100日目を迎えた万博
陳言=文
高校生の倪丹君は、8月7日夜10時、万博会場六号門の外に立った。ここで一晩明かし、あすの朝一番で園内に入ろうというのである。
彼一人だけではない。周りには同じ高校をこの6月に卒業したばかりの友人たちが何人もいる。「あすは、上海万博が百日目を迎える。僕たちはこの記念の日に第1号の入場者になり、自分の人生にひとつの記録を残しておきたいんです」と、倪君は力強く語った。
会期6ヵ月間の上海万博は、8月8日、100日目を迎え、入場者数は3800万人を超え、一日平均38万人の目標を達成した。こんなに長期間、大人数が参加するイベントは中国では初めてだし、まだ途中ではあるが、主催者側には成功裏に閉幕まで持っていく自信がついてきたに違いない。
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待ち行列に並ぶ人々のために曲技を演じる浙江省湖州市の民間芸人(東方IC) |
アイデア競う各パビリオン
「世界がこの5.28平方キロメートルのエリアに集中している」と、博覧会国際事務局のロセルタレス事務局長は言う。
ここでは多くの国と国際機構、それに企業がさまざまなアイデアを出して、来場者を迎えている。一日に一つのナショナルデー・イベントが開かれ、あるいは国際機構のスペシャル・デーが催されている。
ドイツ館に入館するまでには相当待つ必要がある。いったん列から出てまた戻ると、割り込み者にされかねない。そこでドイツ館は、「トイレ券」を作り、列から出る人は、時刻を記したその券をもらってトイレに行く。30分以内なら列に戻ってもいいが、30分を超えると、「どうぞ、列の最後尾へ」と言われるそうである。
ハングルでパビリオンの外壁を飾った韓国館は、ミネラル・ウォーターを配る。摂氏38度以上の炎天下では、どうしても喉がかわく。配られるミネラル・ウォーターは干天の慈雨も同然で、列に並ぶ人々に喜ばれている。
とにかく待ち時間が長いのだ。「サウジアラビア館は五時間」「ドイツ館は3時間」などと、会場内のアナウンスを聞くだけでも、私などは気が遠くなってしまう。前も後ろも人ばかり、入り口までの道は長く遠く、その退屈さに多くの人々がうんざりしているはずだ。
ところが、人気パビリオンの外で待つ時間には、意外と楽しいこともあるのを発見した。列に並んでいる人々のために、主催者側が出し物を工夫して、しばらくのあいだ楽しんでもらおうとの趣向だ。
ドイツ館では、サーカス団の「ロボット」君たちが、館内から出て来て出し物を演じる。観客の笑いと拍手があれば、アンコールにも応じる。オーストラリア館からは「ミスター・カンガルー」が、手を振ったり、ジャンプして失敗したりして観客の笑いを誘う。またカナダ館では、ピエロが大活躍だ。長い待ち時間をどうしたら楽しい時間にしてもらえるか、各館がアイデアをしぼり、知恵を競い合っている。
ボランティアたちも即興のダンスしたりして、会場に躍動感を作り出し、楽しい万博のイメージを作っているのだ。
流行りの言葉で表した世相
普段は何でもない言葉も、万博会場内では特別の意味合いをもって耳に響く。
「行列する」(排隊)は、今日の中国では、もう死語に近い言葉だが、万博会場内ではあっちからもこっちからも聞こえてくる。かつて中国では何を買うにも、「行列する」必要があったが、今では特別のイベントででもない限り、日常生活の中に行列などすることはない。
「予約」は、情報技術が発達しないとできない。今は、万博に行く飛行機や列車を予約するだけでなく、万博入場券もさらにはパビリオンの見学時間にも予約したほうが時間の節約になる。予約はまた実際に出かけてみることを前提にしているので、中国にもやっと市民レベルでスケジュール管理をする習慣が定着したと言えよう。
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陳言 コラムニスト、『中国新聞週刊』主筆。1960年に生まれ、1982年に南京大学卒。中日経済関係についての記事、著書が多数。 |
40年前には、バッジ一つ付けていることは、忠誠心、革命心の象徴であったが、ここ30年来、バッジを付けている人はほとんど見かけなくなった。そのバッジが会場では人気のアイテムになっている。ボランティアたちは、活動する月によってバッジの種類が違う。胸に付けているバッジによってどれほど長期間活動しているかが分かる。付けているバッジの種類が多いことはボランティアにとっては誇りでもある。
愛称の「小白菜」も人々の耳になじんできた。ボランティアは、白と緑のユニホームを着ている。それが「白菜」の色のようなので「小白菜」と呼ばれるようになったのだが、地に足の着いたボランティア活動は、中国社会にきっと新しい倫理観をはぐくむことだろう。
スーパー・ジュニア(Super Junior)の健闘も特筆に価しよう。韓国のアイドルグループであるが、テレビで見るのとは違って、本人たちは万博の観客の前で踊り歌った。予想をはるかに超える大勢のファンが怒涛のように万博会場に集まった。サブカルチャーは、こんなにも力があるのかと、主催者側をさぞかしびっかりしたことだろう。
百里を行く者は、九十里をもって半ばとする。残り百日もないが、行列する人々への新しいサービスや社会の変化を表す新しい流行語は、まだまだこれからたくさん出て来るように思われる。
人民中国インターネット版