巨大消費けん引する「Z世代」
Z世代――中国では、1995~2009年生まれの世代を指し、インターネットの発展や国内経済の成長の影響を受けたデジタル・ネイティブ世代と言われる。物質的に恵まれ、国内総生産(GDP)の成長と少子化の利点を享受している。
中国のZ世代はすでに3億人近くに達し、その膨大な人口は巨大な消費の可能性を秘めている。ここ数年、Z世代が日増しに新たな消費の主力となるのに伴い、その独特な消費に対する考えも中国の消費市場に影響を与え、多くの新たな消費ブームを生み出している。
「Z世代」は中国の高度経済成長期に育ったことから、前衛的な考えを持ち、新しいもの好きで、国産品を支持するといった消費観を持っている。彼らにすれば、消費は日常生活を満足させる行為だけでなく、個性を追求するやり方でもある。こうした新たな消費観は、より細分化された市場に大きな可能性をもたらし、中国経済に対し活力を引き出す貴重な原動力を注入した。
伝統と革新 国産品トレンド経済
「百鳥朝鳳」(全ての鳥が鳳凰の下に集まる)のデザインを取り入れたメークパレットやミャオ(苗)族の銀細工が施された贈答用の化粧ボックス、伝統的な花の彫刻が入ったリップクリームなど、オリエンタルな美意識によってデザインされた新進「国産ブランド」の中国コスメ「花西子」(フローラシス、Florasis)が登場した。これは、「国産品の誉れ」とたたえられただけでなく、海外市場にも順調に進出。多くの製品が米国や日本で発売されるや、またたく間に売り切れとなった。
「国潮」(国産品のトレンド)とは、中国製品・中国ブランドがけん引役となり、中国の文化と美を表現する最新トレンドのことだ。ここ数年、花西子などオリエンタルな美意識と現代的なファッション性を兼ね備えた多くの国産ブランドが躍進している。そして、中国の伝統文化の魅力を広めるとともに、一大消費ブームを巻き起こした。Z世代こそが、このトレンドを生み出した主力である。
中国のインターネット検索の最大手バイドゥ(百度)によると、「国産品トレンド」への注目度が最も高い層がZ世代であり、全ての年代層の中で74・4%を占める。京東消費・産業発展研究院からこのほど発表された『2022年消費指数報告』では、Z世代の6割以上が国産品を買い物の際の第一候補に挙げており、彼らは中国風を好み、高く評価し、「国産品トレンド経済」の急速な発展をけん引している。
「漢服でも故宮のクリエーティブグッズでも、さらに中国的な要素がたくさん詰まった化粧や衣服でも、ますます多くの中国のZ世代があふれる情熱で伝統文化の伝承と発展に参加しています。この背景には、中国ブランドの台頭だけでなく、文化的な自信の回帰があります」と山東大学で社会学を教える王忠武教授は分析する。また王教授はこう指摘する。「メード・イン・チャイナ」から「クリエート・イン・チャイナ」への転換を見ているZ世代は、より強い民族的な自信を持ち、世界を先入観なく正視する勇気を持っている。また、彼らの新しさへの偏愛と独創性への渇望は、品質と見た目の良さ、使用感を兼ね備える国産トレンド製品に大きな成長の余地を生み出した。
第2回月邪ALIVEアニメフェスティバルでお気に入りのコスプレを披露するアニメファン(昨年10月、広西チワン(壮)族自治区の南寧市で)(vcg)
国産品トレンド経済の推進を受けて、近年多くの新進国産ブランドが爆発的に売れ、販売のダークホースとなった。京東(JD.com)や淘宝(タオバオ)などの大手eコマースサイトでは、花西子や完美日記(パーフェクトダイアリー)など国産の化粧品ブランドの売り上げが、ロレアルやエスティローダーなどの世界的なブランドを上回っている。また国産飲料ブランドの元気森林(Genki Forest)は、「糖類0・カロリー0・脂質0」の健康レシピでコカ・コーラに挑み、国産コーヒーチェーンの瑞幸咖啡(ラッキンコーヒー)も日ごとに成長し続け、スターバックスの中国市場でのシェアを奪い取っている――。
新たなブランドの台頭以外に、現代人の記憶では地味で目立たない老舗ブランドも絶えず革新を続けており、現代的なトレンドと伝統的なオーソドックスがぶつかる中で新天地を切り開いている。
「還暦」を迎えたロングセラーの大白兎ミルクキャンディーは、中国の第一世代国産キャンディーの代表格だ。周恩来総理は1972年、中国を訪れたニクソン米大統領に国を代表する贈り物として大白兎キャンディーを贈った。小さな一粒のミルクキャンディーは、中国の外交上の贈り物になっただけでなく、数世代にわたり人々の最も甘美な思い出をつないでいる。だが、さまざまな輸入キャンディーが次々に中国市場に入って来たのに伴い、大白兎ミルクキャンディーはかつて一時期、人々の視野から消えたことがある。
どん底を味わった大白兎ミルクキャンディーだったが、国産品トレンドの盛り上がりのおかげで、コラボや業界をまたいだ提携などの方法により、若者たちの美的感覚のニーズに合った文化製品を作り続けた。その結果、一躍ここ数年で最も関心を集めた国産の復興ブランドの一つとなった。
大白兎が国産化粧品ブランドの美加浄(MAXAM)と業界を超えたコラボで発売した大白兎リップクリームは、発売開始5秒で売り切れる「秒殺」の人気だった。また、香水ブランドの気味図書館(SCENTLIBRARY)と提携・発売したミルクキャンディーのにおいがする香水やボディー乳液、ハンドクリームは、多くの若い女性たちのドレッサー上に並んでいる。さらに大白兎は、国産アパレルブランドの太平鳥(PEACEBIRD)と組んでレトロファッションを創り出し、ファッションショーのステージにも登場し、若者たちは先を争って口コミを広めている。
「大白兎で体を洗い、大白兎の乳液を塗り、大白兎のTシャツを着て、街に出て大白兎のミルクティーを飲む――私の生活はこのゆるキャラのウサギにすっかりお世話になっている感じです」。「00後」(2000年代生まれの若者)の女性・王詩佳さんはそう言って笑った。
オーソドックスを守りつつブレイクスルーを図る――新たな国産品トレンドとなった老舗ブランドは、「新旧」のバランスの中で青春の輝きを取り戻した。
「自己投資」の見た目経済
「素敵な商品をモーメンツ(投稿をシェアするウイーチャットの機能)や小紅書(RED、SNS型eコマースアプリ)にアップすると、多くの『イイね』をもらって、とても達成感を覚えました」。重慶出身の「95後」(1995〜99年生まれ)の女性・黄麗玲さんは、買い物では「見た目の良い物が好き」であるとはっきり述べた。「精巧なデザインや面白いパッケージ、カッコ良いスタイルは物を買うときの一番の動機です。両親は時々、カッコ良いだけで何の役に立つのかと聞いてきますが、私はとても役に立つと思います。だって、買ったときにとても幸せな気持ちになるし、素晴らしい商品は生活により多くのセレモニー感を与えてくれます」
昔は、使うために商品を買った。多くの人が、購入を決める際に費用対効果をキーポイントとした。現在、インターネット時代に生まれたZ世代の多くの消費行動は、「見せびらかし」としっかりつながっている。ミルクティーから新しいシューズまで、そして盲盒(ブラインドボックス)のフィギュアからネットの人気店まで、ますます多くの消費がSNSでタグ付けされ、商品の「見た目偏差値」がますます大きな役割を果たし始めている。
「私たちの店のお客様の7割以上がZ世代ですが、70後や80後(1970年代や80年代生まれ)の消費者の型通りな感じと比べ、彼らの消費は明らかに個性的です」。ローソン寧波鼓楼店の胡慧林店長はそう話し、「飲み物を買うとき、若い人たちは一度に何種類も買って、それをミックスして『マイ飲料』を作ります。店内のイートインコーナーはいつも若者でいっぱいで、写真を撮ってはモーメンツにおすすめ品をアップしています」と紹介した。
中国都市経済専門家委員会の宋丁副主任は、Z世代の消費は、すでにモノの消費から精神的な「自己満足」の消費に転換したと見ている。「多くの若者が求めているのは、商品の実用性ではなく、自分の美的センスや生活スタイル、さらに価値観を表すことができる商品です。最近、人気爆発のブラインドボックスやフィギュア、クリエーティブなアイスクリームなどは皆そうです。大して役に立ちそうにありませんが、暮らしに彩りを添えてくれるのです。Z世代は単に生きるだけでなく、良い生活をしたいのです」
商品の「見た目偏差値」以外に、Z世代は、さらに自身の「見た目偏差値」への投資も惜しまない。そして、「見た目偏差値経済」が生み出す消費の波の中で、スキンケアや整髪・美容、化粧品などの商品は、とっくに女性だけのものではなくなり、ますます多くの男性が「見た目偏差値」消費の列に加わっている。
「化粧水や乳液が何かさえ知らない男」が「洗練されたメンズ」に変身――化粧品市場での男性消費者の重要性はますます顕著になってきている。さらにZ世代の個性的な消費ニーズが解き放たれたことで、「イケメン経済」はブームを迎え、百億元規模の市場をこじ開けた。
展望産業研究院によると、中国人男性の美容市場での売上高の上昇率は、2016~20年で年平均13・5%に上り、全世界の同5・8%をはるかに上回っている。また、21~26年の中国人男性のスキンケア市場の予想成長率は年平均15・88%に達し、26年の市場規模は207億元に上ると予想されている。
ライブ配信やeコマースの急速な台頭は、メンズコスメの消費にさらに大きな利便性をもたらしている。スマートフォンを起動しサイトをタップすれば、商品の特徴がすぐ分かるだけでなく、購入した人の「評価」も見ることができる。おかげで、時間がない多くの人や出歩くのが好きではない「引きこもり」男性でも、ソファーに寝そべったままでお気に入りのスキンケアやメークアップ商品を買うことができる。
「年配の方は、男性のスキンケアや日常生活での化粧は『男らしくない』と思われるかもしれませんが、私たち若者はそうは思いません。良いイメージは自分により自信を与えてくれるし、他人に対するリスペクトでもあります」。長春の「90後」の男性・白玉さんにすれば、「顔」に金をかけるのは、自分や他人を喜ばせるだけでなく、「内と外の両面を整える」ことと、洗練された生活に対する積極的な追求でもある。
巨大市場を創出 睡眠経済
『2022中国国民健康睡眠白書』によると、19~25歳の若者の44%は常に深夜零時過ぎまで夜更かしをしており、「寝付けない」「よく眠れない」は若者共通の悩みになってきている。こうした若者の睡眠に対する悩みは「睡眠経済」の急速な台頭を促し、そこに秘められたビジネスチャンスは、さらに1000億元規模の市場を生み出している。
若者にすれば、牛乳を飲み足浴をするというのは、いささか古い安眠サポート法で、今は睡眠を改善する「ブラックテクノロジー」(先端技術)がブームになりつつある。
枕元に睡眠を改善するアロマを置いたり、睡眠サポートに効果があるといわれるホワイトノイズの機械を使ったり、新たに買った快眠用ベッドマットレスで寝たり、睡眠の質を測るスマートウオッチを付けたり――「北漂(北京に来て奮闘している地方出身者)」の陳睿楠さん(25)は、いろいろ試して自分だけのスマート睡眠環境を作り出した。「新型コロナウイルス感染症の発生以来、家で過ごす時間が長くなったことで、私も寝室により多く気を使うようになりました」と言う。
「睡眠業界では、『若者を制する者は天下を制す』のはとっくに知られていますが、Z世代は好みにこだわり、ありきたりの従来品では彼らを引き付けることはできません。彼らの好みとニーズを満足させるには、睡眠企業はスマート化、個性化、デザイン性の方向を目指し、革新的に発展しなければなりません」。慕思健康睡眠社の姚吉慶副会長はそう語り、若者は広大な市場をつくり出す一方で、市場の自己革新を迫っていると見ている。
「『商品の若返り』は業界ではホットな話題です。若い年齢層をフォローするのが正しい戦い方だと総じて考えられています」と家具メーカーSINOMAX賽諾の覃文介副社長は話し、さらにこう紹介した。「若者は見た目の偏差値が高いものを気に入るので、われわれはデザイン面で外観のIP(知的財産)化を進め、より大胆なスタイリングの製品を送り出しています。例えばB・DUCKと共同で小さな黄色いアヒルの枕を発売したり、サンリオ傘下のハローキティと組んで安眠をサポートする商品シリーズなどを開発したりしています。若い人は商品により多様な機能を求めており、これはブランドに対しても一歩先を考えるよう促しています。例えば当社が発売したスマートベッドマットレスは、硬さや角度の調節以外に、バイタルデータ(生体情報)を自動的に検出して睡眠ソリューションを提供し、エアコンと連動して温度曲線を調節するなどの機能を兼ね備えています」
アロマ、アイマスク、ムードランプなどの睡眠サポート商品も同様に、巨大なビジネスチャンスを迎えると同時に、若者たちからの「難題」にも直面している。「若い消費者は好みに『こだわり』があり、商品の外観に美的価値があり、寝室に置いたときに芸術的な装飾効果があることを求めています。香りにも独特のムード感を求め、たとえ最も一般的な『ラベンダーの香り』でもさまざまな違いを感じさせ、さらには『物語』を感じるような香りを望んでいるのです」と、アロマブランド関係者の林さんは率直に語る。「睡眠サポートは人々の『寝そべり』を助ける市場ですが、誰も『寝そべって(楽に市場で)勝つ』ことはできません。企業は絶えず革新を行い、特色を打ち出さなければ消費者を引き留めることはできません」
小さな良品求めるニッチ経済
Z世代グループはまた、シェアや口コミ宣伝を重視するSNSの特性をベースに、セグメント(細分化)文化も生んでいる。これは、ある決まったカテゴリーに同じような愛好者が集まり、サークルを形成することだ。例えばeスポーツや漢服、ゲーム、スポーツなどで感想を交換し、友情を育てる。
それぞれのセグメント間には「壁」があり、セグメント内では部外者には分からない「隠語」がある。だが、同じZ世代の若者はいくつも「掛け持ち」をする。ゲームの達人が漢服愛好者であったり、トップアスリートがアートトイ(フィギュア)通であったりする。いずれのセグメントも「ニッチ」なのかもしれないが、Z世代は膨大な人口層のおかげで、ニッチな趣味でも侮れない規模の消費者を蓄積しており、一部の人気セグメントは消費トレンドをけん引するほどだ。
データによると、2015~20年における中国の漢服市場での売上高の規模は、1億9000万元から63億6000万元に激増した。また昨年は100億元を突破し、さらに成長する可能性がある。ブラインドボックスとファッションシューズ、eスポーツ、写真撮影、コスプレは、Z世代が最も金をつぎ込む5大趣味だ。このうち、トップのブラインドボックスは昨年、100億元超の市場規模を創出した。eコマース大手の天猫国際(TmallGLOBAL)が発表した『95後ゲームマニア散財ランキング』によると、毎年20万人の消費者がブラインドボックスに2万元以上を使っており、中には1年で100万元を費やす者もいる。
ニッチなセグメントのトレンドはブランド企業を供給側に導き、「小さな良品」の方向に発展させている。ANTWOORDは浙江省の省都・杭州にあるストリートカルチャー専門のファッションブランドだ。オーナーの汪皣さんは、こうした動向が良く分かっている。「アパレル産業で空母級の巨大ブランドはますます減っています。もう今では、全ての消費者に喜ばれる大きくて何でもそろう『ワンセット』主義的なブランドが出て来るのは難しいでしょう。今後は、個性的でニッチなブランドがどんどん増え、無数の小ブランドが多様化した消費市場を形作っていくでしょう」
Z世代の消費力は、中国の消費市場が最もダイナミックで最も多様性に富んだ側面を持つことを表しており、中国経済の大きな可能性と力強い原動力を示している。Z世代の促進により、便利さや迅速さの追求を至上とする「ものぐさ経済」や、資産の循環共有を尊ぶ「遊休経済」、オーディオの楽しさを特に好む「耳経済」など、さまざまな新たな消費トレンドが時流に乗って生まれ、絶えず拡大している。時間の経過に伴い、ユニークな消費観を持つZ世代は、中国社会にさらに多くの驚きと喜びをもたらすと信じられている。