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着実に戦略的互恵関係を推進しよう

第四回「中日関係シンポジウム」での基調講演

唐家璇 前国務委員 2011年1月11日

中国と日本はさまざまな意味で淵源が深い隣国同士だ。私は幸いなことに、国交正常化以来の中日関係の過程をこの目で見てきた。この間、両国関係は風雨にさらされ、紆余曲折を経てきたが、総じて言えば進展し、各分野での交流、協調は大きな成果を上げてきたと思う。

今世紀に入って、両国関係は一度困難に直面した。しかし、双方の努力によって、2006年に転換を迎え、それ以降は良好な状態を維持してきた。両国首脳は戦略的互恵関係の構築という重要な共通認識を確立し、未来志向の確固とした足場を築いた。これは両国関係の深化による必然的な成果であるとともに、時代の潮流に沿った戦略的な選択だった。胡錦濤国家主席は2008年5月、日本を公式訪問し、両国首脳は今世紀の両国関係推進の指針であり、新たな歴史の立脚点となる四本目の政治文書に調印した。

民主党が政権に就いた当初は、中日関係は良好に推移していた。ハイレベルの交流が頻繁に行われ、各分野での実務的な交流も活発化し、共同事業も着実に推進されていた。まさに、戦略的互恵関係を積極的、全面的に展開しようとしていた矢先の昨年9月、釣魚島事件が突発し、中日関係に計り知れない影響と損害を与えてしまった。我々が最も目にしたくない出来事だった。この事件がもたらした深刻な教訓を、真剣に総括し、今後の両国関係に生かしていかなければならない。

昨年晩秋、胡錦濤主席は横浜で開催されたアジア太平洋経済協力機構(APEC)の非公式首脳会議で、菅直人首相と会談し、また温家宝総理も菅首相と接触した。このように両国首脳が戦略的互恵関係の重要性を共に確認することによって、再び改善と発展に向かって新たな歩みを始めたと確信する。  現在、国際情勢は大きな進展と変化を見せ続けており、特にアジアは経済成長が最も速く、最も活力に富んだ地域であり、域内協力が強化され、各メカニズムが相互補完し合い、機能している。同時にアジアは安全保障において数々の挑戦に直面している。朝鮮半島情勢が一時緊迫する状態になり、注目される地域問題もときどき激化する傾向を見せ、一部の国の激動の情勢がアジアの安定と発展に不確定な要素をもたらしている。

中日両国は世界情勢に大きな影響を与える国であり、アジア地域と世界の平和、安定と繁栄に重要な責任を負っている。中日関係は既に二国間関係の範疇を超えている。従って、両国の政治家、有識者は高度な歴史的な責任感と使命感をもって、中日関係を地域的、地球的規模でとらえ、終始、進むべき方向を確実に把握し、戦略的互恵関係を健全で安定な軌道に乗せて推進して行かなければならない。

近年の中日関係を回顧して、私は両国関係の基礎は非常に堅固だとは言えず、かなり脆弱な側面があることを否定できないと、考えている。それは次の諸点に集約することができる。  

一 政治面での相互信頼の不足

この原因を突き詰めると、政治の背景にある歴史的、地政学的に異なる要素と、実利面での摩擦が浮かび上がってくるが、もっと背景を掘り下げると、両国の発展の現状に対する相互認識に由来する影響だと思う。日本の多くの有識者は中国の勃興は日本とアジアにとって得がたいチャンスだと受け止めている。しかし、一部の人たちと少数のメディアはいまだに冷戦思考から抜け出せず、「中国脅威論」を煽りたて、旧態依然のイデオロギーによる区別を主張している。さらに中国に対して、同盟国と手を組んで、「規範化」「勢力バランス」「けん制」「包囲網」などの対策を講じるべしとまで鼓吹している。日本が発表した新防衛計画大綱では、中国の軍事力増強は透明度を欠き、アジア地域、国際社会の「憂慮すべきこと」だと主張し、(自衛隊の)新たな配備計画を打ち出し、中国民衆と世論の反発を引き起こした。

二 対中、対日好感度の下降

日本の最近の世論調査によると、八割近い回答者が中国に対して親近感を持っていないと答えており、これは一九七八年以来で最低だ。同様に、中国でも対日好感度は著しく下がっている。こうした現状は、憂慮すべきであり、真剣に考えさせるところが多い。その裏に釣魚島事件の直接的な影響は言うまでもないが、根本的なところに、両国が政治・安全面における相互信頼の不足が社会へ投影しているという背景がある。  

三 領土、海洋問題の度重なる浮上

中日両国間には東海にある釣魚島の主権、海洋境界、資源開発などをめぐる多数の争点が存在し、矛盾が絡み合い、極めて複雑かつ敏感なもので、両国関係の安定と発展を掣肘する要因になっている。    上記の三点について、両国政府と有識者は問題を重視し、冷静、適切に対処しなければならない。同時に我々は、両国がそれぞれ発展段階の重要な転換期を迎え、また、国際関係の枠組みが調整と変革が迫られている新たな情勢下で、中日関係は歴史的に得がたい好機を迎えていることを直視しなければならない。    

――中国の発展がもたらした好機。 今年は第十二次五カ年規画の初年度だ。「十二・五」期間は「いくらかゆとりのある社会」を建設する正念場とでも言える。また、「改革開放」を深化させ、経済発展のモデルチェンジを加速する上で、難題に取り組む時期でもある。我々が注意を怠ってはならないのは、日本も新たな経済成長戦略を始動させることだ。両国とも経済構造を調整し、生産能力が低くなった産業を淘汰し、新興産業を発展させるとともに、内需拡大を目標に掲げるなど、両国の経済発展戦略には共通項が少なくなく、双方の経済・貿易協力のレベルアップに有利な条件となっている。

とりわけ、中国は資源を節約し、環境にやさしい社会の建設に力を注ぎ、今後五年間にクリーンエネルギーの開発に大いに投入し、リサイクルと炭酸ガス排出量の削減に配慮した経済活動を推進する。一方、日本はこれらの分野で成熟した技術力と豊富な経験を持っており、双方が協力し合う大きな潜在力を発揮すべきだ。中国の経済発展は日本に新たな投資機会を提供する同時に、また、実力のある中国企業が日本に投資し、新たな産業を興すことにもつながり、それは日本経済に新たな活力を注入することができるだろう。  

――アジアの一体化プロセスがもたらす好機。 現在、飛躍的に進んでいるアジア地域の国際協力と一体化建設は、この地域を大きく変貌させつつある。アジア各国と国民の今後の命運はこれまでになく密接不可分に結びついている。中日韓の協調関係は順調に推移し、三国と東南アジア諸国連合(ASEAN)との10+1の自由貿易区が相次いで設立され、中日両国は東アジアの金融と食糧安保の面での協調関係におおいに力を入れ、両国が共同参加した10+3と東アジアサミットも新たな段階を迎えている。このようなアジアの勃興と地域の一体化というプロセスにおいて、両国の共通利益が広がり、協調する機会はますます増えている。  

――国際的な枠組みの変遷がもたらす好機。 世界が多極化し、経済のグローバル化が進展している状況下で、地球規模の課題はますます増えている。中日両国は国際社会における大きな影響力がある国として、または重要な経済主体として、地球規模の経済改善にも大きな国際政治の問題にも建設的な役割を果たせる。両国は金融危機後の諸課題、貿易保護主義への反対、資源エネルギー問題の解決、自然災害対策、反テロ、海賊対策など広範な分野で共通の利害関係がある。このように国際関係での協調は、両国の戦略的互恵関係の充実に有利な条件を提供してくれることは間違いない。

中日関係は好機と挑戦にともに直面する大事な時期に来ている。しかし、共通の利益は矛盾や相違に比べて、はるかに大きく、好機は挑戦に比べて大きい。我々は世界の大勢を直視し、時代の潮流に順応し、チャンスをしっかりつかみ、うまく挑戦に乗り越え、戦略的互恵関係のレベルを絶えず引き上げ、両国関係を安定的かつ健全な方向へ前進させなければならない。

ここで終始堅持しなければならないのが次に挙げる三つのテーマだ。  

一 平和のテーマ    

「和すれば双方に利、闘えば共に傷」——これは歴史が両国民に与えた重要な啓示だ。新たな情勢下で、平和の旗を高く掲げ、平和理念を堅持することは極めて現実的な意義がある。  

――両国は共に平和的な発展を希求し、互いに相手国の平和的な発展を支持する。 これは胡錦濤主席が二〇〇八年に訪日した際に、双方が確認した政治的な共通認識だ。私が強調したいのは、中国は平和的発展の道を外れることはなく、終始双方の利益につながる開放戦略を実行していくということだ。「友好的に隣国と付き合い、パートナーとして隣国と協力し合う」という善隣外交の方針は終始一貫変らない。また、防衛的な国防政策を実行し、永久に覇権を求めず、永久に対外拡張政策は取らない。これは決して抽象的、非現実的なスローガンなどではなく、中国政府が時代の潮流と自国の歴史、文化、価値観に基づき、中国の国情と根本的な利益から結論を導いた戦略的な選択で、国際社会への大事な承諾だ。日本は第二次世界大戦後、平和的な発展の道を歩んできて、自他とも認める発展の実績をあげ、国民に多大な利益をもたらした。我々は日本が今後も経済的優勢を発揮し、あくまでも地域の平和的な発展に積極的な貢献を続けてもらいたいと願っている。  

――両国は政治面での相互信頼、とりわけ安全保障面での相互信頼を絶えず深め、相手国の発展を客観的、理性的に認識し、パートナー意識を育て、強めなければならない。 四本目の政治文書で、両国は協調して行くパートナーであり、脅威の対象にはならないことを確認した。双方は以上の承諾事項を確実に実行に移し、政治面での共通認識が広範な社会的なレベルでの共通認識になるように努力していくべきだろう。そのため、双方がさらなる政治・安全の対話や交流を推進し、互いに関心を持つ重要問題の処理、自国の内外政策の策定に関して、戦略的な判断の誤りを回避するために、時期を見計らって率直で誠実なチャネルを通じ、対話を促進し、信頼を増進すべきだと思う。  

――両国は大局に目を向け、敏感な問題、特に領海・領土の問題を適切に処理しなければならない。密接に付き合う隣国同士として、中日両国の間に矛盾が生じたり、意見の相違があったりしてもごく自然な現象だ。 中日関係の再建、改善、発展の過程には、大きな困難や障碍にぶつかったこともあった。両国の先輩政治家たちが、知恵を絞ってそれらの数多くの難問を適切に処理したことを、われわれは学び、参考にしなければならないと思う。つまり、敏感な問題が起きた時には、終始大局を見失わず、対話と交渉によって問題を解決し、双方の相違と摩擦を適切に処理し、両国関係の目指すべき方向を堅持しなければならないということだ。釣魚島問題をめぐって、双方は両国の先輩政治家の共同認識の原則や今まで双方が培ってきた了解に基づき、適切な処理を取らなければならない。同時に、海上危機の管理・コントロール体制を構築し、類似事件の再発によって両国関係の大局に影響を及ぼすような事態を防がなければならない。    

二 協調のテーマ  

中日は潜在的なライバルではなく、協調していけるパートナーだ。双方は二国間、アジア地域にとどまらず世界規模で互恵協力を推進し、不断に共同利益の拡大を追求し、共にチャンスに恵まれ、共に発展し、共に繁栄の道を歩まなければならない。    

――両国関係に立脚し、経済貿易面での協調とモデルチェンジを促進しなければならない。 双方はポスト金融危機時代の世界経済の潮流を直視し、ともにエネルギー源の確保、低カーボン社会の建設、循環経済とハイテクなどの分野で協調していくべきだ。モデルケースになるプロジェクトを積極的に打ち出すべきだ。そのためには巨視的な戦略とスケールの大きなプランを考えなければならないと思う。一例を挙げれば、昨年来、中日唐山曹妃甸リサイクル経済産業パークプロジェクトは両国各界の注目を集めている。私も日本の経済界首脳をともして視察したことがあるが、中日両国の新時代の協調の得がたい足場だと感じた。双方はチャンスを逃さずにそれを推進し、一日も早くこのプロジェクトの実質的な進展を見せてほしい。  

――両国はアジア地域にしっかり根を張り、地域協調の新局面を切り開かなければならない。 アジアは中日両国にとって、生存のよりどころであり、発展の共同戦略の基盤だ。両国はアジアの主要な大国として、それぞれ優れた分野での持てる力を発揮し、協調関係を強化し、より多くの利益の共通項を見つけ、手を携えて、アジアの振興に努めるべきだ。まず、この地域の将来構想について、密接なチャネルを維持し、共同でアジアの未来図を描くべきだ。次に、中日韓三国の自由貿易区構想の研究、東アジア自由貿易区設立を推進し、域内金融の協調を強化する。また、アジアのネットワーク建設、大メコン川流域開発などの実務的な面で共同作業を行い、ウイン・ウインを目指して進むなど、地域経済の一体化を積極的に促進すべきだ。三点目は、両国が六者協議を推進し、東北アジアの平和維持のシステムを構築し、朝鮮半島の平和と安定を確実なものとし、朝鮮半島の非核化と地域の長期的な安定に積極的に貢献することだ。  

――世界に目を向け、国際問題をめぐる協調、協力を強化すべきだ。 両国は国際連合、G20(二十カ国・地域首脳会議)、APECなどさまざまな舞台で、世界経済の安定、国際金融体制改革の推進、世界経済管理システムの改善に頻繁な対話や協調を保ち、また、貿易保護主義の台頭に反対する立場を相互に支持して行くべきだろう。さらに、国際連合の千年計画の目標に沿って、地球温暖化、テロリズム、自然災害、感染症など地球規模の諸課題について、互恵的な協調を推進する。ともに資源、エネルギーの輸入大国である中日両国は、双方の関連企業の資源開発、価格設定、輸送面で戦略的な共同作業を推進することも考えられる。  

三 友好のテーマ  

中日両国は二千年にわたる友好交流の歴史を持ち、中日友好は両国民の間の堅固な土台になっている。世々代々仲良く付き合って行くことは、両国民の共通の願いだ。両国は相手国に対する好感度が下降線をたどっている現状を直視し、緊迫する情勢を念頭に、あらゆるパイプを生かし、より力を入れて、この局面を打開しなければならない。  

――地理的に近く、相通ずる文化を持ち、人的交流も多い独特の有利さを存分に発揮し、官民を挙げて積極的に交流を拡大すべきだ。 特に青少年交流にたゆまず努力を重ね、両国の若い世代の相互理解と友情を深めていくべきだ。  

――交流の形を日々刷新し、中身を濃くしなければならない。 共通の文化と価値に基づく理念を高く掲げ、流行の文化とクリエーティブ産業の分野での協力といった新しい手法を用いて、感動が伝わる交流を大いに行い、より多くの両国民が加わることができるように計らい、感情的な距離を縮めなければならないと思う。  

――客観的で建設的な世論を作っていかなければならない。 そのためには、両国のメディアに対して、前向きで、建設的かつ客観的な情報を充分に提供し、両国国民が相手国と国民を正しく理解できる、良質の相互交流を育てていくべきだと考えている。また両国のメディアも交流を拡大し、相互理解とジャーナリストとしての責任感をアピールし、関係改善の橋渡しの役割を果たしてもらいたいと望んでいる。  

今年は辛亥革命百周年に当たる年だ。百年前、孫文先生は「世界の大勢は怒濤たる流れを成している。これに従えば栄え、逆らえれば滅びる」と訴え、中国民主革命の幕を開け、多くの正義と勇気にあふれた日本人の貴重な支援を受けた。平和、友好、協調は中日両国の唯一の正確な選択だ。われわれは歴史の潮流に乗り、時代の脈拍を正確に測り、時々の問題を乗り越え、戦略的、長期的な視野で問題を処理していく限り、平和共存、世々代々の友好、互恵協調、共同発展など両国間の立派な目標を必ず実現することができるだろう。

今年は中日関係にとって重要な一年だと思う。来年の国交正常化四十周年を控え、双方がさらに努力を重ね、健全で安定した発展を図り、中日関係がさらに高いレベルに到達することを心から願っている。 (写真提供は中国人民外交学会)(『人民中国』2011年3月号より)

 

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