第20期三中全会に期待すること
聞き手=呉文欽
中国共産党第20期中央委員会第3回全体会議(以下、第20期三中全会)が、7月15日から18日まで北京で開催される。今年上半期の中国経済が力強い成長の勢いを見せたため、多くの国際組織や外資機関は、今年の中国のGDP成長率予想を引き上げ、中国経済の先行は良好という見通しを立てている。
第20期三中全会開催直前のインタビューで、キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の瀬口清之氏は「三中全会への期待は不動産市場と地方財政の安定化が取り組むべき重要課題に含まれることだ」と語った。
——今年の両会で、中国政府は経済成長率5%という目標を掲げました。今年上半期の中国経済の発展についてどのように評価しますか。
瀬口清之 中国のマクロ経済は、基本的に去年の8月頃から緩やかな回復が続き、現在に至っています。工業生産、サービス生産、さらには設備投資、とくに製造業の設備投資など、ほぼ全ての指標が緩やかながら順調な回復基調となっています。インフラ建設は高い伸びではないものの堅調であるほか、消費もそこそこの水準を保っています。唯一悪いのが不動産関連の投資や消費です。
通常の景気回復パターンと異なっているのは、景況感の回復が遅れていることです。中国の方々は口々に、景気回復の実感がないと言います。つまりマクロの指標は回復しても、人々は経済が良くなったとは思っていないという現象が続いているのです。
それには大きな要因が二つあると考えられます。一つは不動産市場の深刻な停滞が続いていて出口が見えていないことです。特に三級、四級都市の不動産価格の下落には歯止めがかかっていません。一級、二級都市も三級、四級都市ほど大幅ではありませんが価格の下落が続いています。この不動産市場の弱さが、人々の景況感にネガティブな影響を大きく与えているように見えます。
もう一つの要因は、新型コロナのパンデミックが終わって平穏な日常生活を取り戻しても、以前のような高度成長の時代には戻れないという現実が目の前に立ちふさがっていて、元気が出にくい気分が広く共有されていることです。景気が良い頃は、6〜7%くらいの成長率が当たり前と思う人が大半だったと思います。しかし、今は政府が何もしなければ、4%程度が中国経済の実力との見方が一般的になっており、短期間の間に先行きの実質成長率見通しが2〜3%も下方修正されてしまいました。以前の高度成長が前提だった時にはこういう投資を計画した、こんなものも買えたのに、今はもう無理になった。頭では仕方ないとわかっているのに、やはり元気が出にくくなってしまうのです。以上2点が足かせとなり、景気回復を感じられない人が多くなっているのではと私は見ています。
――中国共産党第20回三中全会が今月15日から18日にかけて開かれますが、今回の開催には何を期待していますか。
瀬口 一つは地方財政、もう一つは不動産市場の対策です。この2点は互いに絡み合っていて、不動産市場が回復しなければ地方財政の財源確保も難しいでしょう。ただ不動産市場に関して言うと、当面は安定を回復するのはほとんど不可能だと思います。それでも市場がさらに不安定な状況にならないように、大手の不動産会社が突然潰れて市場が混乱するような事態を防ぐ必要があります。不動産価格は現在も値下がりが続いていて決して良い状態ではありませんが、それが一段と悪くなるようなことが起きないよう必要な対策を打っていくのが、一つ目の重要課題です。
不動産市場がある程度安定を取り戻して景況感が回復し始めるまでの間、重要な役割を担うのは、各地方政府による景気下支え政策です。地方公務員の給料がきちんと払われ、必要なインフラ建設が実行され、未払いになっている民間企業への各種支払いや金融機関への返済が滞りなく行われるような状態を保つには、地方政府の財源確保が不可欠です。
そのための選択肢は3つあります。第1に、日本のように中央政府が地方政府に対して多額の補助金を支給する仕組みを作る。第2に、現在中央政府の財源となっている一部の税収を地方政府に移管し、地方政府自身が財源をきちんと確保し、中央政府からの補助金がそれほど大きくなくても地方財政が回るような体制にする。第3はその双方を導入してバランスさせる。いずれにせよ何らかの方法で地方財政のバランスが安定するような財源確保に向けた税制改革、もしくは地方と中央の間の財政調整の仕組みを作って、誰もが安心して暮らせるような地方財政システムを整備することがとても重要です。
——今年前半の欧米出張で、中国の専門家や有識者の見方をリサーチされたそうですね。現地ではどのような意見が聞かれましたか。
瀬口 政治外交面に関しては、欧米諸国と中国では主張や意見の食い違いが目立つものの、経済やビジネスの面では、中国企業と一緒にやっていきたいと考えている企業や国が非常に多いのです。EU諸国は中国の電池メーカーやEVメーカーの工場進出を歓迎していて、ドイツ、フランス、ハンガリー、スペインはすでに工場を受け入れているし、イタリアもその方向に向かうと予想されています。
米国政府はデカップリングに向かっていて、中国企業の対米投資を厳しく制限しています。しかし、米国企業にとっては中国の市場、中国企業との連携が非常に重要なので、米国政府が目指す方向通りに企業が動くことは、おそらく不可能でしょう。もちろん米国企業も一定程度は政府に歩調を合わせざるを得ないでしょうが、主要な部分に関しては、中国とのビジネスをやめるわけにはいかないのが実情です。ですから欧米と中国との経済交流は今後も拡大が続くでしょう。
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