知る人ぞ知る桃源郷
雲南省徳宏ダイ(傣)族ジンポー(景頗)族自治州と聞いて、「ああ、中国とミャンマーの国境辺りね」と即答できる方は、かなりの辺境マニアと言っていい。筆者の友人には旅好き、特に陸路の国境越えにロマンを見いだすバックパッカーが多いのだが、それらの人々にとってこの地は生涯一度は訪れたい場所の一つに違いない。
自分もまた、いつかは徳宏に行ってみたいと願っていた一人だったが、その念願を今年ついに果たすことができた。しかも、現地の伝統的な祝祭である水かけ祭りの真っ最中にである。そして、気付いた。徳宏は確かに地理的には中国西南部の果てに位置するが、この地を表す言葉としては、辺境よりも秘境、いや桃源郷がふさわしい。
空港から出た瞬間に感じるのは、マイナスイオンあふれる亜熱帯のすがすがしい空気。街を歩けばフルーツの木が街路樹代わりで、何を食べても大都市のスーパーで売っているものとは段違いの鮮度。ダイ族、ジンポー族、漢族、ドアン(徳昂)族などさまざまな人々が共に暮らす中で育まれてきた開放と包摂の文化。国境地帯ならではの国際色豊かな市場のにぎわい。目に映る全てが自分にとっては目新しく、あまりにも魅力的。この感動を一人でも多くの同胞に伝えねばという使命に燃えて、今この原稿を書いている。
今回筆者が訪れたのは徳宏ダイ族ジンポー族自治州の中心地である芒市、そしてミャンマーとの陸路貿易で栄える国境の町・瑞麗である。そのどちらにも共通して言えるのは、自然、産物、人情、伝統文化など、あらゆるものが豊かな土地柄ということだ。
徳宏は亜熱帯に位置し、冬季を除いて一年中高温多湿だが、そこそこ標高があるため暑すぎず心地よい。自然の素晴らしさは言うまでもなく、山に入ればそこは野生動物の楽園。徳宏では手付かずの生態環境が守られており、それに親しむだけでも同地を訪れる価値がある。
このような気候はコーヒー栽培に最適で、瑞麗は中国におけるコーヒー品種の研究・栽培基地となっている。また、稲作も盛んに行われていて、とりわけダイ族の食文化にはもち米を使ったさまざまな伝統的グルメがある。毎年水かけ祭りの時期に村々の女性が総出で作る「溌水粑粑」というバナナの皮で包んで蒸したお餅は、一度食べるとクセになるまろやかな味わいだ。さらに、ダイ族の村を訪れた際におすそわけしてもらったダイ族式の納豆にも驚かされた。日本の納豆と違ってこちらのものは発酵後に香辛料などを練り込んでペースト状にするため、パッと見は何だか分からないのだが、匂いをかいでみると紛れもなく納豆。これを調味料に使ったチャーハンを食べているときには、その味わいに思わず日本を思い出してしまったほどである。
グルメと言えば、ミャンマーから輸入されてきた新鮮なインド洋の海鮮が味わえることも衝撃だった。ミャンマーについてはニュースで政情不安が伝えられているが、中緬の陸路貿易は想像以上に盛んで、人的往来も行われている。これも現地に行かなければ気付けなかったことの一つだろう。特に中国の人々が愛してやまない翡翠は、ミャンマー産の原石がどしどし入ってくる。瑞麗はその加工・販売の一大拠点で、近年は多くの翡翠業者がライブコマースを活用し、各地の顧客を相手に熱い商談を日夜交わしている。徳宏の翡翠産業は新たな情報技術によって、リアルタイムで中国全土とつながっているのである。
熱狂の水かけ祭り
そして何よりも徳宏に豊かさをもたらしているのは文化観光産業だ。エコツーリズムや各民族の伝統文化に触れる旅など、この地には観光資源が満ちあふれており、その最たるものが毎年4月中頃に行われる水かけ祭りである。ダイ族の人々は水を神聖なものと見なし、水かけ祭りの期間には互いの幸福を願って水をかけ合い、心身を清らかにする。この時期に徳宏を訪れるなら、ずぶ濡れになっても大丈夫なようにスマホなどを保護する準備が必要だ。何しろ、街を歩いているとあちこちから水鉄砲やバケツで水を大量にかけられる。さらに水かけ祭りのメイン会場を訪れようものなら、そこはウォーターパークさながらで、電動式水鉄砲でフル装備の人がごまんとおり、何なら放水車まで待ち構えている。そこで音楽のリズムに合わせながら、色鮮やかな伝統衣装を身にまとったダイ族、ジンポー族、ドアン族の人々、漢族や外地から来た観光客、さらにミャンマーの人々まで、みんなが一体となって踊り、水をかけ合う。年に一度の祝祭を共に迎え、心から楽しむ。ダイ族伝統のお祭りは、今や中国の各民族の団結と融合を象徴する祝祭となっているのである。
市中では激しい水のかけ合いが行われる一方、農村部に行くと昔ながらの水かけ祭りの趣が残っている。村民たちは「賞建花」「吉祥花」と呼ばれる稲穂のような植物を水に浸し、それを使って互いに優しく水をかけ合う。このように、徳宏の水かけ祭りは時代に合わせて変化と革新を遂げている部分もあれば、古き良き伝統がそのまま伝わっている部分もある。老若男女誰もが参加し、民族の違いに関係なくみんなが一つになれる。そこに自分は大きな魅力を感じるのである。
筆者自身、中国国内のさまざまな場所を訪れたが、徳宏の面白さは格別だ。旅行をするなら一番のオススメは来年の4月。だが、そこまで待つことなく、ぜひ一人でも多くの日本人の方に現地への旅行をご一考いただきたいと願ってやまない。 (植野友和=文・写真)
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