第12次5カ年規画(「十二・五」)の出発点であり着地点でもあると強調しました。 

昨年、中国は世界第2位の国内総生産(GDP)大国になりましたが、これが国民一人当たりとなると、世界100位前後に過ぎません。数字で見る限り、国が豊かになったことは確かですが、国民がそれ相応に豊かさを享受しているとはいえない状況です。

財政で明確に傾斜配分 

全人代での『政府活動報告』でも、温総理は「国民の幸福を実現するために改革を推進する」と、民生重視の姿勢を表明しました。両会では、「十二・五」が審議・採択されましたが、民生重視の姿勢は、早くも「十二・五」の第1年目となる今年の財政支出の内容に濃厚に認められます。

上海の地下鉄駅構内には、「為人民服務」という 毛沢東主席が揮毫した標語を掲げている(新華社)
 

今年の財政支出は前年比11・9%増を予定していますが、民生関連、例えば、医療衛生、社会保障、雇用、住宅、文化などへの支出規模は、前年比18・1%増と大幅増となっており、民生関連への傾斜配分が明らかです。 

また、このところ上昇傾向にある物価動向に対し両会ではその安定に向け、断固とした姿勢が示されました。物価の上昇は国民生活を直撃するだけに、ここにも民生重視の姿勢が貫かれたわけです。

大胆な年平均7%成長 

「十二・五」では、期間中の年平均経済成長率は7%に設定していますが、過去30年間の年平均経済成長率が2桁に近かったことを思うと極めて大胆な数字といえます。同時に、経済発展パターンの転換と経済構造の調整(注)、都市化の促進、教育水準の引き上げ、雇用創出、所得増などを急務としています。中国は、経済成長率を下げて「民生」の安定を図るという新たな課題に挑戦しようとしていると言ってよいでしょう。 

経済成長は「国富」をもたらしますが、格差、環境問題、腐敗などの課題も生じます。民生重視の姿勢とは、こうした課題を是正し「民富」を併せ得るとの意思表示でもあります。 

中国は、今、「国富民生」の道を開拓しようとしていると言っても過言ではないでしょう。 

最後に、「十二・五」と世界経済との関係について一言触れておきましょう。これまで、中国経済の高成長は、世界経済の発展に大きく貢献してきました。

世界との「富国共生」を 

果たして、7%成長は世界経済にどんな意味があるのでしょうか。 

7%は民生重視のために設定された経済成長率です。経済成長による利害得失のうち、利と得を大きくし害と失を少なくするために、中国の現実をもとに設定された数字です。中国の7%成長の意義は、世界経済の成長率にどれだけ寄与するかではなく、中国と世界経済が密接に関連している現在、中国と世界は「富国共生」にあることを改めて実感することにあると言えるでしょう。 

天安門に掲げられた毛沢東主席の肖像画が孫文氏と向き合う瞬間があります。10月の国慶節に天安門広場に孫文氏の大きな肖像画が毛主席に向かって掲げられます。20世紀に中国が生んだ偉大な指導者二人が、今年の国慶節に「民生」の話に花を咲かせている姿が目に浮かぶようです。

(注 例えば、サービス産業のGDPに占める比率の4ポイント引き上げ、新興産業の育成、二酸化炭素排出量の17%削減など)

 

人民中国インターネット版 2011年6月

 

 

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