野球を学ぶために強豪校・駒大苫小牧へ 

中国といえば言わずと知れたスポーツ大国。卓球、水泳、バドミントン、バレーボールなど競技人口・実力ともに世界トップの種目を多数有する一方、野球はこれまで比較的マイナーなスポーツとされてきた。ところが近年、その風潮に変化が起きている。国内のプロ野球リーグが２０１９年に復活し、以前に比べて野球場も整備されてきたほか、とりわけ子ども向けの野球教室が増えている。そして、その中からプロ選手、さらには中国代表選手を目指し、白球に青春をかける若者が生まれている。現在、日本の野球強豪校・駒澤大学附属苫小牧高等学校（以下、駒大苫小牧）に留学中で、このたび中国の国家女子野球集中練習チームのメンバーに選ばれた崔涵端さんもその一人である。 

「今の私にとって野球は自分の全てです。私が野球を大好きなのは、喜びを与えてくれるからです。野球ではたくさんのエラーや失敗がありますし、優勝できるのは一つのチームだけです。そういう厳しいスポーツだからこそ、私たちは挫折の中で成長し、自分をより高められるのだと思います」 

そのように野球への思いを語る崔さんは若干17歳という若さだが、とても礼儀正しくしっかりとした考えを持っていて、何よりも自分の夢を迷いなく追い求める姿が印象的な女子球児だ。グラウンドではひたむきに練習に打ち込み、監督やコーチから時折飛んでくる厳しい指導にもはきはきと元気よく答える。そして、ストイックに野球に向き合いながら、天性の明るさとポジティブさを発揮して、厳しい練習の中でも楽しむことを忘れない。崔さんは国家女子野球集中練習チームの中では最年少のグループに属するが、まさに今後の成長が楽しみな期待の星と言っていい。 

崔さんが野球というスポーツを知ったのは、６年前のこと。 

「２０１８年に中国のテレビドラマ『我們的少年時代』と日本の人気アニメ『ダイヤのＡ』を見て、野球のユニフォームがかっこいいと思ったのがきっかけです。その当時、遼寧省瀋陽市の学校に通っていましたが、父の仕事の都合で雲南省昆明市に引っ越すことになり、私は嫌だったので、『転校するなら、行った先で野球チームに入りたい』とお願いしたんです。すると、やりたいことをしなさいと言って応援してくれました」 

雲南省で野球クラブに入った後、崔さんは初めて野球をプレイする面白さに触れた。野球の基本的な知識やルール、チームワーク、礼儀などをチームメイトのみんなと楽しみながら学ぶ中で、やがて本格的に野球を学ぶ道を歩み始めた。 

「中学２年生の時に将来の計画をちゃんと立てないとと思い、野球が大好きだったので、日本に留学しようと決めました。野球が広く普及している日本には、整った練習環境がありますし、女子野球の日本代表は世界大会で連覇しています。そこで、より深く野球の技術を学ぶために、駒大苫小牧に留学することにしました。当時は新型コロナウイルス感染症の影響で体験入学をする機会はありませんでしたが、国内のコーチが日本チームの練習や試合のビデオを見つけてきてくれて、その時に駒大苫小牧はチームの雰囲気がとても良くプロフェッショナルだと感じたのと、以前、田中将大選手のインタビューも見たことがあったので印象に残っていたんです」 

友達のように何でも話せる関係の両親 

生まれて初めてふるさとを遠く離れて日本に渡った崔さんは、当初は練習方法の違いや言葉の壁などの問題から、なかなかチームに溶け込めないと感じていた。だが、仲の良い友人や面倒見のいい先輩たち、監督やコーチとの出会いもあり、チームや学校生活に馴染んできたという。それに加え、何よりも崔さんの支えとなっているのは、両親の存在だ。 

「父も母も全力で私のことを応援してくれていて、両親とはまるで友達のような関係です。特に、父とは隠し事なく何でも話せるので、落ち込んでいる時や悲しい時はいつも父に連絡をして話をします。すると、父は私にたくさんの目標やアイデアをくれるんです」 

両親、チームメイト、コーチなど、さまざまな人々の期待を背に、野球に打ち込む崔さんの前には無限の可能性が広がっている。では、彼女が目指すものとは何なのだろうか？ 

「まず、大学に進学して野球部やクラブチームに入り、自分の技術を磨き続けたいです。それから勉強の面では、両親が医学を学んでいた影響で小さい頃から医学に興味があるので、スポーツ医療を学びたいと思っています。 医学や科学の勉強をすることで、選手としてのキャリアにもプラスになりますし、もし選手になれなかったとしても、スポーツドクターの仕事に就くことで、野球の夢を追い続けることができます。でも、選手としての私の一番の目標は、オリンピックの野球種目で中国代表チームの選手として日本チームと決勝で対戦することです」 

２０２８年開催のロサンゼルスオリンピックでは、男子野球が追加競技として復帰することが決まっている。女子野球の五輪種目採用は未定だが、今後女子野球ワールドカップやアジアカップで崔さんが中国代表選手としてグラウンドに立つことは、遠い夢どころかかなり現実的な未来であるように筆者には思える。 

過去を振り返れば明らかなように、スポーツは中日友好の重要な懸け橋であり、崔さんは新時代におけるその担い手の一人だ。14億の人口を擁し、スポーツ熱が非常に高い中国の女子野球は、崔さんの未来同様、大きなポテンシャルを秘めている。今後、中国での野球の普及を通じ、両国のスポーツ交流がいっそう盛んになることに期待したい。