大工場のビフォー&アフター
馬場公彦=文・写真
40度を超すほどの猛暑に見舞われた北京も、朝晩には爽快な涼風が吹く9月に入り、虫のすだく声を聞きながら夜長の読書を楽しむ時節となった。そのような折、北京で文化の秋を満喫する二つのイベントに参加した。
一つは中国商務部と北京市が主催する中国国際サービス貿易交易会。首都鉄鋼工場跡地(首鋼パーク)の6600平方㍍に及ぶした巨大ホールに金融・教育・スポーツ・保険・観光など多分野の3D、ロボット、AI(人工知能)、デジタル技術を駆使した最新のサービス事業が実演展示されていた。
もう一つは中国共産党中央宣伝部と北京市が主催し北京飯店で開催された北京文化フォーラム。世界各国からユネスコ(国際連合教育科学文化機関)や大学・研究機関の著名な文化人・学者を招いてメインフォーラムと五つの分科会が行われた。中華文明の復興と文化産業の振興を目指して、中国の優れた文化を保護し伝承し海外に輸出するという目的で開かれた。本稿執筆現在(2023年)57もの世界遺産を擁する中国だ。「文化強国」建設に向けての自信と意気込みがうかがえる。
「文化遺産の保護と伝承の全面的レベルアップ」の分科会では、氏(故宮博物院元院長、中国文物学会会長)は、博物館の建設においては文化財の保護・展示・教育活動・国際協力が欠かせないこと、趙声良氏(敦煌研究院党委員会書記)は、実物さながらの臨場感を伝えるために最新のデジタル・ネット技術を活用することで文物保護にもつながること、劉魁立氏(中国民俗学会名誉会長)は、無形文化財は、豊かな情感を損なわないために、その芸能や工芸が生まれ育まれた環境に戻し、コミュニティーの中で保護・伝承していくこと、を強調していた。そこには貴重で優れた文化財に対する敬意と、それを最善の形で復元し発展させていくための技術が要求される。
文化フォーラムの1日目は粋なはからいで、通州にて京杭大運河の遊覧クルーズを楽しんだ。昨年6月、北京–河北区間62㌔が航行可能となった。両岸は歴史・文化施設や、生態公園が設けられ、美しい景観を満喫できる。漕運埠頭で下船するとそこは広大な都市緑心森林公園で、生態保護区として自然が保たれ、運河故道が張り巡らされていた。北京芸術センター(一部開館)、運河博物館、城市図書館が建設中だ。1978年に建設が始まり、84年に日本から導入したアクリル酸プラントが操業を開始し2012年に生産を停止した東方化学工場の跡地をアトリエやスポーツ施設として再利用している。
その後は首鋼パークに移動し、文芸の夕べを見学した。歌舞や楽器演奏の演目が続き、2022年北京冬季五輪のスキージャンプ台全面をスクリーンにした迫力ある映像、レーザービームやドローンによるライトショーなどの演出により、会場は大いに盛り上がった。
首都鉄鋼といい、東方化工といい、首都北京のもう一つの文化資源は近代産業遺産だ。朝陽区大山子の華北無線電器材連合工場跡地の798芸術区はすでに観光地として有名だが、それ以外に798に隣接した北京正東電子動力集団工場跡地の751Dパーク、西城区天寧寺に隣接した北京第2ボイラー工場跡の天寧1号文化科学技術イノベーションパークなどもある。
いずれも首都に大型製造業を集中させた改革開放初期から、情報化時代を迎えて、かつての生産拠点がその役目を終えたり郊外に移転するなどして、生態環境や地域住民の暮らしのアメニティーのテーマパークへと変わっている。現代のビフォー&アフターが体感できる場所で、北京ではその端境期が2008年の北京夏季オリンピックの頃だったように思う。
北京の文化施設を訪れると中国のソフトパワーとスマートパワーが融合した文化力を実感できる。
9月14日、首鋼パークで開かれた「2023北京文化フォーラム文芸の夕べ」