あなたに歩み寄りたい
田中郁美
私は、大学生になってから3人の中国人と出会った。しかし、彼らを「中国人」とだけ認識したことは無い。国籍が中国であることは、血液型やしぐさなどと同じ、その人を形づくる一つの要素でしかないからだ。それぞれ個性的な魅力を持っている自慢の友人、サム、ジェリー、ハンさんを紹介する。
サムは、私の大学に交換留学生として一年前にやってきた。「弱虫ペダル」という日本の漫画が大好きで、ロードバイクを乗りこなす彼とは、大学のサイクリング部で一緒に日本各地を走った。最初はゆっくり話したり、難しい日本語は使わないようにしたりと気を使っていたが、今はそんなことは全くする必要がない。日本語がとても上達して、メールをやり取りしていても、日本の若者言葉を使いこなす彼に驚かされた。部の中心となって、自分から日帰りサイクリングを計画し、誰よりも活発に楽しそうに活動している部員だ。個人的には、サイクリング以外でも、一緒に秋葉原に遊びに行ったり、メロンパンフェスティバルに行ったりした。メロンパンは日本にしかない食べ物だそうで、色んな種類のメロンパンを買って食べたのは幸せな思い出だ。そんな彼は、今年の夏が終われば帰国してしまう。さみしいから、私は彼に日本での就職を勧めたら、進路の候補にいれてくれたみたいだ。また一緒にサイクリングしたり、遊びにいったりしようね、サム。
ジェリーとは、大学2年の夏休みにカナダの語学学校で出会った。私とジェリーは、並んで歩いていたら娘と父のように見えてしまうぐらい年が離れているけれど、好きな食べ物の話から、将来の話まで様々なことを語りあった。彼は中国で生まれ育ったが、大人になってからはカナダで暮らしている。テラスから海が見渡せる大きな一軒家に独りで住んでいて、毎週のように彼の家で語学学校の仲間たちとパーティーをした。私が語学研修を終え日本に帰国するときは、いつまた会えるか分からなくて涙が出たが、この前日本で再会することができた。成田空港に彼を迎えに行き、しゃぶしゃぶを食べてカラオケに行ったことは忘れられない。彼が日本に遊びに来てくれて、また再会できたことが夢のようだった。日本を案内することに、とても喜びを感じた。そして2週間の日本観光の後、彼はカナダへと発った。今度はいつどこで会えるだろうか、ジェリー。
ハンさんとは大学の友人を通して知り合った。彼女は中国に旦那さんと子供を残し、中国政府の支援をうけ大学院で公共政策を学びに来日した。今年の6月で卒業し、中国へと帰国してしまったが、とても穏やかで優しい人だった。私の、長々と続く恋愛話を夜遅くまで聞いてくれたり、中国料理をふるまってくれたりした。彼女の故郷は中国の田舎町で、よく中国の自然の壮大さ、美しさについて教えてくれた。いつかこの目で確かめに訪れたい。そして、あなたがつくった水餃子がまた食べたいな、ハンさん。
振り返ると、3人の友人と過ごした時間は短いが、素敵な思い出と中国への興味を私に残してくれた。性格も年齢も全く違う彼らの共通点は、中国で生まれたことだ。中国とはどんな所なのだろう。テレビのニュースで報道されることが全てじゃないことは、3人と関わって実感した。
新しい人や事との出会いにはワクワクが詰まっている。夏が終わって学校に戻っても、大学のキャンパスで彼らと会うことはもう無い。でも新しい学期が始まるのが楽しみだ。次の学期では中国文化・近現代史を取る予定だ。学問を通して知る中国は、私に何をもたらすのだろう。今年の秋は、もう一歩、彼らに歩み寄りたい。