日中関係の未来は民間が動くことでつくられる
言論NPO代表 工藤泰志(談)
「東京―北京フォーラム」は2005年に発足し、今年で18年目を迎える。小泉純一郎首相(当時)が靖国神社に参拝し、日本の歴史教科書問題なども重なって、中国で若者による抗議デモが起こった年でもある。フォーラム発足のきっかけは、その抗議デモも関わっている。
当時、日中両国のメディアは中国で広がる抗議デモを連日報道し、過熱報道は国民感情の対立を拡大させた。一体、この状況を誰が立て直せるのか。それが私の強い問題意識だった。両国政府間の意思疎通は決して十分とは言えず、両国のメディアはお互いの批判に明け暮れていた。両国間に生まれた「空白」を埋めるために、私は単身、北京に向かい、多くの中国の方と話し合った。まさに「東京―北京フォーラム」は、この「空白」を埋めるために生まれた。
昨年10月25日に行われた第17回「東京―北京フォーラム」北京会場の模様(写真・人民中国)
フォーラムの日本側主催者は言論NPOである。中国側主催者は開催10回までを中国日報が、その後の「2度目の10年」を中国外文局が行っている。言論NPOは中国との友好団体であると思っている人が多いようだが、それは誤解である。われわれがフォーラムを運営する目的は、両国間が直面する課題を克服し、アジアや世界の未来に貢献することだ。だから議論は本気で激しく、日中関係の現実的な問題解決のために何度も提言を行ってきた。
われわれは当初から一貫して「けんかができるほど仲が良い関係」を目指している。友好は目的ではなく、あくまでも結果なのだ。
この対話が、日中両国が陥った困難に立ち向かい、両国関係の歯車として前向きな発展を促してきたことは確かだ。例えば、深刻な日中関係を立て直す歴史的な舞台となったのも、このフォーラムである。06年には当時官房長官だった安倍晋三氏が第2回フォーラムであいさつし、政治と経済の二つの車輪を作動させ、日中関係をより高度の次元に高めるという発言をしている。その1カ月後、安倍氏は自民党総裁選に勝利して首相となるや中国訪問という「破氷之旅」へと乗り出し、中国との戦略的互恵関係の確立を宣言している。
もう一つの例として、12年9月に起こった「島購入事件」に伴う対立も挙げられるだろう。この事件は13年開催のフォーラムに大きな影響を与え、世界のメディアは日中両国間の軍事衝突の懸念を報じた。この年は日中平和友好条約締結35周年の節目だったが、政府間関係はそれどころではなかった。
この状況を乗り越えるために、民間の努力が求められた。私が考えたのは民間レベルで「不戦の誓い」を合意し、世界に公表することだ。私たちが平和を呼び掛けることで、両国政府に変化を起こしたいと考えた。協議は深夜にまで及んだが、多くの人の力で、この年のフォーラムは「不戦の誓い」を発表。18年にはさらに「平和宣言」を発表し、両国民のコンセンサスを強化した。
近年、新型コロナウイルス感染症の流行、異常気象、あるいはウクライナ情勢の泥沼化と、世界は大きな変化を迎えている。日中関係はもはや両国間の問題だけではなく、国際的視野で両国が世界に向けてどのような貢献をすべきかを探求すべきだ。地球規模の問題に共に取り組むことでこそ、両国の間に横たわる問題の解決策を見つけられる、と私は確信している。そして、民間がそのための努力を行い続けることで、政府の行動にも必ずや影響を与えるだろう。
(王朝陽=聞き手 呉文欽=構成)