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踊る中国人

 

 太田渉

 中国の魅力を歴史や文化に求める人は多い。だが、一番の魅力は人にこそあるのだ。

僕はなにも、「中国人は日本人と変わらない」だとか「マナーのいい人もいる」だとか、そういうつまらないことを言いたいのではない。中国人はうるさいし、ぼったくろうとするし、パクるし、運転は荒いし、道端で寝ようとする(人も少なからずいる)。それが現実だ。だけど、いや、だからこそ、僕は中国人が好きなのだ。

僕はこれまで色々な中国人に会ってきた。西湖の畔に咲くチューリップと紹興酒をこよなく愛する楊老師、ダイソーの鋏を400円で売ろうとしてくる屋台のおばさん、小学生のような紅白帽を被ったツアー集団、エアロビクスに夢中なホテルのフロントのおばさん……。時には腹が立つこともあったが、みんな愉快で魅力的な人たちだった。彼らは合理的で賢く、自由で、衒いがない。お上品な日本人は人の目を気にして窮屈に生きている。最近はネット炎上とやらがブームのようで、日本人はどんどん陰湿で過激になっているようだ。そんな日本に暮らす僕でも、中国にいるときは日本の窮屈なコードから逃れられる気がする。例えばビールを片手に夜市をぶらついていると、あらゆる屋台の店員に声をかけられる。そんなとき、お上品な英語や日本語なら言いづらいことでも、中国語ならスラスラと口をついて出てくる。僕の「太貴了!」を皮切りに、おばさんとのやりとりが始まる。電卓を二人で交互に打ちあったり、帰るふりをしてみたり、話を逸らしてみたり……。どこまで値切れるかはわかっているのだが、このやりとりがしたくて僕は何度も同じことを繰り返してしまうのだ。初めてぼったくられたときは、中国人の友達に「彼らは日本人が嫌いだし、金づるとしか思っていないよ」と言われて落ち込んだりもしたが、中国にも慣れて気楽に店員と話せるようになってくると、彼らは非常に親身になってくれて、ある人は帰国する時に大きな掛け軸を贈ってくれた。中国人は本当に友情を大切にするのだなと感動した瞬間だった。

最近の日本では明らかに現代中国人に対する敬意の念、親愛の気持ちが失われている。日中関係は悪化し、観光客は白眼視される。原因は、僕たちがお互いのことをよく知らないことにあるのだと思う。僕が短期留学生として中国を訪れ、彼らと交流してみて強く感じたのは、自分の通う北海道大学や留学先の浙江大学にウジャウジャいるインテリなんかより、下町に暮らす一般中国人、彼らにこそ僕らは目を向けるべきでないのか、ということだ。大学に通うようなインテリは大体が裕福で世界基準のマナーも考えも持ち合わせているわけで、彼らと交流して「中国人は良い人」なんて言っても仕様がない。僕らは、もしかしたら僕らを憎んですらいるかもしれない、情に厚く素朴で衒いのない素敵な中国の一般市民と対話をしていかなければならない。

また僕は「中国が好き」という人にも今一度問いたい。「中国の歴史・文化が好き」な人、あなたは本当に「現代」中国人も好きなのか?「マナーのいい中国人もいる」と言う人、あなたは現実から目を逸らしているだけではないのか?耳あたりの良い文句を並べても現実は変わらない。賢い中国人ならそんな意味のないことは言わないだろう。本当に中国が好きで、良い関係を築きたいのならば、ありのままの中国を見よう。互いを正しく理解することなくして、真の友好関係などあり得ないだろう。中国人は僕たちに足りないものを持っていて、僕たちは中国人に足りないものを持っている。互いに補い合えたなら、それはなんて素敵な関係だろうか。

20歳の春、杭州の駅に降りたった僕を最初に出迎えてくれたのは、道端で踊るおばさんの集団だった。僕にとっての中国人のイメージは、あの踊るおばさんたちだ。人目を気にせず、楽しそうに汗をかいて踊る中国人。僕も願わくは彼らと一緒に踊りたいと思うのだ。

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