中国人の優しさ
岸本美樹
「中国の人は優しい。」
これが私の今の中国に対する印象だ。優しさにはいろんな種類があると思うが、中国の人の優しさには、飾らず正直に人を思いやる優しさがある。
中国に行ったとき、中国語があまり分からないにもかかわらず好奇心で友人と三人で映画を観に行ったことがあった。地図を買い映画館へ向かったが、近くに来ているはずなのに映画館が見つからない。そこで通りすがりのおじさんに道を尋ねてみると、おじさんも分からないようだった。しかし、そのおじさんは私たちの地図を見ながら、「今はここだろう、ここに行きたいのだから・・・」と言いながら日本人の私たちに二十分近くゆっくりゆっくり説明してくれた。お礼を言うと、ニッコリと笑って大丈夫だと言ってくれた。
映画館に着き、次はチケットをどうやって買うかという問題が発生した。チケットを買うためにとりあえず受付に行き、目的の映画のチケットを買おうと試みたが、中国語がうまく伝えられず戸惑ってしまった。すると今度は後ろで見ていたおじさんがあっという間に手続きをしてチケットを買ってくれた。そのおじさんは、道を教えてくれたおじさんのように優しく丁寧に私たちに接してくれたわけではなく、言葉で表現するなら「見ていられないから、はい、これでしょう」といった感じで私たち全員分のチケットの購入手続きを素早く済ませ、その後はお礼の言葉を言う時間も与えずに去っていった。そのおじさんはもしかしたら、たかがチケットを買うことに苦戦していた私たちにイライラしたのかもしれない。それでも私たち、そして対応していた受付の方のためにわざわざ手続きまでしてくれたのは驚きだった。日本人なら、例えば自分の前の人が時間かかっていても心の中でイライラするだけで、そのやり取りに自分が介入して解決しようと考える人はなかなかいないだろう。中国の人たちは親友や家族だけではなく、他人を思いやることが自然にできる人たちなのだと思った。
この中国人の他人を思いやる気持ちは、日本人に少し不足している部分であると思う。と同時に、日本にはあまりない種類の優しさだとも思う。例えば日本人は知らない人が「困っているのですがどうしたらいいですか」のように助けを求めに来れば多くの人がそれに応え、親切に対応してくれるだろう。しかし、困っている人を見ても自分から「お手伝いしましょうか」といった風に声をかけていく人は少ない。なぜなら自分とは無関係なことに口出しするべきではないという考えが多くの場合心にあるからだ。一方で中国人の他人に対する思いやりは、場合によると悪く言えばおせっかいや余計なお世話にもなり得るのだ。だから、これからの日本と中国の友好を考えるとき、お互いの国の人々の優しさの違いも理解したうえでその優しさを感じ取ることは重要になるのではないだろうか。
例えば友人が着ている服が似合っていなかったとき、日本人のように嘘をついて似合っていると言ってあげるのも優しさであり、中国人のように似合っていないから違う服にした方がいいと言ってあげるのも優しさなのである。