People's China
現在位置: 連載最新映画を北京で見る

また青春回顧の作品がヒット『匆匆那年』

 

文・写真=井上俊彦

中国映画はこのところ毎年20~30%前後興行成績を伸ばすほどの好調が続いています。洋画に席巻されていた時期を経て、現在は国産映画も人気を集めています。郊外や地方都市にも次々にシネコンがオープンしており、消費文化と密接に関係しながら、庶民の定番娯楽という地位を確立していると言えるでしょう。そこで、実際に映画館に足を運んで、地元北京の人々とともに話題の作品や興味深い作品を鑑賞し、作品のおもしろさだけでなく、映画館で見聞きしたものや関連の話題などもお伝えしていきたいと思います。お付き合いいただければ幸いです。

ドラマ、主題歌に続いて本編登場

最近の中国映画では、青春時代を振り返る作品が人気です。このコラムでも今年の夏に『同卓的你』が話題を集めたことをご紹介しましたが、また類似の作品が大ヒットの気配です。それが、『匆匆那年』です。

高校時代の「死党」(いつも一緒にいる親友)の1人である趙燁(ジェン・カイ)の結婚式に招待された陳尋(エディ・ポン)のところに、式で流すビデオを撮影する七七(リウ・ヤースー)が現れ、陳尋に高校1年生だった1999年当時のことについて質問します。いろいろなエピソードを語る陳尋は、誘導されるまま転校生の方茴(ニー・ニー)との初恋について語り出します。そして、七七の「どうして別れたのか」「本当に努力したのか」「後悔しているか」という執拗なたたみかけに、ついに15年後の今も続く思いが……。

ポスター

これは、人気小説家の九夜茴が2008年に発表した同名作品を映画化したもので、この夏にはすでにドラマ版が放送されました。また、11月には映画公開に先立ってフェイ・ウォン(王菲)が歌う主題歌(12月号の『人民中国』で紹介しています)がヒット曲ランキングのトップを飾り、映画への期待感が高まっていました。

「80後」理解のヒントも満載

監督は日本でも知られるチャン・イーバイですが、彼としてはとても分かりやすくストレートなストーリー展開です。七七のビデオ取材に陳尋が答える形で、高校、大学時代の様子を振り返っていきます。同世代が「そんなことあったよな」「分かる分かる」と共感できる細かなエピソードを積み重ねて物語が進むのです。淡々とした展開のため、ネットでは「『あの頃、君を追いかけた』や『致我們終将逝去的青春』に比べて物語がない」などという批評も見られましたが、日曜日の昼間に詰めかけた若い観客には大いに受けていました。私の隣には1人で見に来た若い女性が座りましたが、最初はあれこれ食べながら大いに笑い、ため息をつき、物語が佳境に入って来ると何度も鼻をかんでいました。すっかりストーリーに入り込んでいるのか、時にスクリーンを指さして笑うほど盛り上がっていました。

北京耀莱成龍国際影城・馬連道店が入る新年華ショッピングセンターは2012年末の開業。馬連道といえばお茶の専門店街として知られるが、住宅開発に伴いこうした大型商業施設が進出している。

庶民的な町並みのすぐそばには新しい高層アパート群がいくつも見られ、急速に開発が進んでいることが理解できる。こうした状況を背景に、シネコンの観客層は幅広い。この日見た『太平輪(上)』にはお年寄りや家族連れが多く、『匆匆那年』には若いカップルが詰めかけていた。

演じているのは若手注目株の俳優(歌手)ばかりですが、特にヒロインを演じたニー・ニーに感心しました。メークや髪型のせいだけでなく、廊下の走り方や細かなしぐさまで高校生っぽく演じていて、1988年生まれの彼女が本当に高校生に見えるのです。チャン・イーモウ(張芸謀)監督の『金陵十三釵』(2011)で注目された女優さんですが、その後も映画を中心に活躍しており、今後が楽しみです。

外国人の私が特に感じたのは、ストーリーの背景に2000年前後の風物が丁寧に描きこまれていることでした。中国の「80後」(1980年代生まれ)と一緒に仕事をしている日本人の方には、彼らを全面的に理解する解答とまではいかなくても、彼らと話すきっかけになりそうなものが詰まっています。例えば、高校生の恋愛は禁止で、それがバレて保護者が呼び出されるシーンがありました。これは日本ではちょっと考えられないことです。また、7月に大学入試統一試験に臨む様子が出てきます。統一試験が現在のように6月になったのは2003年からでした。また、登場するお札のデザインや、北京でよく飲まれている燕京ビールの瓶の形も今とは違っています。そして大学に進学せず自分で商売を始めた趙燁が最も経済的に成功しています。私は「80後」の同僚からまったく同じ話を聞いたことがあり、とてもリアルに感じました。それから、バスケットボールにからめて『SLAM DUNK』(灌篮高手)のテーマソングがかかりますし、仲間同士が簡単な日本語でやり取りするシーンもあって観客に受けていました。「80後」と日本の距離感も肌で感じられます。

新しいショッピングセンターに続く道路には庶民的な平屋の商店街が続き、その前には屋台で各種農産物が売られている。板車と呼ばれる三輪自転車が並び、北京というよりはどこか地方都市のようなたたずまいだ。

公開3日間で興行収入は2億円を軽く突破しました。これは、12月2日から公開されているジョン・ウー(呉宇森)監督の『太平輪(上)』の2倍という好調ぶりで、チャン監督にとって『将愛情進行到底』(2011)を上回るヒットになっています。

【データ】

匆匆那年(Fleet of Time)

監督:チャン・イーバイ(張一白)

出演:エディ・ポン(彭于晏)、ニー・ニー(倪妮))、ジェン・カイ(鄭愷)、ビジョン・ウェイ(魏晨)、チャン・ズーシュアン(張子萱)、リウ・ヤースー(劉雅瑟)

時間・ジャンル: 120分/ドラマ・愛情・青春

公開日:2014年12月5日

北京耀莱成龍国際影城・馬連道店は3D上映可能な7ホールを有するシネコン。毎日早朝に1作10元での上映をするなど、ユニークな顧客サービスを実施。スタッフのレベルも高く、この日も続けて2本鑑賞したのだが、頼まなくてもコマーシャルの時間を計算して「これで間に合います」と上映回次を選んでてくれた。 

北京耀莱成龍国際影城(馬連道店)

所在地:北京市西城区馬連道25号新年華ショッピングセンター5階

電話:010-63252722 -

アクセス:地下鉄9号線六里橋東駅下車、D口前のバス停から74路のバスで4つめの東口下車、少し北に戻って麗源路を東に入り徒歩9分

 

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。

1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。

現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

 

人民中国インターネット版 2014年12月9日

 

同コラムの最新記事
また青春回顧の作品がヒット『匆匆那年』
帰ってきたヒーロー『黄飛鴻之英雄有夢』
独身デー対決『単身男女2』『露水紅顔』
老人と少女と小鳥の旅『夜鴬』
もう一つの若者メディア『飛魚秀』