この50年の成果は平和と友情

2022-09-15 16:56:53

元駐中国日本大使 宮本雄二(談)


日中国交正常化50周年を迎えたわれわれの最大の成果は、先達の遺志を継ぎ平和を維持してきたこと、友好を絶えず進める努力をしてきたことだろう。 

1972年に田中角栄首相(当時)が訪中した際、万里の長城を視察した。中国外交部の職員は長城周辺の全ての村を訪ね、「日本の国旗をつけた車が通るが、これは中国のためになることだから、決して誤った行動を取らないでくれ」と住民の説得に回ったという。それが当時の中国人の対日感情だった。日本人の中国への印象も「混乱したわけが分からない国」で、私の中国との付き合いも疑念と誤解から始まった。 

私が最初に知り合った中国共産党幹部は、同い年でのちに外務次官となる武大偉さんだった。 

武さんは当時日本の中国大使館の通訳で、政府刊行物センターで本を買い込み、「中華民国」の文字を見つけては訂正しろと外務省に文句を言いに来た。当時の中国大使館は台湾の問題で週2回は抗議に来ていたと思うが、これが彼との出会いだった。しかしそんなやりとりを続けるうち、私たちは次第に親しくなっていった。武さんに「日本の本当の生活を見てみたい」と言われ、狭い公務員宿舎に奥さんの毛婭平さんと一緒に来てもらったこともある。その時のことを、「あなたのおかげで日本人の生活を知ることができた。いい経験をさせてくれてありがとう」と折りに触れ言われた。 

半世紀にわたる付き合いの中でけんかもたくさんしたが、私たちは気が合った。私と武さんのような経験を通じて互いを身近に感じた両国民は、決して少なくないだろう。50年という歳月で、その積み重ねはかなりできていると思う。 

  

当時の住居だった公務員宿舎で武大偉、毛婭平夫妻を迎えて。左から毛婭平さん、宮本氏長女、武大偉さん、宮本雄二さん(写真提供・宮本雄二)   

日中関係に関して、私は他の人よりも楽観的かもしれない。私は2006年から10年まで駐中国大使を務めたが、任期中に安倍晋三元首相の訪中、温家宝元総理の訪日、福田康夫元首相の訪中、胡錦濤元国家主席の訪日と、4度もの大きな外交の場に居合わせた。中でも最も大きかった成果は、08年の「戦略的互恵関係」の包括的推進に関する日中共同声明だろう。 

そんな私が日中関係を一言で総括するならば、それは「希望」だ。 

小泉純一郎首相(当時)の靖国参拝で日中関係が非常に悪くなったが、それでももう一度関係を戻すことができた。こうした歴史の事実を作ることで、今後、再度関係が悪化してもまた改善できるという「希望」を持つ人々が出てくるはずだ。 

国交正常化当時の両国の有識者は、長期的な広い視野に立ち、本当の意味での国家利益のために同じ目標に向かって互いに努力した。今を生きるわれわれもそれにならい、両国の指導者はもちろんのこと、より多くの人々が、両国関係改善こそが長期的には真の国益にかなうものという認識を持つことが大切だと思っている。 

(王朝陽=聞き手・構成)  

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