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私の小さな先生

 

 仲田裕貴

「ありがとう、私の小さな先生。」 私がある人から受け取ったこの言葉は、自分自身の将来の方向性を決めるとても大切なものになりました。

私がまだ中学生だったころの話です。当時、私は高校受験を控えていてほぼ毎日のように図書館に通い、勉強をしていました。そのころはただ漠然と、高校という目標に向かって勉強をするだけで、その先のことはまだ何も考えておらずまあなんとかなるだろう、と楽観的に考えていたのをよく覚えています。ただ、徐々に聞こえてくる周りの友人たちの「俺は医者になる。」「看護士になりたい。」といった未来を見据えた発言に、自分はこのままでいいのだろうかと焦り、その焦りを打ち消すために机に向かうということが多くなっていきました。そんな日々の最中に私は、とある中国人の男性と出会いました。

私と同じように毎日のように図書館に通っているのでその男性のことは前から知っていました。また顔つきからその男性は、日本人ではないのだろうとなんとなく考えていました。反対にいえば、その程度の認識しか私は持っていなかったのです。毎日毎日、何かを勉強している外国人、というのがその人に対する印象でした。

ある日のことです。たまたま私とその男性が隣同士の席になる機会がありました。彼を見ていると日本語のテキストとにらめっこをしながら、なにやら難しそうな表情をしています。こちらの視線に気がついた彼は、軽く会釈をして話しかけてきました。「すいません、ちょっとわからないことあります。」独特な言い回しでたずねてきたその男性は、自分のことを「王です。」と名乗り、私はそのときに初めて、その男性が中国人だということがわかりました。王さんと話していると、彼が22歳ということ、中国で日本語の先生をやるために日本語を勉強していることなど、だんだんと彼のことがわかってきました。その後は、王さんとアドレスを交換してメールのやり取りを続けたこともあり、王さんは私に会うと日本語で分からないことを多く質問するようになりました。その都度、わかりやすく教えてあげました。また、私も受験のことなど積極的に話していました。受験に関しては特に気にかけてくれて、がんばれ!と何度も声をかけてくれました。

時間がたち、私が無事に第一志望の高校に合格したときにも王さんとのメールのやりとりは続いていました。合格について、感謝の意も込めて中国語で報告をしようと、翻訳サービスなどを使って何度も口に出しながら覚えました。そして、いつものように図書館にいき、王さんに「你好。我通。(こんにちは、合格しましたよ)」と報告すると王さんはきょとんとした後に自分のことのように喜んでくれました。こんなに喜んでくれるなんて、と暖かい気持ちになり嬉しかったです。そして私に、「仲田さんのおかげで日本語、とても楽しかったです。ありがとう、私の小さな先生。」と言いました。私はこの言葉を聞いて、人に何かを教えるということの魅力に気付きました。

私は今、大学四年生で英語の教師になるために勉強をしています。もし王さんとの出会いがなかったらここにいることもなかったかもしれません。これからも夢に向かって、頑張っていこうと思います。

 

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