貴州の「村T」 民族の魅力を世界へ発信

2026-07-27 16:43:00

范国虓=文 貴州「村T」=写真提供 

州省を訪れたなら、壮大な黄果樹瀑布を見て、香り豊かな酸湯魚を味わった後の旅程には、ぜひ「村T(Tステージ)」のファッションショーも加えたい。 

貴州の農村には、専門的なランウェイもなければプロのモデルもいない。舞台に立つのは、くわを置いて晴れ着に着替えた農家の男性かもしれないし、子どもを背負いながら笑顔を見せるミャオ(苗)族の母親かもしれない。さらには、この体験のために遠方から訪れた外国人観光客が登場することもある。 

こうした民族色豊かなショーは、わずか2年で1000回近く開催された。中国中央テレビ(CCTV)の春節聯歓晩会(春晩、春節を祝う年越し番組)の舞台にも登場し、海外にも進出して外国の観客を魅了した。 

それだけではない。「村T」は周辺地域の観光産業の活性化にもつながり、ミャオ族刺しゅうや銀細工といった伝統工芸に新たな活力をもたらした。現在では1万5000人の刺しゅう職人たちが、地元にいながら自らの技術で収入を得られるようになっている。 

地元のファッションウイーク 

今年の旧暦の大みそか、CCTVの春晩の舞台では、歌手の周深さんが民族衣装をまとった56人の子どもたちと共に楽曲『吉量』を披露し、大きな話題となった。 

あまり知られていないが、この大人気のパフォーマンスチームを立ち上げたのは、生粋のミャオ族出身である古阿新さん(本名楊春林)である。 

古阿新さんは、貴州省黔東南ミャオ族トン()族自治州凱里市湾水鎮江口村のミャオ族集落で生まれた。幼い頃から母親の刺しゅうや銀細工の技術に親しみ、その経験が民族文化を受け継ぎたいという思いの種となった。 

成長後、古阿新さんは一定の知名度を持つファッションデザイナーとなり、故郷の刺しゅう職人たちと共に各地のファッションウイークに参加しながら、現代的なデザインを通じてミャオ族刺しゅうの物語を発信してきた。 

しかし、母親の何気ない一言が彼の心を動かした。 

「どうして私たちには自分たちのファッションウイークがないの?」 

「本当にそうだ。故郷の民族衣装はこんなにも美しいのに、なぜ地元の人々自身の舞台をつくらないのだろう。みんなを外へ連れて行くより、故郷に舞台をつくればいい」 

そんな思いを胸に、古阿新さんは2024年7月、凱里市党委員会市政府の支援の下、帰郷して起業し、「村T」と名付けた文化プロジェクトを立ち上げた。正式名称は「貴州省農村無形文化遺産民族衣装ランウェイショー」である。 

「最初の発想はとてもシンプルでした。おばさんたちや姉妹たちに、自分がいちばん美しいと思う服を着て、一度自分のためにランウェイを歩いてもらいたかったのです」と古阿新さんは語る。 

専門的な会場がなかったため、凱里苗風情園の公共回廊をランウェイとして利用した。プロのモデルもいないため、舞台に立ったのは畑仕事を終えたばかりの村人たちであった。 

当初は江口村の集落内で行われる小規模な活動にすぎなかったが、「村T」の評判は次第に周辺地域へ広がり、参加を希望する人々も増えていった。周辺の県や区の住民も参加しやすいよう、政府の支援を受けて「村T」は正式に凱里苗風情園へ拠点を移し、名称もこれを機に定着した。 

24年7月の正式スタート以来、わずか2年の間に貴州の「村T」は累計で1000回近いショーを開催し、参加者は延べ8万人を超えた。中国の56民族全てが参加し、来場者数は累計80万人を突破している。 

誰にでも開かれたランウェイ 

「村T」の舞台には、気取った表情もなければ、型にはまったウオーキングもない。主役となるのは刺しゅう職人や銀細工職人、農作業を終えたばかりの村民たちであり、時には、すきやくわを担いだ70代の高齢者も舞台に立つ。 

「最初にランウェイへ上がったときは、緊張で胸がいっぱいになり、手足をどう動かしてよいかも分かりませんでした」 

ミャオ族刺しゅう職人の李阿朶さん(47)は笑いながら当時を振り返る。陽光の下、1年をかけて仕上げた民族衣装は細やかな輝きを放っていた。 

「自分たちの民族衣装を着て、自分たちの歌が流れる中を歩いていると、不思議と背筋が伸びるのです」 

古阿新さんの印象に今も強く残っているのは、一人の高齢男性が自宅の木製のすきを担いだまま舞台に上がったときのことである。 

「その方にはBGMもありませんでしたが、自分で歌を口ずさみながら歩いてきました」。古阿新さんはこう語る。 

「こうした生まれながらに備わった生活の息遣いや、心から湧き出る率直な表現こそ、どれほど入念に演出されたショーにも勝るものです。専門的な訓練を受けていなくても、人は十分に輝くことができるのです」 

恥ずかしさから自信へ――。その変化こそが、「村T」が村民たちにもたらした最も貴重な贈り物である。 

「村T」の知名度が高まるにつれ、評判を聞きつけて訪れる観光客も増えている。観光客たちは美しい民族衣装に身を包み、郷土の温もりが感じられるランウェイを歩く。 

特に設けられた「観光客ランウェイ体験」は、すでに「村T」を象徴する人気企画となっている。民族衣装を着て、歩き、その文化を肌で感じる没入型体験は、この草の根文化の祭典における最も魅力的な参加型コンテンツの一つとなっている。 

「貴州『村T』は発足当初から、『民衆が運営し、民衆が演じ、民衆が楽しみ、民衆が豊かになる』という理念を掲げてきました」 

凱里市党委員会副書記市長の楊波氏はそう語る。 

大地に根差したこの初心こそが、「村T」に他のどのファッションウイークとも異なる魂を与えている。それは単なるショーではなく、人々が故郷にささげる最も深い愛情の表現なのである。 

郷土文化が支える農村振興 

どのような成功にも苦難は伴う。貴州「村T」の成長も例外ではなかった。 

古阿新さんによれば、立ち上げから3カ月がたった頃、資金も人手も不足し、一時は活動を断念しようと考えたこともあったという。 

「本当に続けられないと思っていました。そんなとき、いつも来てくれていたミャオ族のお母さんが3000元を手渡し、『何としても続けてほしい』と言ってくれたのです。そのとき、この活動は自分一人のものではなく、村全体の願いなのだと気付かされました」 

民間の創造力と政府による的確な支援が結び付いたことで、発展への原動力は一気に加速した。 

昨年8月、凱里市は「村T」支援専門チームを設置し、毎週のように現場の課題解決に取り組んだ。また、ミャオ族の新年祭や酸湯グルメフェスティバルと「村T」を連携させ、「村超(農村サッカーリーグ)を観戦し、村Tを楽しみ、酸湯を味わう」という観光ルートを構築したことで、大きな相乗効果を生み出している。 

「住民が創り、政府が後押しする」。このモデルは、郷土文化の根を守るだけでなく、運営やマーケティングに長けた若者たちのUターンも呼び込んだ。 

こうした「新農人」と呼ばれる若者たちの力によって、「村T」は住民主体の娯楽イベントから、計画性ブランド力産業チェーンを備えた成熟した文化IPへと発展した。郷土文化を活用して農村振興を実現する新たな道を切り開いたのである。 

「村T」の人気は周辺の文化観光産業にも波及している。 

ランウェイから数十離れた場所には、凱里苗風情園内の無形文化遺産市場「繍里淘」がある。 

楊市長によれば、「2024年の開設当初は300店余りだった出店数が、昨年末には900店以上に増加しました。ミャオ族刺しゅう、ろうけつ染め、銀細工など9分野、6100種類以上の無形文化遺産関連商品が並び、周辺の伝統工芸品販売、健康養生産業、飲食業、宿泊業の発展を力強く後押ししました。総売上高は6億元に達しています」という。 

現在では、「ショーで注目を集め、市場で消費につなげる」という好循環がすでに形成されている。観光客は「村T」のショーを見て美しい民族衣装に魅了され、そのまま市場で同じ商品やオーダーメード品を購入できる。買うだけでなく、ろうけつ染めや刺しゅうを実際に体験することも可能である。 

貴陽市出身の郭少韻さんはこう語る。 

「以前はこうした民族衣装は自分たちとは縁遠い存在だと思っていました。でも今では、私たち若者がこぞって体験したいと思うファッションになっています」 

「繍里淘」市場で店を営む刺しゅう職人の勝芝さん(63)も、その変化を強く実感している。 

「『村T』が人気になってから、店には次々と観光客が訪れるようになりました。ショーを見た後で同じ衣装を求めて来る人も多く、注文数は以前の何倍にも増えました」 

自らが手掛けるミャオ族刺しゅうが全国各地から訪れる人々に愛されていることを、さんは心から喜んでいる。 

「これは単なる商売ではありません。ミャオ族刺しゅうという文化が山あいの地域を飛び出し、より多くの人に知ってもらい、記憶してもらうことにつながっているのです」 

現在、「繍里淘」市場や「村T」と連携する無形文化遺産工房は50以上の村に広がり、3万人を超える刺しゅう職人の雇用を創出している。そのうち約1万5000人は地元で安定した就業を実現している。参加する村民の年間所得は平均で1万2000元増加し、収入は40%以上伸びた。 

まさに「指先の技」が「指先の経済」へと変わったのである。 

楊市長は次のように語る。 

「今後は『村T+』を軸とした文化観光商品を開発し、『ショーを見る、美食を味わう、村に泊まる、文化クリエーティブ商品を買う、無形文化遺産を体験する』という新たな消費シーンを育てていきます。オンラインとオフラインの両面から集客力を収益へと結び付けていきたいと考えています」 

貴州から世界の舞台へ 

ミャオ族の村にある風雨長廊から国連の会議場へ、北極圏の氷雪の世界からブダペストの春節廟会(縁日)へ、さらにはバンクーバーファッションウイークからロンドンやパリのファッション業界へ――。 

わずか2年の間に、貴州の「村T」はその足跡を4大陸へ広げた。 

今年2月、「村T」は国際展開における大きな一歩を踏み出した。ハンガリーブダペストに「貴州村Tハンガリー分T」が正式に設立されたのである。 

これは「村T」初の海外常設拠点であり、ハンガリー貴州商会のメンバーによって運営され、「村T」の運営チームが指導に当たっている。 

今年の「歓楽春節」ハンガリー中華街新春廟会では、「村T」が登場し、海外在住の華僑華人に故郷の春節の雰囲気を届けるとともに、多くの人々に貴州の民族文化の魅力を伝えた。 

古阿新さんは意欲を込めて語る。 

「『村T』を通じて素晴らしい民族文化を発信できることを大変光栄に思います。これからは貴州の民族衣装をさらに大きな舞台へと届け、中国の農村が持つファッション性と力強さを世界に示していきたいです」 

楊市長もまた、今後の展望について次のように述べている。 

「今後は『一帯一路』共同建設国のさまざまな民族を結び付け、世界規模の『村T』を開催したいと考えています。それによって、世界の民族文化交流を促進する確かな懸け橋を築いていきます」 

 

関連文章