山東省嘉祥県 石像に刻まれた文明史
石を使った彫刻、すなわち「石刻」は石材を原料とする伝統工芸技巧であり、中国において悠久の歴史を誇っている。山東省嘉祥県は「石刻のふるさと」と称される地の一つであり、1996年には農業農村部によって「中国石刻の里」と命名され、その起源をこの地に求めることができる。
嘉祥県には、中国で最も古い獅子の石像が現存している。
嘉祥県の武氏祠に鎮座する獅子の石像
武氏祠の中には、一対の大きな獅子の石像が鎮座している。これは、中国で最も古く、確かな制作年代が記された貴重な石刻の獅子像であり、その元祖と言うべきものだ。獅子はもともと中国に生息する動物ではなく、漢代の武帝の時代に西域を通じ、中国に入ってきた。この獅子像は1000年から2000年前、中国と世界との間で文化交流が行われていた証しであり、重要な歴史的・芸術的価値を持っている。
ここは1800年以上にわたって石刻職人の精神が受け継がれてきた地でもある。
今まさに精神を集中させて絵を描いているのは、職人の杜運偉氏だ。その筆使いでまたたく間に、まるで魂を持っているかのように生き生きとした麒麟(中国神話に現れる伝説上の動物)が紙の上に現れる。杜氏は嘉祥県の石刻工芸の重要な伝承者であり、「山東省の石刻達人」と称される。山あいの村で生まれ育った農民芸術家である杜氏は、7歳の頃から祖父に石刻を学び始め、生まれ持った感性と不屈の精神により、14歳の時には二人の兄と共に嘉祥県の象徴である麒麟の石像をつくり上げ、一挙に名を上げた。現在、50歳となった杜氏は石刻工芸になおも専念し、匠の心を伝承している。
彫刻刀を使って石を彫る職人
技術の進歩に伴い、石刻工芸は今日ますます進歩を続けており、機械を使うことで石像創作の効率が高まり、制作面での規格化も進んでいる。時代に合った石刻工芸の進歩を保つため、杜氏は工芸品に求められる美しさや実用性など人々のさまざまなニーズに注目し、デザイン上の理念にもっぱら心を注いでいる。杜氏は石刻技巧について、今日では一部の作業は機械でも代替可能だが、創意やデザインは人間のインスピレーションから生じるものであり、それこそが核心となる競争力だと考えている。杜氏は他の国・地域の実際の状況や美意識、好みに基づき、デザインおよびオーダーメードを行っており、伝承だけでなく革新の精神を持ち、国際化という発展の道を切り開き、石刻工芸がよりしっかりと受け継がれていくようにしている。
石を彫って作られた孔子像
2008年、石刻芸術は国家級無形文化遺産に登録された。石刻の重要な伝承地の一つである嘉祥県は石刻技術を次の世代に伝えていくと同時に、原材料となる石の採掘ルールも定め、環境生態保護を貫き通している。近年、嘉祥県は生態保護を優先する理念とグリーン発展を堅持し、美しい生態環境と産業の発展が調和した発展の道を歩み出している。古来より伝わる技巧は新時代において新たな生命力を得て、その輝きを放っている。