改革開放と伝統的価値観で協力の基盤強化
日中友好会館会長 宮本雄二(談)
7月15日から18日、中国共産党第20期中央委員会第3回会議(以下、三中全会)が北京で開かれ、「改革をいっそう全面的に深化させ中国式現代化を推進することに関する中共中央の決定」(以下「決定」)が公布された。これにより、今後5年における中国の発展の全体的基調が定まった。
中国の改革開放の基本政策がしっかりと再確認されたことを評価している。中国は現行の国際秩序、つまり国連憲章や国際法などに基づいた政治秩序とWTOに代表される経済秩序の下で、互恵平等、共同発展という考え方を固めた。それが今回の「決定」でも当然確認されているし、国際社会として望ましいことだと思う。
今後、中国はより多くの国々との協力関係を進めるべきだが、西側諸国と言われる国々との相互協力関係もさらに進めた方が良い。そういう国々も含めた全世界との関係で対外開放拡大政策を進め、そしてまさに平和共存五原則の中に打ち出された平和と発展を中心とした「人類運命共同体」という国際関係を中国が進めようとしていることを評価している。
変わりゆく中国
「決定」の中で最も印象的で、われわれが心から歓迎するものは、習近平総書記の今回の「決定」に関する説明の中にもあるように、改革開放、特に開放が強調されたということだ。中国の今日の発展の鍵は開放を伴う改革であり、これからもそうである、という中国共産党の基本認識に、私も賛同する。改革とは変わるということだ。よって、国際社会も中国は変化し続けていくという前提で中国と付き合わなければならない。「今の中国はこうだから云々」という固定観念は正しくない。なぜなら、中国は変わり続けるからだ。中国共産党のガバナンスの中に改革が埋め込まれているというのが私の見立てであり、これは改革開放当初からずっとそうだった。とりわけ習近平指導部になってから、改革を重視するという点はさらに強調されている。
「改革開放」という言葉を一時期あまり耳にしなくなったのは事実だ。改革開放の「改革」に重点が置かれてはいるものの、「開放」にどこまで取り組むつもりなのか、はっきりしない時期があった。しかし今回は「開放」に重点を置き、「開放は中国式現代化の鮮明なトレードマークである」と明記されている。対外開放は基本国策で、開放で改革を促し、外国企業との関係をつなげようという意図がそこにはある。外国から見た場合、最も大きなメッセージはこの点にあると思っている。対外開放とは、国際経済や国際社会との関係をより良くするためのものであり、それに必要な改革を行うということだ。習近平氏はあと5年でこれを実現すると言っているので、私はそれに強く期待している。
活力あふれる中国市場
昨年来、一部のメディアは日本企業が中国市場から撤退していることについて、中国の改革開放政策が後退し、中国市場が魅力を失っているからだと報じているが、その見方に私は賛同しない。
中国市場で成功している日本企業のリーダーたちは、中国市場を「世界で最も競争が激しい市場」と見ている。競争があるのは市場経済では当たり前のことだ。そして活力があればあるほど、競争も激しくなる。市場での競争が激しければ、負ける企業が当然出てくる。つまり、中国経済の競争の激しさは活力があることの証明であり、そこに追いつけない日本企業が出てきており、それが撤退につながっているということだ。
自動車産業を例に挙げよう。現在は電気自動車(EV)に重点が移り、熾烈な競争が繰り広げられ、日本企業も巻き込まれている。結果、一部企業はすでに撤退した。その他の会社も、EVで苦戦しているのは間違いない。元気のいい若い市場になればなるほど、競争が激しい。中国市場に問題があるから撤退するのではなく、競争に負けて撤退すると見るべきだ。しかし、これはどこの国でも同じであり、日本市場でも負けたところは撤退する。
他方、外国企業に対する配慮が少し低調になったという時期は間違いなくあった。しかしこれに関しても「決定」の第24項で「制度型開放を着実に拡大する。進んでハイスタンダードな国際貿易ルールに適応し、財産権の保護、産業補助、環境基準、労働保護、政府調達、EC、金融などの分野でルール、規制、管理、基準が相互適用できるようにし、透明で安定した予見可能な制度環境を整える。自主と開放を拡大し、わが国の商品市場、サービス市場、資本市場、労働市場などの対外開放を秩序立てて拡大し、後発開発途上国への単方向の開放を拡大する。対外援助の体制・仕組みの改革を深化させ、フロー全体の管理を実現する」としている。これはまさに中国日本商会が要請したものを含んでおり、5年以内に中国の市場環境が外国企業にとってさらに良くなることを示している。これがきちんと行われていけば、制度が原因で外国企業が中国から去っていくことはなくなるだろう。
伝統文化から共通の価値を
「決定」で私が重視しているのは、「中国式現代化は物質文明と精神文明のバランスがとれた現代化である」という項目だ。その中に「中華の優れた伝統文化を伝承する」という文言があり、この点に私は特に注目している。
中国の悠久の伝統文化を掘り下げるほど、日本と中国の共通の基盤が深まっていくと私は感じている。われわれは福田康夫先生と共に日本アジア共同体文化協力機構(JACCCO)をつくり、その一つの大きな柱を、伝統文化の再活性化に置いている。
現代化が進んだ今日、思考の核となる価値観が動揺している。日本も中国もそれは同じだ。その価値観を安定させるためには、伝統的価値観を今一度学び直し、現代生活の中で再び活かす必要がある。そして、昔の考え方の神髄を現代生活でどのように使えば社会と個人が安定し、倫理水準が上がっていくかを考えなければいけない。
よって「決定」での指摘は日本や中国の共通の基盤が深まるきっかけになりうると、私は期待している。なぜなら日本も中国も今こそ伝統文化を取り戻し、現代生活の中に活かしていくことが求められているからだ。今の世界は人工知能(AI)の台頭もあって、ますます混乱を深めている。こういうときこそ、価値観の核となるものが必要だ。それを伝統文化の中から探し出して、取り戻すべきだ。
中国の伝統文化や伝統思想に体現されるもろもろの価値は、普遍的なものだと私は考えている。例えば孔子の「仁」は「LOVE」にほかならない。孟子は「今、人乍に孺子(幼児)の将に井に入(墜)ちんとするを見れば、皆怵惕惻隠の心あり、…惻隠の心無きは、人に非ざるなり、…惻隠の心は仁の端なり」(公孫丑章句上)と言っている。そうした価値の再確認がわれわれには必要であり、人間である以上、そうした感情は必ずあるはずだ。
私は、中国の人たちの最も重要な価値観は「義」だと見ている。今年6月24日、蘇州で起きた無差別殺傷事件で犠牲になった胡友平さんは、その象徴的な例だ。あれはまさに、「何が何でも子どもたちを守らなければならない!」という「義」の価値観からの行動であり、そこには日本人も中国人もない。
中国の人が立派なのは、「義」のために自分の命をかけるところだ。昔、日本で韓国の留学生が線路に落ちた人を助けようとして、救ったあとに電車にひかれて亡くなったという事件があった。これもやはり「義」だ。われわれ東アジアにはそうした価値観があるのだから、それを表に出してはっきりと意識させるのが、伝統的価値観の今後の役割だと思う。かねてから、その発見作業を日本と中国が共に、そしていずれ韓国も加えて行うことを願っている。今回の「決定」にそれに類する項目が入っていたことに、私はいささかの元気をもらった。 (聞き手・構成)=呉文欽
宮本雄二(みやもとゆうじ)
元駐中国大使。1969年外務省入省。90年から91年には中国課長を、2006年から10年まで在中国特命全権大使を務める。現在は日本アジア共同体文化協力機構理事長、日中友好会館会長。
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