新型コロナとの闘い 上海で活躍する日本人の物語
李一凡=文
上海市民の一致した努力と全国からの支援により、上海では最近、新型コロナウイルスの感染拡大が効果的に抑制され、予防・抑制対策に段階的な成果が見られた。上海は中国で在留邦人が最も多い都市であり、感染拡大を前にして、多くの日本人はPCR検査の医師やボランティア、物資調達の取りまとめ役として上海を支え、この都市と共に困難を乗り越えようとしている。彼らは、自分たちも市民の一人であり、上海を守るのは当然のことと考えている。この期間中、在留邦人たちは一丸となって新型コロナと闘い、思いやりに満ちた上海の人々に心を動かされ、上海への帰属感を一層深めている。
第一線で働く日本人医師
スワブで咽頭をぬぐって粘液を採取し、スピッツに入れて、蓋をする……このようなPCR検査の検体採取の作業を慣れた手つきで行う日本人医師の小野火美子さんは、1日に1000人以上の検体を採取する。
小野さんは上海市浦東新区浦南病院国際医療部の総合診療医で、防疫の第一線で2カ月半以上働いている。「検体採取の仕事は大変ですが、温かい言葉をかけていただくと、また力が湧いてきます」と小野さんは語る。
新型コロナが発生した後、小野さんはすぐにPCR検査の医師に応募した。「私は中国で学んだ外国人医師で、学部では中医学を専攻しました。卒業後はずっと浦南病院に勤めていて、上海で20年以上暮らしているので、とても思い入れがあります」と小野さんは話す。彼女は2人の子供を家族に預けて、新型コロナとの闘いの第一線に身を投じた。
小野火美子さんの防護服を着てPCR検査をする姿と普段の白衣姿
スマートフォンの使い方が分からないお年寄りの手助けをする若者、子ども連れでPCR検査を受ける夫婦を気遣って手伝う隣人たち、一日中忙しく働いたスタッフにおしゃれなお菓子を送る住民……コミュニティーでのPCR検査に携わる中、感動したシーンはたくさんあると小野さんは言う。
「コミュニティーでPCR検査をした時、そこにお住まいの方々が手作りお菓子を持ってきてくれたのですが、日本のお菓子に似ていたので、遠く離れた親戚と友人のことを思い出しました。そこで写真を撮って、その温かい気持ちを皆さんと分かち合いました。力を合わせてもう少し頑張りましょう! 上海はきっと普段の生活に戻れます」と語る小野さんの明るい笑顔には、多くの人が励まされている。
手際よく防護服と青い手術着に着替え、検体採取の準備を済ませたのは、小野さんの同僚である寺崎真さんだ。「出発前、病院の上司はホールで、『皆さんが参加するのは国民の健康を守る事業です』とエールを送っていました。それを聞いて、心が震え、とても感動しました」と寺崎さんは話す。
3輪トラックに乗ってコミュニティーを走り回るという「大衆密着型」のスタイルは寺崎さんにとってとても新鮮で、「仕事の効率もかなり上がりました」と話す。最近は同僚と共に近くのコミュニティーや工事現場、企業を走り回っているほか、濃厚接触者の自宅に出向いて検体採取を行っている。朝早く家を出て、夜遅く帰宅することも多く、一番遅い時には深夜2時にようやく病院に戻れたこともあったという。
3輪トラックに乗ってPCR検査の検体採取所に向かう寺崎さん
「最初はつまらないと感じましたが、私は医師免許を持つ中医学医師なので、中医学の理念を持って検体採取の仕事に向き合うようになってからは、以前とは全く違う感じがしています」と言う寺崎さん、スワブで咽頭をぬぐって粘液を採取する時、舌質と舌苔を観察して、「この方は舌苔がやや黄膩(黄色がかっていて粘り気がある状態)で、湿熱体質ではないか。この方の舌質はやや黒くて瘀斑があり、血瘀(血の巡りが悪い状態)体質ではないか」といったふうに、ひそかに「舌診」を行っているのだという。
PCR検査に数十回参加し、寺崎さんは居民委員会と不動産管理会社のスタッフやボランティア、各地の医療従事者に出会った。「新型コロナ対策でみんなが力を尽くして、一致団結しています。その精神に心から感動しました」と寺崎さんは語る。
コミュニティー内の臨時理髪店
長引く在宅生活で、散髪は多くの住民にとって切実な悩み事だ。そんな中、上海在住19年になる日本人美容師の安東泰一さんはコミュニティー内で臨時理髪店を開き、無料で近所の人々にサービスを提供している。
ヘアカットをする安東さん
「封鎖が始まってから、私たちはたくさんのボランティアに助けていただきました。私も何か一つでもと思い、カットをボランティアでさせていただくことになりました」と安東さんは話す。臨時理髪店は居民委員会オフィスビルの2階にあり、営業時間は午前10時から午後5時までで、1日に15人から20人の髪を切ることができるという。目下、臨時理髪店はヘアカットのサービスしか提供できないが、10代の子どもから80代のお年寄りまで、誰もが安東さんへの賛辞を惜しまない。
安東さんに感謝を伝えるため、ヘアカットが終わると住民たちはそっとプレゼントを置いていく。ジュースやケーキ、ビスケット、みかんなど、テーブルの上を埋め尽くすのは感謝の気持ちが詰まった品々だ。「美容師をやっていてよかったなと改めて思うことができました。居民委員会は場所を提供してくれましたし、住民の皆さんへ連絡してくれる方や消毒や掃除を手伝ってくれる方もいます。本当に感謝の気持ちでいっぱいです」と安東さんは語る。
物資調達を担う専業主婦
封鎖管理期間中、輸送力不足で個別に物資を配達するのが困難なため、多くの住民がコミュニティー向け共同購入で生活物資を購入している。「団長」と呼ばれる共同購入のリーダーは住民の買い物を取りまとめ、物資の供給を保障する重要な役割を果たしている。専業主婦の渡辺亜沙子さんは10年以上前に職場を離れた今、故郷から遠く離れた上海で思いがけず「団長」を務めることとなった。
2019年、渡辺さんは駐在員として赴任する夫と共に、家族で上海に移住した。「人見知りなので、同じコミュニティーに住んでいる日本人についても詳しくなかったし、友達も数人しかいませんでした」と渡辺さんは話す。中国語が得意ではないため、隣人との交流もほとんどなかったという。「『不好意思(すみません)』と『谢谢(ありがとう)』、後はエレベーターでお隣さんに『几楼(何階)?』と聞くことくらいしか話せません」
新型コロナの感染拡大後、渡辺さん一家の生活も困難に直面した。「封鎖の前に備蓄した物資はほとんど使い果たし、どこで補充すればいいのか。家族の1日3食はどうしたらいいのか」と、彼女は不安を抱いていた。幸いにも同じコミュニティーに住む中国の隣人が共同購入を始め、日本人もSNSアプリである微信(ウィチャット)のグループに招待された。しかし、中国語が上手ではないため、グループ内の買い物情報に対応できない日本人が少なくなかった。
そのため、渡辺さんは自ら「団長」になることを決めた。彼女はコミュニティ内の日本人と連絡を取り、共同購入のグループを作った。渡辺さんによると、現在同グループの人数は240人以上で、中国人と日本人の割合は半々だという。
共同購入した品物の確認をする渡辺さん
物資の調達、購入者数の計算、不動産管理会社とのコミュニケーション・調整、品物の消毒と運搬など、コロナ下の上海における共同購入には膨大な作業が伴う。数百人を支える「団長」として、フルタイムの仕事並みの精力を費やさなければならない。そこで、近隣住民は自発的にボランティアチームを立ち上げ、「団長」である渡辺さんを支援している。物資を探し、住民の需要を把握する「仕入れ組」、購入件数をまとめ、代金を受け取る「会計組」、物資を運搬して各棟に配布する「運搬組」と3組があり、渡辺さんはそれらの情報を取りまとめて手配を行う。
言葉が通じない場合、中国語と日本語が堪能な通訳を行うボランティアがおり、不動産管理会社と調整する時には、手伝ってくれる中国人の隣人もいる。「みんなの協力がなければ、このチームは成り立たないです。日本人でも中国人でも、みんなが協力し合って頑張っています」と話す渡辺さん。人見知りでシャイだった彼女は、この「仕事」を通じて隣人と親しい関係を持つようになった。
住民の日常生活を守るためコミュニティーに常駐している警備員と清掃員、PCR検査の実施に協力し、外国籍の住民の情報入力を手伝うボランティアなど、コロナ下で周りの人々に助けてもらったおかげで、最初は不安を感じていた渡辺さんも、今は感謝の気持ちでいっぱいだという。「自分の力で、少しでもお返ししたいと思います」
ボランティア活動に励む日本人
佐藤敦さんは1年前に上海市にやって来て、浦東新区で暮らしている。封鎖管理が始まった当初、佐藤さんは困惑し、不安もあったが、コミュニティーの日本語が堪能なボランティアが家まで訪ねて状況を丁寧に説明し、食料を届けてくれたため、最初の困難な時期を乗り越えることができたという。そうしたことから佐藤さんにもボランティアチームに加わろうという気持ちが芽生え、「ボランティアの方々にいつも助けていただいたので、少しでも恩返しができればと思ってボランティアチームに参加しました」と佐藤さんは述べた。
佐藤さんが住んでいるエリアには外国籍の住民が多く、世界50カ国・地域の1万人近くの外国人が住んでいる。中国語が堪能で、英語も少し話せるため、佐藤さんはボランティアの仕事で大きな役割を果たしており、宅急便と食料の配布のほか、防疫に関する政策の広報活動やPCR検査の際の行列整理、個人データの読み込みといった仕事を受け持っている。
防護服姿の佐藤さん
仕事の種類が多く、防護服やマスク、防護シールドを装着して「完全武装」する必要もあるため、佐藤さんは「体力的には疲れています」と率直に述べたが、「みなさんから『ありがとう』の言葉をもらうことで、精神的には疲れません」とのことだった。
ボランティアの仕事で、一緒に汗を流す多く人と友達となったなど、佐藤さんには思いがけない収穫があった。「みなさんは大変な仕事をしているのですが、そういう中でも明るくいつも笑顔なのがとても素晴らしく、私も励まされました」と佐藤さんは語った。
(ソース:光明日報、中国新聞網、ICS『中日新視界』)
人民中国インターネット版 2022年5月31日