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人生のパートナー

 

 沢田莉絵

「あなたにとって中国とはどのような存在ですか?」

2016年現在、日本でこのようなアンケートをした場合、肯定的な意見と否定的な意見の割合は果たしてどちらが大きくなるだろうか。

10年前の私に同様の質問をすれば、恐らくそれ程深く考えず「料理が美味しい」等適当な回答をしただろうと思う。当時私にとって中国とはそれ程の存在だった。しかしながらもし現在聞かれれば、自信を持って答えるつもりである。「人生のパートナーです」と。

私が中国と関わる様になってから丁度今年で10年目である。きっかけは特別なものではなく、大学の第二外国語選択において一番簡単そうと言う理由で選んだだけであったが、すぐに後悔した。最初の発音練習の段階で躓いてしまい、結局単位を落としたりと成績はずっと低空飛行だった。

しかし縁あって大学卒業後すぐに北京の現地企業で働くことになった。社員は9割以上が中国人で、基本的に日本語は通じない。だが当時私の中国語レベルは初心者同然であり、他の社員と意思の疎通がまともに出来ず、環境にも馴染めずに仕事への意欲は下がる一方だった。次第に陰で悪口を言われていることも分かり、自分が悪いものの中国に関わる全てが嫌で、何度も日本へ逃げ出したいと思った。

このような状況の中、支えとなってくれた中国人の同僚がいた。私とほぼ同期入社の彼は、日本へ留学していたこともあり日本語が非常に堪能であった。彼はひたすら中国語を教えてくれただけでなく、彼の家族や友人等沢山の中国人を紹介してくれ、嫌いになりかけていた中国の魅力を一杯教えてくれた。次第に私の視野は広がっていき、ある大切な事に気付くことができた。

私は中国へ来てから恐らくずっと、中国人に指導を仰ぐ立場でありながら「日本の常識」を基準に物事を考えていた。彼に言われて忘れられない言葉がある。「中国には『位思考』と言う言葉がある。色々と理解出来ない所はあるかもしれないけど、突っ撥ねるだけじゃどんどん溝が深くなるよ。日本にも思いやりの精神ってあるでしょ。ゆっくりで良いから中国人のこと理解していって欲しいな。『慢慢来』ね。」

たとえ言葉は通じなくても、日本と違えば受け付けないと言う私の傲慢な態度はきっと周りに伝わっていただろう。関係が上手く行く筈がない。自分が如何に思い上がっていたか気付き、非常に恥ずかしく、情けなかった。

それ以来職場の同僚達に、拙い中国語ながら積極的に話し掛けるようになった。私の態度が急に変わったことで、最初は皆に戸惑いが見られたが、段々と打ち解けて私が日本へ帰国する際には空港で泣いてくれる友人も出来た。

私に大切なことを教えてくれた彼とは、紆余曲折はあったものの一昨年夏に国際結婚し、現在共に日本で暮らしている。未だに文化的な違いから衝突することは多々あり、正直受け入れ難い考えもある。しかしその様な時は必ずお互いに「位思考」を意識し、価値観を理解し合うことを心掛けている。

私の人生にほぼ無関係であった中国は、現地での様々な経験や、多くの人々との交流を通して、人生に無くてはならない非常に大切なパートナーへとこの10年で変わっていった。しかしながら現在日本において、中国に好感を抱いていない人は少なくない。逆もまた然りである。冒頭の質問をすれば、現状は残念ながら否定的な意見の方が圧倒的に多くなることが予想出来る。

日中両国民がお互いを理解し合うには恐らく非常に時間が掛かるに違いない。けれども皆が「位思考」を意識すればその時間はきっとより短くなる筈だ。近い将来産まれてくるだろう我が子は正に日中の架け橋となるべき存在である。その子が大きくなる頃には、両国民間の交流が更に盛んになり、お互いの存在を「人生のパートナーである」と言える社会になっていることを切に願っている。

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