古寺巡礼③ ―― 広化寺、広済寺他

2023-11-03 17:43:00

馬場公彦=文写真

京市内には寺にちなんだ地名が多い。地名を頼りに尋ねていくと、もはや寺院は跡形なく、わが大学の近所にある法華寺路のように、地名だけむなしく残る場合も多い。むろん、今も霊験あらたかの評判通りに参詣客と線香の煙が絶えない仏閣も多い。とりわけ若者に人気なのはチベット仏教の雍和宮で、熱心に祈りをささげ願掛けをしている。春節ににぎわうのは道教の白雲観。香を焚き、縁起飾り用の「福」字の墨書を求めて参詣客がひしめき合う。隣り合って建つ孔子廟と国子監もまた参詣客は多い。こちらは受験の願掛けに霊験あらたかなのは、菅原道真公を祭ったわが天満宮と同様の御利益を期待してのことだろう。 

なかには焼失や衰退によって規模を縮小し、寺廟の一部の建築物のみを残す、阜成門大街の妙応寺の白塔、海淀区の昆玉河沿いに立つ慈寿寺の玲瓏塔、あるいは海淀区北三環路沿いにある大鐘寺のように、体裁は寺院だが、古鐘博物館としてもっぱら大型の鐘のみを収蔵展示しているところもある。 

紫竹院公園のあたりには、明代に創建された真覚寺の五塔も美しく、石刻芸術博物館を兼ねて、石碑や石像を集めて展示している。去年の私の誕生日の9月17日、紫竹院公園の西隣の万寿寺が修復再公開された。明の万暦帝の時に創建され、清の西太后は頤和園から昆玉河を船に乗って、ここで下船して寺に参詣したという。芸術博物館を兼ねており、書画刺しゅう磁器家具など、展示が多彩で解説も行き届いている。ここでのお気に入りはミュージアムショップ。オリジナル商品のセンスがよく、茶器セットは贈答用としても喜ばれるし、パーカーやポロシャツは大学の授業でも着用し、学生や同僚の評判がいい。 

かつての内城の西半分を含む西城区は、四合院建築や胡同など古都の街並みをよく保存しており、古寺は多い。2月の春節に訪れた、西城区の天寧寺は、北京で創建された年代が最も古い寺院で、北魏の孝文帝の時のもの。遼代の基台を残す寺院内の塔は壮麗で、8面にうがたれた浮彫が美しい。隣接して巨大な敷地の旧ボイラー工場があり、今は産業遺産として保存され、巨大煙突と共に晴天に鮮やかに屹立していた。 

6月の猛暑のさなか、愛用電動車に跨って、自宅から最も近距離で一筆書きでめぐる道順を考案し、広化寺―広済寺―法源寺のプチ遍路に出掛けた。日曜日ということもあって、早朝にもかかわらず、いずれの境内も善男善女でひしめき合い、焚香の煙でむせ返っていた。僧侶の読経に合わせて合掌しつつ拝跪と起立を繰り返す者、法話を熱心に聴講する者、樹陰の石段に腰かけて一心に念経する者、吉祥や往生の牌位を寄進する者、僧侶に従って放生用の川魚やスッポンが入ったたらいの周りを読経しながら巡る者、仏殿の前で長い列をつくって線香をささげ持ち合掌しつつ無言で上香と跪拝の順番を待つ者など、敬虔な信徒たちの真剣な眼差しに心を打たれた。 

広済寺の付近に立つ、元代に創建され、明民国時代に修築された万松老人塔に立ち寄った。耶律楚材が師と仰いだ万松行秀禅師の寂滅を祈念して建てられた高さ16の八角九層の密檐式磚塔。狭い院内には、塔に隣接し北京で最も古いと言われる磚塔胡同はじめ、四合院入口にかつて掛けられていた漆の剥げた扉が並べられていた。院内には正陽書局が店を構え、全て北京関係の図書ばかりが配架され、「老北京」垂ぜんの場所だ。私も5種類の市街古地図を買った。 

西城区のこれらの寺は、いずれも僧侶たちが専従者としてそこで生活し修行をし、参拝客たちとの仏縁を結んでいる。広化寺は北京仏教文化研究所が設けられ、市内の仏教文化の調査研究著述僧侶の養成を手掛けている。さらに広済寺は中国仏教協会、法源寺は中国仏学院が併設されている。日本のいわゆる檀家を対象とし布施で維持されている葬式仏教や、京都や奈良の観光寺院とは違う。活きた寺院としての面目が保たれている。 

広化寺にて早朝の参詣客たち

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