蜜煎(砂糖漬け)

2024-04-17 16:40:00

蜜煎(砂糖漬け)とは、梅や桃、アンズ、スモモ、ナツメ、ミカン、トウガン、ショウガなどの果物や野菜を、砂糖や蜂蜜、塩などで漬け込んだお菓子の一種である。蜜煎の「煎」は、もともと新鮮な果物を蜂蜜の中に漬け、煎じ詰めて濃縮することを指す。こうして水分を飛ばして風味を高め、日持ちするようにしたものだ。 

中国では東西南北を問わず、蜜煎は各地の家庭で日常的に食べられているお菓子で、その歴史は2000年以上もさかのぼる。後漢時代(25~220年)に書かれた歴史書『呉越春秋』には、すでに「甘蜜丸」(甘い蜜薬)の記載が見られ、これが蜜煎について中国で最初の記録だとされている。 

唐の時代(618~907年)には、朝廷への貢物として果物を蜂蜜に漬けて保存していた。宋の時代(960~1279年)になると農業の生産、特に果物の栽培や養蜂、製糖業が発展し、蜜煎の作り方もより繊細になり、多くの種類が出回るようになった。宋代の蜜煎はおいしいだけでなく、見た目も華やかだ。 

南宋の宮廷では、蜜煎に彫刻を施すことがはやった。たとえば魚の姿をあしらった砂糖漬けのトウガンや、ハスの葉を彫った青ウメ、花の形に彫ったウメ、ミカン、タケノコ、ショウガなど、どれも小さく精巧で透き通るように輝き、しばしば宮廷の宴会を美しく彩った。 

現在、蜜煎に施す彫刻の技巧は、主に湖南省南西部の懐化市や、湖南省と貴州省の境にある靖州ミャオ(苗)族トン()族自治州の一帯で受け継がれている。材料選びから彫刻、加工まで一連の熟練の作業工程だ。使うのはまだ熟していない青いザボン(文旦)。まず円形か扇形で同じ薄さに輪切りにする。そこから豊かな想像力とアイデアを駆使し、植物や動物、魚、人物や器、縁起の良い言葉などの生き生きとした模様を彫っていく。 

その後、きれいな水ですすぎ、銅の鍋で沸騰するまで煮込む。さらにショ糖に漬け、天日干しや高熱での焼成などの作業を経て完成となる。こうして出来上がった蜜煎は、見事な造形と独特の職人技が光る精巧な芸術品で、見た目も味も抜群だ。 

梅の実 

新鮮な梅の実は少し酸っぱくて渋みがあり、一般的にそのままでは食べない。しかし何十種類もの蜜煎を作ることができ、女の子は特に酸っぱい味の梅の蜜煎が好きだ。45月は梅が熟する季節で、実の熟度によって蜜煎の食感も違ってきて、その成熟具合によって4種類に大別される。 

5割ほどに熟した梅の実は、さわやかな風味でカリっとした梅を作るのに適している。実をきれいに洗った後、軽くたたいて裂け目を入れる。続いて少量の塩を振ってよく混ぜ、1日置く。この間は絶えず上下ひっくり返したり、混ぜたりする必要がある。その後、水に浸し、何度か水を替える。苦味と酸味が抜けきったら、取り出して水気を切り、砂糖を加えてよく混ぜ、しみ出した汁を捨てて実の表面が少し乾くまで煮続ければよい。 

7割熟した梅は、塩漬け梅を作るのに適している。塩を振ってよくかき混ぜ、そのまま静かに2日間置いて味を染み込ませる。その後、汁を捨てて天日干しにし、時間をかけて水分を完全に抜く。梅の実にしわが出てきたら砂糖を入れて煮込み、煮汁が出てきたら火を止める。梅の実の塩漬けは、胃や腸の不調に効くと言われている。 

8割熟したものは、梅干しにするとよい。作り方は7割熟した梅と同じだが、天日干しの作業は不要で、そのまま砂糖を加えればよい。砂糖を加えるときに気を付けなければならないのは、少しずつ、かき混ぜながら加えることだ。こうすれば梅の実が小さくしぼむことはない。適度な甘さになったら茶葉を入れ、茶梅というサザンカの花の塩漬けにもできる。また、シソの葉やコーヒー豆、他の果物を入れればさまざまな風味を楽しめる。 

9割熟したものは梅酒に最適だ。梅の実を洗って乾燥させた後、1対1の割合で氷砂糖と米の酒を瓶に入れて約4カ月漬け込む。そして最後に塩を入れれば完成だ。塩の分量は約15の梅に対して500グラム強。梅酒は、痛風の原因ともなる尿酸値を下げる効果があるとされている。 

昔ながらの作り方を守る家庭では、これに、梅をかき混ぜながら重しの石を載せて苦い汁を滴り出す作業を加えている。まず氷砂糖約700を2、3回に分けて加え、梅をかき混ぜる。この動作と重しで苦い汁を滴り出す作業を繰り返し、苦い果汁を完全に出し切ったら、瓶に詰める。 

このとき、氷砂糖と梅を何層にも重ねていく。使う氷砂糖は約9で、好みに合わせてシソの葉などを加える。人によっては唐辛子を入れることもある。こうして半年ほど漬け込んだら完成だ。 

春の終わりの梅の実狩りの時期、梅園の梅の実は熟し具合でさまざまな色を見せる。「(べに)(うめ)」と呼ばれる赤い梅の実は、日陰の部分はまだ緑色だが、日が当たる面はほんのりきれいな紅色になり、とてもかわいらしい。小さな梅の実からでさえ、緑から紅色まで自然の光が織りなす変化が何とも絶妙に人の心を打つ。梅の蜜煎を作るのは酒を造るのと似て、じっくり時間をかけることが大切だ。海水で20年近く漬けた梅の実の蜜煎を買ったことがあるが、甘い香りに加え、胃腸を丈夫にし食欲を増進させる効果もあるという。 

もう1種類、生で食べられるヤマモモ(楊梅)がある。蜜煎や酢、酒にしてもおいしい。ヤマモモは中国では「珠紅」とも呼ばれ、標高300~1500の山麓に分布する。成熟の時期は5~7月頃で、江蘇省や浙江省などで豊富に産出される。 

その外側を見ると、赤い小さな粒がびっしりと詰まっていて、甘くてジューシーだ。気を付けなければならないのは、ヤマモモもブルーベリーやイチゴのように実が軟らかく腐りやすいことだ。だから収穫する際は、丁寧に素早く行わなければならない。取った後、梅の実のように1、2日置くと水分が抜けて小さくしぼんでしまうので、気を付けたい。 

一番良いのは、収穫後に洗わず、ビニール袋に入れてすぐに冷凍し、食べたいときに解凍して水洗いすることだ。私は収穫後すぐに米酢できれいに洗い、ガラス瓶に入れて酢やお酒を作るようにしている。この透明なガラス瓶を窓際に置き、日に日にヤマモモが小さくなって溶け出し、果汁が徐々に濃厚になっていくのを眺めていると、完成を待ち望む気持ちもシロップの赤い色のように弾んでくる。こうして水を使わず漬ければ、長期間保存できる。 

梅の実だけでなく、果物の皮も蜜煎にすることができる。たとえば、秋になってザボンが熟して黄色くなったら、厚い皮をむいて小さく切り分け、黒砂糖と一緒に電子釜の内釜に入れ、外釜には多めの水を入れる。何度もかき混ぜながら2、3回蒸し、最後に乾燥させれば出来上がり。甘さと苦味の両方が味わえる。苦いものを食べると体に良いという研究結果もあることから、これは簡単に手早くせきを止める良い漢方薬ともいえる。 

梅の実の酵素の作り方は簡単で、消毒した容器に、砂糖、洗った6、7分熟した梅の実、ミネラルウォーターを順に同じ割合で入れる。発酵した空気があふれ出るのを防ぐため、上に少し空間を残して漬けるのがコツだ。これを3、4カ月置いて完成したものを薄めて飲む。 

姚任祥Yao Renxiang) 

1959年生まれ。著名な京劇女優顧正秋(19282016年)の末娘で、国学の巨匠南懐瑾(19182012年)の弟子。16歳で芸能界にデビュー、初期の学園アイドル歌手の一人。現在、台湾を代表する建築家姚仁喜の妻で、3人の子の母親でもある。宝飾デザイナーで、美をこよなく愛し、20年来、さまざまなジュエリー作品のデザインを手掛けている。また作家としても活躍し、海外に留学する子どもたちが中国の伝統文化を忘れないようにと、『伝家』を出版した。 

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