メディア分科会:健全な世論形成に責任負う
李家祺=文
今回のメディア分科会では、中日両国の経験豊かなジャーナリストおよび報道・広報を研究する学者13人が「複合化する世界危機下でのメディアの役割を考える」をテーマに、率直で踏み込んだ、実り豊かな交流を行った。
責任を担って積極的に行動を
分科会では、今年の世論調査における両国回答者の相手国に対する印象から議論が始まった。パネリストたちは、厳しさを増す国際情勢が中日関係、特にその民意の基盤に与えた影響が長引いていることへの懸念を示した。
新華社東京支局長の馮武勇氏は、構造的な要因の影響により、中日間の世論には比較的固定された部分が存在すると指摘し、それによって両国民の感情改善の上限が設けられた一方で、感情悪化の下限も設けられたと指摘した。さらに馮氏は、その中でメディアができるのは、構造的矛盾がもたらすマイナスの影響をできるだけ抑え、互恵的要素によるプラスの効果を最大限引き出し、拡大させることだと述べた。
中国外文局アジア太平洋広報センター特別顧問・中国人民政治協商会議第14期全国委員会外事委員会委員の王衆一氏は、メディアは自らの責任をはっきりと認識し、問題の背後にある複雑な原因を見極めてより建設的な意見を出し、国民間の「失望」の感情が「慢性病」になり、さらには「合併症」を引き起こすことのないよう共に努力すべきだと呼び掛けた。
読売新聞社論説副委員長の五十嵐文氏は、両国の間には健全な方向に進んでいくための環境が必要であり、そうした環境をつくり上げるにはメディアの努力が欠かせないと指摘した。
中国日報社編集委員の紀濤氏は、2024年の世論調査で約9割の人々が相手国に渡航した経験がないという結果に注目し、そうした背景があってこそ、メディアの責任がいっそう問われると指摘した。また、両国のメディアは両国民が共に関心を抱く話題や、気候変動対策、貧困削減、防災・減災などといったグローバルな課題に関する内容をより多く報道すべきだと考えを述べた。
フェニックステレビ中国語局副局長の黄海波氏は、現在、SNSで中国の人々に向けて日本の情報を発信する各種アカウントのフォロワー数は、日本の人々に中国のことを伝えるアカウントのフォロワー数を大きく上回っているという事実をデータで説明し、これは中国のネットユーザーに比べ、日本のネットユーザーの中国への関心度が低いことを示していると指摘した。
それに対して王氏は、両国のメディアは中国のデジタル経済や日本のシルバー産業など、相手国の人々が関心を持つ分野により焦点を当て、両国民が恩恵を受けられる報道を増やすことで、双方の相手国に対する好奇心や好感度を高めることが重要であると提言した。
日本放送協会(NHK)メディア総局特別主幹の河野憲治氏は、中日関係は最近改善の兆しを見せており、両国のメディアはそのチャンスをつかみ、両国民の日常生活を積極的に報道し、一般的な日本人や中国人の物語をより多く紹介すべきだとの考えを示した。
中国社会科学院日本研究所研究員の金瑩氏は、新聞やテレビなどの従来型メディアのほかに、現在はニューメディアの影響力も非常に大きいと指摘し、中日両国にとって従来型メディアとニューメディアをいっそう連携させ、より多様な形を通じて双方が自国とその社会のことを相手に発信していくことが今後の重要な取り組みの一つだと述べた。
「調和」と「協力」を求めて
現在、国際情勢は不安定、不確実、不安全な要素がいっそう際立ち、地域情勢は複雑に入り組んでおり、人類社会は大きな試練に直面している。それに対して中日のパネリストたちは深刻な危機感を示し、メディアが報道を通じて世界の分断を克服する役割を果たすべきだという見解で一致した。また、中国側のパネリストは、両国が「和合」の精神によって「調和」と「協力(中国語で「合作」)」を求めるよう呼び掛けた。
これに対し、日本側の複数のパネリストは、「調和」と「協力」を呼び掛ける「和合」の思想は東方の知恵を象徴しており、両国がより多くの共通点を見出して対話を深める上でプラスになるとして賛同の意を示した。このような建設的な交流は今回の分科会における重要な成果の一つであり、両国が互いに疑念を解消し、相互信頼を高めるための具体的でポジティブな実例ともなった。
また、パネリストたちは直接交流を強化し、事実を伝えることによって両国民の相手国に対する偏ったイメージを変えるべきだと呼び掛けた。
毎日新聞社論説委員長の福島良典氏は、自身の息子の実体験を例として、相手国に対する全面的で客観的な理解を育む上で対面での交流が果たす重要性を説明し、「私の息子は今年小学校5年生ですが、以前はYouTubeなどのSNSを通じて中国に対して偏ったイメージ(6)を持っていました。しかし今、息子のクラスには中国人児童が3人いて、彼らと交流をし、仲良しになったことで中国に対する印象が変わりました」と語った。
日本文華伝媒株式会社副社長兼『東方新報』総編集長の孫冉氏は、自社が催した「日本人大学生100人訪中プロジェクト」の事例を挙げ、出発前には不安を抱く参加者や家族もいたが、実際に中国を訪れると印象が大きく変わり、訪中経験をきっかけに中国留学を進路として選んだ学生もいたと振り返った。
河野氏も民間交流の重要性に賛同を示した上で、SNS上で影響力を持つ一部の「インフルエンサー」が相手国に関する誤った情報を拡散している現状を指摘し、そういった「インフルエンサー」たちに、実際に相手国を訪れて相互理解を深めてもらうことは、誤情報の拡散を減らすのに役立つはずだと提言した。