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2人の留学生が教えてくれた事~消費される日中イメージを越えて~

 

 山本勝巳

ステレオタイプの中国人像が蔓延していないか?――急速な経済発展にともなう中間層の拡大、さらには円安効果も手伝って、昨年は日本を訪れる中国人観光客が年間400万人を超えた。10年前、中国に留学していた頃は、多くの中国人にとって日本は「近くて遠い」国であったが、いまや日本を「近くて近い」国だと感じる人が増えてきたと言っていいのではないか。一方で、日本人が中国に抱くイメージはどうであろうか。中国人の日本に対するイメージの変化に追いつけず、少し古いイメージばかりを好んで消費しているような気がしてならない。

私もその中のひとりだった。大学職員として留学生の対応をしているが、今年短期留学にやってきた中国人留学生はとりわけ深く印象に残っている。「90後」と呼ばれる二十代前半の彼らが話す中国語は、どこか解りにくく、私の話す中国語を聞くなり、表現が古いと一刀両断されてしまったからだ。

特に印象に残った2人がいる。湖北省の大学から来た、蔡さんと劉さんであり、蔡さんは私の中国語を一刀両断にした張本人だ。発端はルームメイトに関する問い合わせに「同室は…」と回答したら、「今はその言葉を使わない。『室友』と言います」と返答された事に発する。ネットや世相を表した単語の理解に苦しんだ一方で、双方の生活様式の変化や世代間のギャップが言葉となり、形となって交わり、異文化を享受していく感覚は面白くもあり、会話は途切れる事はなかった。

実際に地方都市においても、ネットで注文した商品が即日配達される事や『スラムダンク』等の日本の名作漫画を読んだ事もないと即答された時は驚いた。また、「111」(独身)、「520」(愛してる)等、数字で表現する意味は新鮮に感じた。教科書の言葉ではなく、今を生きる中国の若者の言語観・価値観が生み出した中国語に触れた気がした。

もうひとりの劉さんは、好奇心に満ち溢れ、積極的に日本語を使い、真摯に勉強する彼女の姿は一際輝いて見えた。このまま順調な留学生活が続くと思った矢先、事件は突然起きた。短期留学も折り返しを迎えたある日、劉さんのお金が無くなったのだ。

何度計算しても元の金額に足りなく、記憶も曖昧な所があり、失くしたのか、盗られたのか分からない状況。通訳として応対した私は、ショックで震えながら説明する彼女の声を聴き、急速に輝きを失った姿を見て、この日本での「嫌な思い出」が彼女を「日本嫌い」にさせはしないかと心配になった。日中友好に貢献できるよう、大学職員として日本人・中国人の留学を支えたいと努力してきたつもりだが、ただ通訳しかできない自分、実際に力になれない自分を情けなく思った。

劉さんの笑顔を取り戻したい…。想いとは裏腹に時は過ぎ、最終日の終了パーティーを迎えた。私は参加者に声をかけられないくらい、パーティーの運営・進行に忙殺されていた。そして、この日誕生日を迎えた教員にサプライズでケーキのプレゼントが渡され、世界各国からの祝福の後、ロウソクの火が勢いよく吹き消された。

大きな拍手が沸き起こる中、使命を終えたロウソクを回収し、ゴミ箱に捨てようとする私を制するように「待ってください」と声をかけられた。その声の主は劉さんだった。このロウソクが欲しいという。「ゴミだけどいいの?」と答えると「いいえ、これは私の宝物です」と、いままで見たことのない満面の笑みを返してくれた。

この瞬間、私は彼女の言葉に救われた気がした。同時に独善的なイメージが強かった「90後」とよばれる学生達についても、自分に都合の良い情報だけを集めて、間違った像を構築していたと感じた。多くの日本人と中国人の間にも同じ事は言えないか? 世の中は常に動いている。

今、日本語教師育成学校に通っている。今後は支えるだけでなく、直接学生達と交わる事で、多くのステレオタイプの日本人像・中国人像をぶち壊していきたい。その先にある日中友好を信じて。

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