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新春特別企画【中国電影之旅 浙江編】

 

象山 『運命の子 趙氏孤児』

象山影視城は日本の太秦のような映画、テレビの撮影セット村です。日本でも公開されたチェン・カイコー監督の『運命の子 趙氏孤児』(2009)は、主に象山影視城で撮影されたそうです。ここは日本の太秦のような映画、テレビの撮影セット村で、広大な敷地に古代の建物を模したセットなどが多数あります。『趙氏孤児』は春秋時代の歴史物語で、中国ではとても有名な話です。陥れられ一家皆殺しになった趙盾の遺児を、趙盾に世話になった者たちが命をかけて守り仇討ちをさせるというストーリーです。映画ではグォ・ヨウ(葛優)やファン・ビンビン(范冰冰)らのスターが共演しました。ほかに『四大名捕』(2012)『項羽と劉邦 王的盛宴』(2012)などの撮影も行われたそうですが、実は映画よりもドラマが多く撮影されており、昨年オンエアされて大ヒットした『琅琊榜』(フー・ゴー/胡歌主演)も主にここで撮影されたとのことです。

 時代劇に使われる建物が並ぶ

 

他のセット村と同様、象山影視城はあまり交通の便の良くない場所にあります。約50万平方メートルという広大な敷地を確保しなければならないのですから、当然かもしれません。というわけで、早朝に寧波を出発して向かいましたが、周囲にはほとんど建物もない田畑の真ん中にある影視城に到着するまで、乗り換え時間も入れて約3時間かかりました。ここで撮影に入った俳優さんは、撮影が終わるまで隣接するホテルと現場を往復する以外に行くところがないなと感じる環境です。セット村というと、同じ浙江省にある横店影視城が有名ですが、原寸大の紫禁城や清末・民初の広州の川港などがある横店に対して、こちらには春秋時代の宮殿群に加えて水簾洞などがあり、武侠もの、西遊記の撮影でよく知られます。

 

人気の『琅琊榜』の撮影場所を紹介するパネルもあった 

民国初期の扮装で出番を待つ「群衆演員」たちの手にはケータイ 

 

広い敷地にさまざまなセットがあり、それらに直接触れられるのが楽しくはしゃいでしまいました。セットごとに自撮りしまくり、ついにはリモコンの電池が切れてしまったほどです。民国時代の街並みのセットでは、ちょうど『長江往事』というドラマが撮影中で、民国初期のギャングに扮し出番を待つ「群衆演員(大部屋俳優、エキストラ)」が見物客の整理にあたっていました。ちょっと話しかけてみたのですが、外国人だと分かると喜んで「よく来たね」と言ってくれました。ただし、「誰が主演なの?」と質問すると、「いや、僕も知らないんだよね」と、脚本も渡されない群衆演員の現実も見せてくれました。彼を見ていて、横店影視城を舞台に群衆演員の夢と現実を描いた『我是路人甲』(2015)を思い出しましたので、これについてのコラムのリンクも貼っておきます。また、別のドラマで使うセットの建て込みも行われており、職人たちが忙しそうに立ち働いていました。この後訪れた杭州で会った知人には「そんなプラスチックなところの何が面白いんだか」とあきれられましたが、この非日常的な空間に身を置くのは楽しく、夢工場の裏方たちが自分の持ち場でしっかり働いているのを目にすると、自分も頑張らなくちゃと思えます。映画ファンなら分かっていただけるのではないでしょうか。

http://www.peoplechina.com.cn/home/second/2015-07/07/content_695022.htm

 セットの準備作業は見ていて興味深い

 

【TIPS】寧波駅隣接の寧波南バスターミナルからバスで1時間強で象山のバスターミナルに到着。隣接する小さなバスターミナルで小型の路線バスに乗り換えて50分ほど、「影視城」というバス停で降りる。さらにそこから田畑の中の道を歩いて約30分でようやくたどり着く。乗り換えも入れると3時間ほどかかることを覚悟したい。入場料は100元。内部はかなり広いが、2人乗り、4人乗りの4輪レンタサイクルもある。

 

石浦 『漁光曲』

寧波から南に向かって都市間ライナーのバスで1時間半、象山からは30分ほどのところにある小さな漁村が石浦です。今では近代的な港になっていますが、村には清代の建物が多く保存されている「漁港古城(古い街並み)」があり、夏には観光客でにぎわうそうです。そこを散策すると、かつての漁村の様子を感じることができます。

 

 かつての漁港の繁栄を伝える古城の町並み

 

実はここ、蔡楚生監督の名作『漁光曲』(1934)のロケが行われた(1933年9月に撮影されたそうです)場所なのです。ワン・レンメイ(王人美)が、相次いで不幸に襲われる漁民一家の娘を熱演しています。この作品、全面トーキー映画として公開されましたが、実際には人物の台詞は文字で表示され、言葉が聞こえることはありません。一方で、全編に音楽が使われており、繰り返し流れる『アヴェ・マリア』のほか、主題歌『漁光曲』が効果的に使われています。この映画の音楽を担当したのが制作当時若干21歳のニエ・アル(聶耳)でした(主題歌の作曲をしたわけではありません)。ご存知の方も多いかと思いますが、彼は中国国歌になっている『義勇軍行進曲』の作曲者でもあります。その後、彼は身に迫る危険を避けて35年に日本に渡り、江ノ島で遊泳中に事故死しています。その彼と『漁光曲』を記念して、石浦の海に面した広場にはニエ・アル像が立てられています。1990年に建てられたもののようですが、真っ青な空にバイオリンを弾く白い像がよく映えます。

 港に面した広場に立つニエ・アル像

 

そうそう真っ青な空と言えば、こんなことがありました。バスの時間待ちの間に地元名物の海鮮麺を食べたのですが、その店の女将さんとあれこれ話していて、「ここはいいですねえ、空気もきれいで。霧霾(スモッグ)が出ることはあるんですか?」と聞くと、女将さんは「霧霾、何それ?」と衝撃的反応。なんと、「霧霾」という言葉自体を知らなかったのです。スモッグが、客や近所の人との世間話で話題に上らない場所なのでしょう、うらやましい限りです。

 青い空によく映える

【TIPS】

寧波駅横の寧波南バスターミナルから直行バス41元。石浦東バスターミナルから路線バス2路(1元)に乗り換え海風広場下車。ニエ・アル像はバス停の海側に立っている。広場の山側には老街の入り口がある。

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