伝統・創造・未来 中日の3人 響き合う作品

2018-12-29 15:01:44

于文=文 平山郁夫シルクロード美術館=写真提供

広島県尾道市の平山郁夫シルクロード美術館で開かれていた「『和而不同』伝統創造未来展 平山郁夫、篠山紀信、王伝峰の世界」が12月2日に閉幕した。9月22日から始まったこの展覧会は日本画家の平山郁夫、写真家の篠山紀信、中国画家の王伝峰各氏による61作品を展示。国境と時空を越え、異なる作風が溶け合う空間は、多くのアートファンを引き付けた。

出会いが生んだ味わい

 砂漠に青々と茂るオアシスと、丘陵に隠れる敦煌の莫高窟。山野の巨大な石馬の傍らでは農村の子どもたちが戯れる。化石のようなうろこを金色に輝かせて遊弋する魚群は、さながら光陰を幻に変える力をたたえているようだ。異なる作風を持つ3人の芸術家が出会い、テーマやスタイル、テイストが異なる作品が一つの空間に集うことで、不思議な調和を生み出している。

 

「平山先生は日本文化の源流を求めて中国各地を訪ね、多くの作品を残しました。日中友好協会の会長も長く務められ、多くの中国の朋友の支持を得て、文化遺産の保護や経済文化交流などの活動にも従事しています。山東省から来日した王伝峰先生は幼少時から水墨花鳥画を修め、後に平山郁夫、東山魁夷両氏の作品の影響を受け日本で学ばれました。主なモチーフは魚ですが、模索を重ね、独特の画風を築いています。王先生と平山先生は25年にわたる付き合いがあり、平山先生は王先生にとって師であると同時に良き友人でもありました。篠山紀信先生は皆さんもよくご存知の有名な写真家ですが、王先生とは創作活動を通じて知り合ったそうです」。広島県尾道市の平谷祐宏市長は展示に至った背景を説明する。来場した程永華駐日中国大使は「3人の作家は、長年にわたって異なるスタイルで中国の自然や風土、人情を描き続けてこられることで、中日文化交流の推進に大きく寄与している」と各氏の功績をたたえた。

 

思い出深い共作

平山氏と王氏の交流にはさまざまな「物語」がある。

「平山先生が亡くなる1年前、先生は私を先生の故郷にあるこの美術館に連れて来てくださいました。眼前に広がる山野や村落、小さな漁村の風景は、農村出身の私にとって格別親しみを感じるものでした」。自身の作風とはまた一味違う作品を前に、王氏はこう語る。『魚水情』と名付けられたその作品の題字は、平山氏によるものだった。

 

平山郁夫氏との共作『魚水情』のエピソードを語る王伝峰氏(写真・呉文欽/人民中国)

 2008年、平山氏は北京の中国美術館で個展を開き、作品『法隆寺』を中国政府に寄贈した。これは平山氏が中国で行った最後の展示となり、王氏は付きっきりでサポートした。これをきっかけに、2人は共作という形で『魚水情』を完成させたが、09年に平山氏が亡くなったことで、2氏の共作としては最初で最後の作品となってしまった。「あの日、私は完成した絵を持って平山先生を訪ね、『魚水情』という作品名の由来をお話しました。魚は水から離れては生きられず、水も魚とは切っても切れない関係です。魚と水は深い情誼を表しており、中日両国の密接で深い情を形容しています、と。先生は私の説明を聞くなりすぐに筆を取られました」と王氏は振り返る。

 

『魚水情』を共作した08年、王氏による「魚水情春夏秋冬」の4作品と平山氏の『天壇』『霊峰黄山』『敦煌石窟九層楼』『法隆寺五重塔』が、「日中平和友好条約30周年記念切手」に選ばれた。『魚水情』の4作品は今回も展示され、「同じ画面であっても四角く収まった切手と壁いっぱいの原作では、また違った味わいがありますね」という声が会場で聞かれた。

 

天壇といえば、篠山氏の撮影による『天壇祈年殿』も多くの人々が足を止めていた。この作品は1981年に撮られたもので、その時の様子について篠山氏は「天壇に着いたのは、もうかなり日が西に傾いた時だった。公園の中の道を長く歩いた後、眼前に夕日に赤く染まった祈年殿が、突然現れた。金色や赤の複雑な模様と3層の真ん丸い瑠璃瓦の屋根が赤い日にキラキラ光り、それはいままさに降り立った、どこかの星の宇宙船のように見えた」と作品解説に書いている。篠山氏もまた王氏と芸術で結ばれた盟友であり、王氏が古竹で編まれた籠に生けた花を篠山氏が撮影するという、ジャンルを超えた共作を行っている。

 

正道を行く

会期中、福山市の中川美術館館長で美術評論家の中川健造氏も来場し、絶えず感動の声を上げていた。02年の中日国交正常化30周年の際、郵政省が記念切手発行に向けて日本全国に絵画作品を募った際、中川氏は鄧林作『紫藤花』を推薦し、王氏の『源遠流長』と共に入選している。中川氏は当時を振り返り「鄧林の筆は勢いにあふれていて、『紫藤花』は発展の勢いと気迫にあふれていた当時の中国を私に思い起こさせてくれました。国交正常化を記念するものとして、日本人はこの作品をぜひ見るべきだと思ったのです」と経緯を語る。一方、王氏の作品である『魚水情』についてはまた解釈が異なるようだ。「王伝峰の筆は平和で自由で、構図や色が大胆かつ独特です。水と魚という組み合わせは、彼に人民と国家の関係を連想させたのでしょう。とても思慮深い作品であると思います」と評価する。

中川氏はさらに「孫文先生は神戸での講演で、『覇道』と『王道』について言及しています。今回の展示は、日本と中国が共に平和を創造し、美しく、輝く世界を表現する、まさに『王道』の意義を体現していると感じられました」とたたえた。

 

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