衛星「悟空」宇宙を騒がす 暗黒物質解明は生涯の目標
2019-07-23 14:24:00
2017年11月30日、「悟空」が暗黒物質とおぼしき痕跡を発見し、中国は宇宙の謎の探索に大きな一歩を踏み出した。写真は、衛星の稼働状況を説明する常進さん
地球から500㌔離れた太陽同期軌道上に、中国からやってきた「孫悟空」が広大な宇宙を飛び回っている。
2015年12月、中国は「悟空」と名付けた暗黒物質粒子探査衛星を打ち上げた。昨年末には、「悟空」が宇宙空間に存在する「約1兆4000億電子㌾の質量を持つ新たな粒子」を発見したという最初の成果が発表された。科学者は、それが人類が長きにわたって探し求めた暗黒物質ではないかと推測した。
打ち上げから現在まで、「悟空」は40億もの宇宙高エネルギー粒子を探査し、地球を毎日15回計60万㌔回り、暗黒物質の謎の解明に努めている。そして、その背後には暗黒物質衛星プロジェクト首席科学者の常進さん(52)と多くの中国科学研究者の昼夜を問わない努力があった。
宇宙科学プロジェクトホールで中国科学院宇宙科学センターの専門家と話し合う常さん(右から2人目)
暗黒物質を解明するため
過去、天文学者は恒星が銀河系の中心を軸に回転する速度が速すぎることから、銀河系には目に見える物質以外に目に見えない物質があるのではと考えた。その目に見えない物質が集まり、恒星を引力で引き止めているため、恒星は速度が速すぎても銀河系から離れることはないのである。
調査の結果、「目に見えない物質」の割合は「目に見える物質」をはるかに上回ることが明らかになり、それは暗黒物質と名付けられた。
現在、人類が暗黒物質を「捕捉」する方法は「宇宙、地上、加速器」の主に三つだ。「宇宙」とはその名前通り、宇宙で暗黒物質の消滅と発生の痕跡を「捕捉」することである。
「宇宙」での暗黒物質の著名な「捕捉者」は三つある。一つは国際宇宙ステーションに搭載されているアルファ磁気分光器2号、もう一つは米国航空宇宙局(NASA)のフェルミガンマ線宇宙望遠鏡、最後の一つが中国の「悟空」だ。「悟空」は今までで一番観測範囲が広く、世界最高のエネルギー分解能を持つ暗黒物質粒子探査衛星であり、世界のあらゆる同類探査機を上回っている。
昨年末、雑誌『ネイチャー』で「悟空」の最初の科学成果が発表され、世界で最も正確に高エネルギー電子宇宙線エネルギー・ スペクトルを観測したと公表した。これは昨年の中国ひいては世界が最も注目した天文学史上の出来事であり、「悟空」が世界的に最も正確で高効率の探査を実現したことを証明した。
「悟空」の最終組立を終わらせた中国科学院微小衛星イノベーション研究院の研究者たち
夢に向かい成功を重ねる
常さんは中国科学院紫金山天文台副台長、暗黒物質粒子探査衛星首席科学者だ。中国科学技術大学の近代物理学部を卒業後、南京市にある紫金山天文台で20年以上、宇宙の高エネルギー電子や高エネルギーガンマ線を研究した。紫金山天文台に足を踏み入れたその日から、常さんはいつか自分が設計した天文観測機器に衛星を乗せ、チームを率いて世界の天文観測のトップに並ぶ夢を持った。
「昔は国内の科学研究費が逼迫していて、特に1980年代から90年代にかけては経費予算を1000元単位で計算していました。ともすれば1億元以上もする宇宙機器ですので、当時は国から十分な経済的サポートを受けられていませんでしたが、それでも天文学者は夢を諦めませんでした」
90年代末、国外の科学研究機関との協力の道を求めた常さんは「協力するたびに夢に一歩近付き、成功を積み重ねていきました」と話す。
2000年、NASAが気球宇宙探査機を南極の上空に打ち上げ、地上から37㌔離れた空から高エネルギー電子の初観測を実現した。常さんによると、このプロジェクトで最も価値のある発見は、科学者が初めて宇宙の高エネルギー電子の異常を観測したことにある。08年、常さんを第一著者とする関連論文が『ネイチャー』に掲載され、世界の高エネルギー物理学者から大きな注目を集め、また人々の暗黒物質探査への情熱を沸き立たせた。
これがきっかけになり、中国の暗黒物質探査プロジェクトが正式に立案され、15年12月に衛星「悟空」が無事発射された。
中国科学院宇宙科学センター宇宙科学プロジェクトホールのスクリーンに、「悟空」が受け取った最初の科学データが表示されている
自分の代では終わらない仕事
「悟空」の打ち上げ後、常さんのチームが最初の3カ月間で行った主な仕事は測定であり、専門家を招いて衛星の状態を採点した。当時、中国科学院は国内からこの分野の専門家を招き、採点してもらったが、「悟空」の点数は100点だった。2年後、「悟空」は全探査機器がみな正常に作動し、あらゆるパラメータも打ち上げたときと同じで、またしても100点の状態だった。
この2年間の「悟空」の陰で行った仕事を振り返る常さんは「衛星発射後に3回涙を流した」と話す。
最初の涙は「悟空」が送信したガンマ線天球図を見たときだ。この結果は200人余りが長年行った仕事が無駄ではなく、探査機が正常に稼働したことを証明し、常さんの最大の懸念を打ち消した。「私が生まれた江蘇省泰興市の農村は農民の年収がだいたい2万元で、われわれの衛星は泰興市数万軒の農民の総収入に当たります。父はすでに亡くなりましたが、死ぬ前に衛星の計画が頓挫してしまわないかといつも心配していました。だから、私は常に注意深く、着実にあらゆることを全力でこなしていきました」
2回目の涙はある国際会議でのことだ。当時、常さんのチームは日本のチームと同じ研究をしており、日本チームが先に衛星を発射したが、その会議で日本チームが発表した成果は中国チームよりも少なかった。「暗黒物質探査は基礎科学に属します。基礎科学には特徴があって、それは一番があって、二番がないということです。当時、国際会議で日本チームのグラフが出たとき、私は涙しました。そのとき私は、中国人はわざわざ日本に便座を買いに行くが、暗黒物質を研究するなら日本に行かずとも、われわれの紫金山天文台に来ればいいと思ったのです」
3回目の涙は仕事に忙殺されていたときだ。「宇宙関係の仕事はあらゆることに注意を払い、何かがあればすぐに行動に移します。責任が大きすぎて、この数年間毎日薄氷を踏む思いで仕事をしていました」
「悟空」チームの幹部である胡一鳴さんはこう述べる。「常さんはいつも、世界で最も優れた人々と競争するわれわれは彼らより賢いか?それはありえない。ひたすら苦労を重ね、彼らの何倍もの時間と体力を使えば、少しはチャンスがあるかもしれない、と繰り返し強調していました」
現在まで、人類や科学者は「悟空」が持ち帰った最初の成果に一体どんな意味があるのか正確には分かっていない。これに対し、常さんはこう述べる。「基礎科学の重要な進展は世界と人類の生活に革命的な影響をもたらしますが、影響が出るまで辛抱強く待つ必要があります。暗黒物質の役割は今のところ不明ですが、暗黒物質を調査する作業で私たちチームは毎日影響を受けています。100年後の人々は、日常生活で暗黒物質から発見した効果やそれ自体を利用しているかもしれません」(高原=文 新華社=写真提供)
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