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「リンゴ」と「ケーキ」

 

 竹井史帆

中国語を選択した理由はなんとなく。大学一年生、私は第二言語に中国語を選んだ。中国から伝わってきた漢字を日本人は毎日使っているのだから、そんなに難しいことはないだろう。これが私と中国との最初の出会いである。そんな私が中国に"ハマった"きっかけは、アルバイト仲間の中国人留学生との出会いだ。

留学生の中に山東省出身のお兄さんがいた。「あなたなんさいですか?」「19歳です!」「ははは、こどもだねー」顔をくしゃくしゃにしながら、あまり上手でない日本語で彼は言った。彼は私よりも3歳年上らしい。「あなたはじめてみたとき、中国人おもたよ」、どういう意味だろう?中国人留学生たちと積極的に話をしている様子から、私もその中のひとりだと勘違いをしたことだろう。日本と中国、今現在、国家間の仲は決して良いものとは言えない。「中国人だと思った」彼はこの言葉を何気なく私に言ったかもしれない。しかし、日本人の私に親近感を持ってくれている気がして、なんだか嬉しくなった。そこから私たちはよく話をするようになり、私が大学の授業で作った短文を見せると、彼はいつも「乖乖(よしよし)」と褒めてくれた。

あるとき、彼と私と他の留学生何人かで水族館へ遊びに行くことがあった。そこに川魚の展示があり、大きな鯉が泳いでいた。「おいしそう~」「大きいね」「(値段が)高そうだ」、留学生たちの会話に衝撃を受けた。中国には祝い事などめでたい時に鯉を食べる習慣があることをそこで初めて知った。

鯉のような文化の違いを感じる出来事は他にもあった。クリスマスイブのことだ。彼は私に小さなケーキと、リンゴをひとつくれた。とても綺麗な真っ赤なリンゴだった。日本ではクリスマスイブには一般的にはケーキを食べる。でもなぜ彼はケーキと一緒にリンゴもくれたのだろうか。中国語でクリスマスイブは平安夜と表記し、頭文字の発音(平と苹)が同じ苹果(リンゴ)を縁起を担ぎ食べるのだと教えてくれた。リンゴを食べて幸せなクリスマスを過ごそう、そして来年も穏やかな一年を送ってください、と。

リンゴとケーキの出来事をふと思い返し、考えてみた。リンゴは中国の風習、ケーキは現代の日本の風習である。中国人として自国のアイデンティティを大切にしつつ、日本に身を置く中国人として、日本人へ敬意を表す行為であった。国レベルで分かり合うことはまだまだ時間がかかるかもしれない。しかし、彼のような心遣いは、市民レベル、人間レベルで文化や習慣を乗り越えられる可能性を持っている。真の国際関係の重要性を彼は行動で私に教えてくれた。

しばらくして彼は山東省へ帰ってしまった。家庭の事情で急いで中国へ帰らざるを得なかったそうだ。その後も私は変わらず中国語の勉強を続けている。なんとなくの私がこんなに中国に夢中になるなんて思いもしなかった。出会いは人を変える。理解しようという気持ちを互いが持つことで、初めて同じ土俵に立つことが出来る。理解しようという気持ちがあれば、いくらでも努力はできる。心の持ち方次第で人と人との関係は大きく変わるのではないか。

大人になるということは、自分を大切にしながら相手に配慮をすることであると思った。これから私は、いろいろな人との出会いを通じてたくさんの経験をしていくだろう。彼のような中国人との出会いもあるかもしれない。その時にはケーキと一緒にリンゴも送る、自国の風習を大事にしながら相手国の風習も尊重する、そんな心遣いの出来る人になりたい。いつの日かもう一度彼に会えたら、さらに成長した姿を見せ、感謝の気持ちを伝えたい。そして、中国と日本の未来を語り合うのだ。

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